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世界的アイコン・immaはどのようにして作られるのか? 仕掛け人に聞く「バーチャルヒューマン」の本質

2025.01.11
BurberryやCOACH、BAPEからdoubletまで、国内外のトップブランドがこぞってモデルに起用する日本のファッションアイコンがいる。『imma(イマ)』だ。バーチャルヒューマン・カンパニー「Aww」が開発した、CGでつくられた「実在しないモデル」である。
特徴的なピンクのボブヘアとフレンドリーな性格、不思議な芯の強さを感じるキャラクターはどのようにつくられ、なぜ世界に求められたのか。Aww CEOの守屋貴行さんに取材した。

PROFILE

守屋 貴行(もりや たかゆき)

20代で起業し、映像制作プロデューサーとして、広告、ブランディング、コンサルティング、CM、MVなどを手がける。2018年、アジア初のバーチャルヒューマン「imma」を制作し、株式会社Awwを設立。2021年、immaを起用した東京パラリンピック閉会式をプロデュース・監修。大阪・関西万博キャラクター選考委員。

時価総額世界トップの「NVIDIA」と手を組む

Awwが運用するバーチャルヒューマン『imma』
Awwのビジネスについて教えてください。
「バーチャルヒューマン(以下、VH)」の開発とプロデュースです。2019年に創業し、自社でVHを生み出したり、他社と共同で開発に取り組んだりしてきました。
VHは3DモデルやAIを活用した、人間によく似たキャラクターです。実在する人間のようにSNSを更新し、企業のプロモーションに起用されたり、ファッションモデルを務めたりしています。現在はYouTubeなどにも力を入れはじめています。
2024年6月に、半導体メーカー大手のNVIDIAと技術提携を発表し、NVIDIAが当時世界の時価総額1位だったこともあり大きな話題となりました。
NVIDIAのAI技術を活用し、AIと融合した新しいVHの進化を目指していく関係です。近年、自社専用のVHを持ちたい企業のニーズが高まっています。自社のPRやマネタイズの手段だけではなく、会社の案内や受付などの業務効率化という意味でもVHが注目されています。
NVIDIAからは数年前にも提携の話をいただいていましたが、当時は私たちから提供できるものが少なく、お断りしていました。今回再びオファーがあり、Awwにとってもフェーズが合っていたため関係がスタートしたという経緯です。
NVIDIA AI Summit Japanで展示された『imma』とリアルタイムで対話できるサービス
Awwの精巧な3Dモデルや自然な動きをシミュレートする技術が提携の決め手だったと。
本質はそこではありません。もちろんデザインやモデリング、アニメーションの技術は私たちの特徴です。AwwのVHは現在流行っている生成AIで生み出されたものではなく、オリジナルの3DCGデータを使用することで、著作権管理なども行えます。
ですが、テクノロジーは一般化していくものです。人間そっくりの3Dモデルはいずれ誰でも簡単につくれるようになるはずで、現在Awwでも効率化を進めています。
大切なのは「その3Dモデルとコミュニケーションをとりたいのか」ということです。実在しないVHに話しかけたくなる、関係を持ちたい。その欲求をつくりだす方法を私たちは常に考えてきました。
いわゆるキャラクター性、コンテンツにおける「IP(知的財産)」ですね。
はい。ストーリーテリングとプロデュースによってIPをつくれることが私たちの最大の強みです。NVIDIAとの取り組みの中心はテクノロジーですが、プロデュースやIPの観点も大きいのです。
芸能人も容姿が優れているだけで売れているわけではありませんよね。共感できるバックグラウンドやその人だけの物語、メッセージを持っているから人気が出ます。将来、人間と共存する新しいAIには「ストーリー」が必要なのです。

『imma』というMade in Japanの個性

『imma』は日本語の「今」、英語の「I'm gonna」を示すスラング、世界最古の宗教・ゾロアスター教の創造神が最初に話しかけた人間の名「イマ」からとっている
Awwを代表するVHが『imma』さんです。IPのプロデュースやストーリーテリングの面では、どのように設計され生まれたのでしょうか。
まず、immaは「日本」をバックグラウンドに持っている必要がありました。借り物のコンテクストでは、グローバルで勝負できない。神道のあらゆるものに命が宿るという生命観やサステナビリティの姿勢、海洋国家としての歴史風土、東京のカルチャーなどを掘り下げ、immaという個性をつくっています。
「日本らしさ」はimmaさんの造形にどのように生かされているのでしょうか。
特に「かわいい」という日本独自の価値観を落とし込むことに時間をかけました。’70年代に流行した「かわいい」はサンリオのような淡く柔らかな細い線で描かれた2次元のキャラクターという特徴があります。つまり本来は3DのVHにはなじみにくい。どのように取り入れるかを模索して「かわいい」をアップデートする必要がありました。
その結果生まれたのが、ストリートファッションを纏った、ピンクのヘアというスタイルです。外国人がイメージする日本の色は「ピンク」だといいます。きっと桜を想起するのでしょう。アニメから飛び出してきたキャラクターという意味合いもある。はじめて話すのですが、前髪がそろったボブは、実は川久保玲さんを意識しています。
COMME des GARÇONSデザイナーの川久保玲さんですね。たしかに同じ髪型です。
「黒の衝撃」[1]以来、世界を相手にファッションで挑み続けている川久保さんは、私自身がもっともリスペクトする日本人のひとりです。
VH事業を行っていると「AIは人間に害をなすものだ」といった批判に常にさらされます。Awwが『TED Talks』に登壇した際も、炎上に近いコメントがつきました。
TED conferences(2024年4月19日)より:「TED」のステージに初めてバーチャルヒューマンIPが登場した
でも、私たちは殺到するコメントを見ながら慌てることもなく、深く頷き、社内で話し合い始めました。
川久保さんは自身の活動について、「全員から評価されると不安になる」といったことを発言されています。VHという新しい事業を行うなかで、私たちは川久保さんの姿勢にも影響を受けているんです。

なぜファッション界は「実在しない彼女」を求めるのか

COACH “Find Your Courage”キャンペーン:Kōki,やカミラ・メンデスなどとともにメインアンバサダーを務めた
immaさんはモデルやアンバサダーとして錚々たるブランドに起用され、実在する服を纏ってきました。ファッション界がimmaさんに注目している理由は何でしょうか。
「先進性を描きたい」というオーダーをよくいただきます。そこには、昼間はストリートでハイファッションを着て、夜はオンラインゲームに熱中しているという新しいユーザー像が関係しています。アナログとデジタルのカルチャーを自然にミックスしている新しいターゲットにも、immaなら届けられますから。
ブランドのメッセージの出し方が変わりつつあると。
ええ。今後はリアルとバーチャルの垣根がなくなっていくでしょう。日本のファッションブランド、ANREALAGEのあり方は象徴的ですね。
現在、私たちは当たり前のようにオンラインでコミュニケーションをとっています。デジタルが生活に浸透し、自己表現もメディアを通して活発に行われるようになりました。
そのなかで「着飾る」という行為も変化していますよね。美容整形の流行はSNSが背景にあるし、『フォートナイト』で高額なスキン(ゲーム内でキャラクターに着せる衣装アイテム)を買う人もいる。メタバースに生活圏と経済圏ができればバーチャルファッションが常識になるでしょう。
リアルとバーチャルの価値が逆転するということですか。
いいえ、そういうことではないんです。バーチャルがリアルに勝てるか、という議論には意味がなく、リアルのほうがいいに決まっています。ただ、何らかの危機が生活環境をまったく変えてしまうということがある。私はもう一回パンデミックが起きれば、完全にバーチャルが生活の中心になると思います。
でも、それはリアルの価値が薄れるということではない。逆に、極めて贅沢なものに変わるでしょう。ストリートに出る。旅行に行く。バーチャルではない人間らしさは、もっと存在感を増していくのです。

バーチャルヒューマンは「人間は素晴らしい」と教えてくれる

immaのInstagramより:実在する場所に行き、人と交流する。SNSではオフショットのような日常的なスナップも多く投稿される
たしかにimmaさんが多くのVtuberなどと異なるのは、常に現実空間に軸足を置いている点です。
そうですね。immaを通して伝えたいのは「人間は素晴らしい」ということです。私たちはリアルな体験の価値を忘れがちです。そこに気付こうよ、というメッセージを発信したい。immaの裏テーマと言えるかもしれません。
VHだからこそ、人間らしさを肯定できるということですか。
そうとも言えます。まさにファッションはそうした楽しみ方そのものではないでしょうか。今まで行ったブランドとのコラボレーションでもっとも印象に残っているもののひとつはdoubletのショー(2022-23FW)です。
デザイナーの井野将之さんから、immaをパリコレで起用したいとオファーをいただきました。理由を聞くと「多様性を描きたい」とのことでした。人種や性別、さまざまな背景を持ったモデルが全員immaの仮面をかぶってランウェイに登場し、最後に仮面を脱ぎ捨て、自分自身の姿で楽しそうに歩きました。

doublet FALL-WINTER 2022-23 COLLECTION

immaを仮面として使ったショーの演出は、一見するとimmaを否定しているように感じるかもしれません。でも私はとても共感しました。immaは人間らしさを模倣し、人間を肯定する。でも自分だけは人間になれない。それが彼女の限界であり、コンプレックスです。
井野さんは、「人間ではない」というimmaらしさを受け入れて、見事に演出したと思います。そしてコンプレックスを抱えることは、共感を生むためにもっとも大切な要素のひとつです。こうしてVHは単なる3Dモデルを超えて、ストーリーを表現しながら成長していくのです。

《註》
[1]1982年、パリコレクション(1983SS)でCOMME des GARÇONSとYohji Yamamotoが行ったショーの通称。黒を基調色とし、激しいダメージや左右非対称な服を発表、賛否両論を巻き起こした

Text by GANTAN

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