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2023.04.25

「五島の椿」で産業と雇用を創出! スキンケアコスメがつなぐ五島列島の未来とは

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60年前、約15万人が生活していたという五島列島は、現在、そのころの3分の1程度まで人口が減少しており、社会問題に直面している。
この島に自生している「椿」に注目し、その椿の生命力を最大限に生かしたコスメを製造・販売することで、島の産業と雇用を創出することを目指す、五島の椿株式会社 取締役の岡田さんと広報の吉濱さんに、コスメを通じたサステナブルな五島の未来についてお話を伺った。

五島列島は椿の島

九州・長崎の最西端にある五島列島。152もの美しい島々からなる列島で、その大部分は西海国立公園に指定されており、今も手つかずの大自然が残っている。
遣唐使や空海ゆかりの地、潜伏キリシタンの文化が根付いたことで建てられた51の教会が残る島は、2018年には長崎の教会群とキリスト教関連遺産として世界遺産登録がされた場所でもあり、歴史的、文化的な魅力にあふれている。
「島には古くから藪椿(やぶつばき)と呼ばれる約1,000万本もの椿が自生しており、その数は日本一。椿から採れる椿油などは島民の暮らしに欠かせないものでした。
椿油の歴史は奈良時代までさかのぼるといわれています。遣唐使が大陸に向かうときに経由する最後の日本の土地が五島列島だったこともあり、続日本紀という文献の献上品目録には、島の椿油を中国への献上品として持っていった記録も残っています。
また、ひと昔前までは各家庭で椿の実を採って油にし、髪の手入れに使ったり、夏の農作業時の日焼けの予防として肌に塗ったり、葉を防腐剤代わりにお弁当箱に入れたりと、常に島民の生活に身近な存在でした」
五島列島の風景
五島列島の風景
「そんな豊かな自然と歴史のある五島列島ですが、現在島民の人口は5万人を切っています。島に大学がないため、進学する若者はもれなく島を出ざるをえなかったり、親世代が家業を継がせるメリットを見出せなかったりと、要因はさまざまです。
ただここ数年は、移住者が増加の傾向にあって、『子育て世帯が住みたい田舎ランキング』にも上位にくい込むなど、高齢化が進む一方で徐々に若者が増えてきている感があります」

島の宝「椿」を活用し、地域創生を目指す

「五島の椿プロジェクト」は、五島列島出身で一般財団法人松下財団の代表理事を務める松下剛氏の「地元に恩返しがしたい」という想いが発端となったプロジェクトだ。島の大切な資源である「椿」を軸とした産業と雇用を創出し、島の持続的な発展に貢献するという理念を掲げて立ち上げられた。
この「五島の椿プロジェクト」の前身となるのが五島市や地元生産者など産学官民の垣根を越えて集結し、約10年前にスタートした「椿研究会」だ。そこで椿を産業化すべく情報交換や勉強会を重ね、次のステップとして本格的に製品化するためにコスメブランド「五島の椿」の製造販売を行なう五島の椿株式会社が設立された。
「このプロジェクトでは、五島の椿株式会社だけではなく、椿に関連する大学や研究機関、県外企業、他の島内事業者たちが一緒になって五島列島を活気づけていくため、さまざまな取り組みを行っています。
また、五島が好きでプライベートでも五島を訪れていた俳優の吉永小百合さんが、松下代表の想いに共感してくださり、2020年2月から『椿サポーター』としてプロジェクト全体を支え応援してくださってもいるんです」
2023年2月開催の『吉永小百合×五島の椿 スキンケア商品発表会』の模様
2023年2月開催の『吉永小百合×五島の椿 スキンケア商品発表会』の模様

五島の椿を先端研究で最大化する

なぜ椿の葉は1年中肉厚で艶やかなのか、その美容効果を専門家とともに独自に研究を重ねたことで、100%五島の椿から抽出した自然由来の成分でありながらも、これまでにないスキンケア商品が誕生したという。
五島の椿 左から椿酵母せっけん、椿の葉 保湿水、椿酵母オイル(フェイス)
五島の椿 左から椿酵母せっけん、椿の葉 保湿水、椿酵母オイル(フェイス)
「椿の葉から採れる美容成分の抽出に世界で初めて成功したことも当ブランドの強みです。中でも、『椿葉クチクラ』は世界初の化粧品成分としてINCI[1]登録も完了しました」
もともと五島市商工会が発見した椿の酵母は、-80℃という低温で凍結させて保存する必要があるといった管理コストの問題や、それを研究するとなると莫大な費用がかかることから、なかなか製品化に進めない現状があったという。
そんななか、「椿の花は温かい」という島の言い伝えをもとに、研究の過程で実際にサーモカメラで花の温度を測ったところ、花の中の温度が外気温より5℃も高いことが確認できた。
これは、酵母が椿の蜜の糖分を発酵させて温度を上げているとも考えられる。なぜ椿の花には雪が積もらないのかというその秘密が、酵母にあるのではないか?と現在も研究を進めている。
「今回その酵母を、地元の方が使いたいときは従来通り提供するという取り決めの中で五島の椿株式会社が有償で譲り受け、管理、研究を進めることで、『椿酵母エキス』という有効な美容成分の化粧品原料化にも成功しました」
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