「盛り」というワードが定番化して久しいが、平成の頃と比べると「盛り」もだいぶ進化してきた。2006年頃のプリントシール機で人気だった「盛り」は、スマホの普及とともに加工アプリへと波及し、最近ではAIが世間を賑わせている。
スマホで自撮りをするには欠かせないくらいの存在となっている加工アプリだが、その技術の現在地はどこにあるのだろうか? そして、目が離せないAIは今後どのような未来へと向かっていくのだろうか?
今回は、シンデレラテクノロジーや、盛り文化を研究している久保友香さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
久保 友香(くぼ ゆか)
博士研究者。専門はメディア環境学。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員など歴任。日本の視覚文化 の工学的な分析や、シンデレラテクノロジーの研究に従事。
著書に『「盛り」の誕生―女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識―』(太田出版、2019年)、『ガングロ族の最期ーギャル文化の研究―』(イースト・プレス、2024年)。
日本人の美意識がまさに「プリクラ」だった
基本的に私たちは技術者が生み出したテクノロジーを受け取る側だ。技術者とともに同じ時代を歩んでいるのにも関わらず、彼らから受け取ったテクノロジーは数知れない。
何気なく生活に溶け込んでいる、プリクラも加工アプリもそのひとつだ。
平成から現在までを振り返るとかなりの進化をとげているが、久保さんが「盛り」や「加工」の研究を始めたのには、どのような背景があるのだろうか。
「元々、技術系の研究者として画像処理をテーマにしていました。次第に顔の画像処理の技術を研究するようになったのですが、顔となると、水の表現などとは違って、自然現象に近づけることを目指すだけではなく、文化についても立ち向かうことになりました。それがのちに『盛り』の研究を始めることに至ります」
CGや画像処理は、主にアメリカのハリウッド映画のための技術が進んでいた。そこで彼女は、アメリカとは異なる日本の文化にある美意識を、そういったものに取り入れることはできないかと考えた。
最初に、過去から現在までの日本の美人画の特徴の数値化に着手した。浮世絵や絵巻からも分かる通り、日本の美人画はデフォルメされて、フォトリアリスティックではない。そこに日本人の美意識が表されていると考えた。それをCGや画像処理の技術に組み込む手法を開発し始めたのだ。
歴史を中心に研究していた過程の中で、過去ではなく未来に目を向けたときに、美人画に表れる日本人の美意識を組み込んだ技術に似ていると感じたのがプリクラだったという。
「まず日本の美人画と『Popteen』の表紙が似ていると気づいて、 買い始めていたのです。共に、そこに登場する女の子たちの顔がそっくりに見えて、それはデフォルメしているからだと考えたのです。その頃、たまたま図書館で隣の女の子たちが、プリクラの話をしていて、私が若い頃に撮っていたプリクラは今もあるんだと知って、すぐ撮りに行ってみました。
プリクラも『Popteen』や『小悪魔ageha』の表紙のように、写真の加工をしてデフォルメしている。しかもプリクラはそれを自動化した画像処理の技術なので、プリクラメーカーさんは絶対に数値化しているので、私がやりたいことと似ているのではないかと思いました。
その頃、女の子たちの声に耳を傾けると、『Popteen』の表紙やプリクラ写真に見られるデフォルメのことを「盛り」と呼んでいることに気づきました。それで、美人画のデフォルメの研究から、現代の女の子の『盛り』の研究へと移っていった感じですね」
日本発のプリクラの顔画像処理は圧倒的に進んでおり、久保さんが考える、日本的な美意識が詰め込まれていた。
そして、「盛り」の画像処理の技術は、2010年頃以降はスマホが普及することによって、今度は「自撮り」という文化と組み合わさった。