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2020.12.11

AI刺繍機でファッションを革新する!タジマ工業株式会社が刺繍で切り開く未来とは?

タジマ工業株式会社は11月、AIによって刺繍の仕上がりを自動化した「i-TM(intelligent Thread Management )」を搭載した刺繍機「TMEZ-KCシリーズ」を販売開始した。今まで刺繍機は熟練者が上糸の調整を経験と勘で行っていたそうだが、「TMEZ-KCシリーズ」では熟練者の技術をカバーするテクノロジーを搭載することに成功したそうだ。今回はタジマ工業株式会社マーケティング部、嶋田さんにその開発やテクノロジーについてお話を伺った。

繊細な縫いをアルゴリズム化したAI刺繍機

「TMEZ-KCシリーズ」に搭載された「i-TM」は、通常の縫いとは違い全方位に縫い進む刺繍の仕上がりをアルゴリズム化している。その開発において、縫いに関わる技術、根幹部分とアルゴリズムはタジマの専門チームで研究開発し、上糸をコントロールするための高精度で応答性の高いモータ、及び高速応答のソレノイドの制御機能はパートナー企業と共に作り上げたという。
上記に加えて、「DCP」という布押えをデジタル的にコントロールする機能によって、素材のばたつきを抑え、刺繍を精密に美しく仕上げることができる。「DCP」はタジマの開発チームが完全社内開発で個別のモータ制御式の布押えの開発を行ったそうだ。結果的に、縫い始めの生地のばたつきを抑えるだけでなく、「i-TM」では「DCP」の技術をベースに、毎針の生地の厚みを計測できる機能に進化させ、その値を「i-TM」の制御に組み込めるように改良したと嶋田さんは教えてくれた。

熟練者の技術をAIに変換するアイデア

左:従来の調整台/右:「i-TM」
左:従来の調整台/右:「i-TM」
冒頭にも書いたように、刺繍機の上糸調整には熟練者の経験と勘といったものが必要だったそうだ。嶋田さんは次のように言う。
「上糸調整は刺繍の縫い上がりに直結する部分で、熟練者が経験と勘で、多頭式刺繍機の縫いヘッド毎に手でツマミを回し、上糸にかける荷重を調整していました。つまりオペレータの経験の差が仕上がりの均一性に影響していたのです。」
人の経験や勘が物を言う上糸調整をどのようにアルゴリズム化しているのだろうか?
「『i-TM』は、上糸をアナログ的に調整するのではなく、一針ごとに縫いに必要な上糸を事前に供給する仕組みとしました。荷重ではなく美しい刺繍に必要な上糸の長さに着目したのです。刺繍データとDCPの動きを解析し、ステッチ長、ステッチ方向、生地厚など様々なデータから適切な上糸の長さを割り出しています。また、上糸の流れをリアルタイムでモニタリングし、ステッチ形成時の糸締りの補正もデジタル的に処理しています。」
このように、上糸にかける微細な力加減を上糸の長さに着目して解決し、アルゴリズム化に成功しているのだ。

スマートファクトリー化を目指して

画像:丸田ししゅう様(TMEZ-KC導入)提供
画像:丸田ししゅう様(TMEZ-KC導入)提供
不良品のロスや時間のロスといったものを解決するAI刺繍機だが、実際の生産現場ではどのように役に立つのだろうか?
「刺繍機を導入している生産工場では、オペレータに多くの海外研修生を受け入れているケースもあります。研修生は短期間で入れ替わる場合も多く、言葉の壁による認識の違いが生じることで、 オペレーションに対する理解が不十分でロスの発生に繋がるという問題点があります。AI刺繍機を導入することで、主に人材教育に関する課題を解消し、省力機として活用できることを期待しています。」
人材教育の負担が減り、さらにオペレータへの負担が大幅に減ることが容易に予想できる。それだけではなく、小売の現場でもこの刺繍機は活躍しそうなのだ。
「『i-TM』を搭載した単頭刺繍機『TMEZ-SC』も最近ラインナップしていますが、刺繍機のオペレーションの敷居が下がった為、アパレルショップの店頭やバックヤードに刺繍機の設置が進んでいます。刺繍カスタマイズサービスを店頭で行うことで、ギフトを主とした商品へ刺繍が取り入れられ、取扱商品の付加価値が高まる点でとても実用性が高いと見込んでいます。」
ファッションの製造に関して模索している技術開発は、スマートファクトリーに向けた「ソフトウェアの開発」だという。また、自動化することで、オペレータの手作業を刺繍機側に移行できるかが、一つのゴールだと嶋田さんは話してくれた。
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#FactoryTech
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