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2024.04.04

美術館にモードが誘われるとき:ポンピドゥー・センターの特別展から見るアートとファッションの共鳴

絵画と服飾を見事に橋渡しした展示が今パリで行われている。ポンピドゥー・センター内、国立近現代美術館で行われている特別展「La traversée des apparences Quand la mode s’invite au Musée(見えるものの向こう側 美術館にモードが誘われるとき)」がそれだ。
同展は、20世紀および21世紀のファッションデザイナー17人の衣装を、同美術館の5階にある常設の近現代コレクションに合わせる形で展示。1905年から1970年代頃までの各画家と、服飾デザイナーの共鳴を楽しむ催しだ。
展示手法は、絵画に合わせた衣装を対で陳列するというもの。衣装が新たに増えただけで、展示室がまったく新しいものになっている一方で、以前からそこに陳列してあったかのような親和性も、加えられた衣装が見せてくれる。
キュレーターを務めたのは、イヴ・サンローランの伝記を書いたジャーナリストのローレンス・ベナイムだ。同氏によるキュレーションは、2022年に同所で開かれた「イヴ・サンローラン・オ・ミュゼ」以来である。

大家マティスには巨匠サンローランをあてる

入り口で迎えてくれるのが、ヴィクター&ロルフの1993年のコレクションだ。その立体感は、服ではあるが工作物のようにも見える。
展示室へ入ってみよう。最初にテベ・マググとエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーが出迎えてくれた。
南アフリカ出身のマググは、アフリカ大陸出身のデザイナーとして初めてLVMH賞を取った人物だ。衣装自体もツワナ人(アフリカ南部に暮らす民族)の母子が描かれたアフリカ的なモチーフ。しかし、そこにドイツ表現主義のキルヒナーが描いた『鏡の前の女性』が、しっかりと呼応している。
奥へ進む。イヴ・サンローランとアンリ・マティスの共演が現れる。
かつて、サンローランは「女性のもっとも美しい服は、裸体だ」と述べたという。そのサンローランが1969年秋冬オートクチュールコレクションで発表した衣装が、マティスの『豪奢Ⅰ』にあてられた。マティスはフォーヴィスムを体現した20世紀前半を代表する画家。巨匠同士が、しっかりと四つに組んだ演出だ。
4着目はコムデギャルソンとフランシス・ピカビアの展示だ。コムデギャルソンの衣装は「ランドスケープ・オブ・シャドー」をテーマに発表された、モノクロを主とした2021-2022年秋冬コレクションのもの。ピカビアの『ウドニー(若いアメリカの少女:ダンス)』から目に飛び込んでくる基調となる黒、彩色との対比が美しい。
続いてはポピー・モレニとジョルジュ・ルオーのペアだ。モレニの衣装は1988-1989年秋冬コレクションから。ルオーの『道化師』と響き合う。

シャガールの青から続くイリス・ヴァン・ヘルペンの宇宙

次は、シャルル・ドゥ・ヴィルモランの2021年春夏オートクチュールコレクションが人々を迎え入れる。
この場所からは少し展示手法に変化が入る。今まで壁沿いに飾られていた衣装が中央に。その周りを絵画が囲む形だ。
現在27歳のヴィルモラン。次世代を牽引するデザイナーは、帝政ロシアに生まれ、パリにおいて活躍したソニア・ドローネーの作品群のパートナーに選ばれた。両者の色彩が訪れる者を惹きつける。
7番目はイリス・ヴァン・ヘルペンの2019年春夏オートクチュールコレクションだ。対するは、マルク・シャガールの『エッフェル塔の新郎新婦』である。宇宙をイメージして作られたヘルペンによる青の衣装と、シャガール絵画の特徴である「シャガール・ブルー」の対比が美しい。
前半の最後は、チュニジア出身のアズディン・アライアの2003年オートクチュールコレクションが、マルセル・ブロイヤーの食卓と椅子に組み合わされていた。絵画だけにとどまらない、ベナイムによるキュレーションの妙である。
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