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2023.10.11

ファッションの常識を覆す、ユージン・スレイマンが創り出すヘアの真意

ヘアスタイルは、人物像を表現する上で欠かせないピースである。特に、独自の世界観をビジュアルで伝えるファッションの世界において、ヘアスタイルは服同様に重要な存在といえる。
そんなファッション業界で長きにわたり第一線で活躍し、“最も独創的なヘアスタイリスト”と称されるユージン・スレイマン(Eugene Souleiman)は、「まるで息吹を与えるかのように、髪は別の人格を生み出すことさえできる、スピリチュアルな力を持ったもの」だと表現する。
イーストロンドン生まれの彼は、1982年に美術大学を中退して美容専門学校に進んだ後、伝説のスタイリスト、トレバー・ソルビーのアシスタントとして業界入りした。

ブランドのクリエーションに適応し、完璧なヘアスタイルを導き出す

ユージン・スレイマンの名を一気に押し上げたのは、1995年「JIL SANDER(ジル サンダー)」のキャンペーンだ。
1995年「JIL SANDER」のキャンペーン
1995年「JIL SANDER」のキャンペーン
その後は「MAISON MARGIELA(メゾン マルジェラ)」、「HERMES(エルメス)」、「VIVIENNE WESTWOOD(ヴィヴィアン ウエストウッド)」、「JUNYA WATANABE(ジュンヤ ワタナベ)」といったビッグメゾンからデザイナーズブランドまで、数多くのキャンペーンでのコラボレーションとランウェイヘアを手掛けてきた、生きる伝説として知られている。
彼が手掛けるヘアスタイルの魅力は、唯一無二の独創性にある。前述したブランドは彼が携わったほんの一部にすぎないが、これだけを見ても彼の創造性のバリエーションが無限なまでに幅広いことがイメージできるのではないだろうか。
ミニマルな中にエッジを効かせる「JIL SANDER」を筆頭に、「MAISON MARGIELA」は脱構築的な美しさとフューチャリスティックな世界観を掛け合わせており、「HERMES」は至高のエレガンスを、「VIVIENNE WESTWOOD」と「JUNYA WATANABE」は非凡なパンキッシュを芸術的に表現する。
ユージンのヘアスタイルは、毛色の異なるこれらブランドのクリエーションの一部として、デザイナーが外へと向けて表現する物語の語り部となる。
画像提供:映画『メドゥーサ デラックス』
画像提供:映画『メドゥーサ デラックス』
まるで環境に応じて変幻自在に自らの色を変えるカメレオンのように、彼は各ブランドのクリエーションに適応して完璧なヘアスタイルを導き出す。
各デザイナーの作品のインスピレーション源である写真やデザイン画を見て、その世界観を瞬時に自分の中へと取り込み、ヘアスタイルとしてアウトプットするのだ。その優れた美的感覚と創造性は生まれ持った才能なのか。
画像提供:映画『メドゥーサ デラックス』
画像提供:映画『メドゥーサ デラックス』
この質問に対しユージンは、「大切なのは挑戦すること」だと教えてくれた。
「常に自分自身に課題を与え、コンフォートゾーンから抜け出さなければならないと思う。『あなたは達人だ』と言ってもらえることもあるが、私は自分のことを学生のように学び続ける必要があると感じているんだ。
約30年というキャリアは長いように聞こえるが、時間の経過は関係ない。それに、絶え間なく成長していると実感するのが好きだし、そのために挑戦に対してオープンな姿勢を持ち、物事を多角的に捉えることを意識している。
素晴らしいトレーニングを受けて、技術を身につけるのも不可欠だが、同時に、技術の奴隷になってはいけないんだ。それらを進化させ、分解し、再構築し、また解体して、習得したものを磨き続けることが重要だ」

約30年のキャリアの中で初挑戦

そんな彼の新たな挑戦となったのが10月14日から公開予定の映画『メドゥーサ デラックス』だ。この作品の中で、壮麗で幻想的なスタイル、もしくは非現実的で芸術作品とも呼ぶべき、観客を魅せるヘアを創り上げた。
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