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2023.05.11

黒染めのプロフェッショナル 伝統技術を守り、現代に合わせて進化する染屋

気になるシミや汚れがついてしまいこんでしまった服、または捨ててしまう服、それらがもう一度着られるようになる可能性はないだろうか。

京都を拠点に100年以上「黒染め一筋」の染屋として事業を行ってきた株式会社京都紋付では、汚れてしまった服やアパレルの在庫品を黒く染め直してアップサイクルするサービスKUROZOME REWEAR FROM KYOTO「K」を展開している。

今回、同社の4代目社長・荒川 徹さんにインタビューを実施。伝統技術を守り、現代に合わせて進化する染屋の在り方について話を聞いた。

PROFILE|プロフィール
荒川 徹
荒川 徹

株式会社京都紋付 4代目社長

伝統産業を継承へ

貴社の創業背景や経緯について教えてください。

1915年の創業以来100年以上、黒色専門の染屋として、“より黒く、美しく、色落ちしない黒”を追求してきました。紋付とは京都の黒色専門の染め工場で染められている黒い着物です。着物の第一礼装として位置づけられており、黒く染められた生地に家紋が5つ描かれています。

染めることが非常に難しいシルクの紋付を長年染め上げてきた技術を生かし、綿、麻、ウールなどの天然繊維にも深黒加工という独自の技術を用い、これまでの洋装にはない、深い色合いの黒染めを実現しています。

日本において黒色の表現は「黒」一つだけではありません。漆黒、消炭色、濡羽色、墨色など、さまざまな表現があります。日本人は陰影の文化を楽しみ日本人独自の美を追求してきたと言えます。黒という色に、豊かさを見出してきた日本だからこそ、黒の神秘性と陰影を感じる文化が生まれたと考えています。

実際に、どうやってより黒く染めているかというと、染料で染めた後に繊維に光を吸収する物質で加工をして、光を吸収する事で黒く美しく仕上げています。光を反射しないで吸収する事で美しい黒を表現しています。これが、黒をより黒く染め、同時に撥水効果も実現できる「深黒(しんくろ)」という技術になります。

しかし、近年マーケットが急激に縮小したため、この紋付だけではビジネスを維持することができなくなりました。着物市場は1975年には2兆円規模でしたが、現在は2,000億円程度に。紋付市場も年間300万反から5,000反以下になっており、黒紋付の組合員数も最盛期の100事業所以上から現在は3事業所にまで減少、2022年3月には組合が解散してしまいました。このような状況下で伝統産業の崩壊も危惧されることになり、特に黒染め業界は崩壊寸前となってしまったのです。

我々はなんとしてもこの伝統産業を継承することが重要だと考えています。たとえば、紋付は宝塚歌劇団の卒業式や歌舞伎役者の衣装にも使われており、天皇陛下の叙勲の際にも第一礼装として着用されています。この技術が失われると、伝統芸能の衰退にもつながりかねないため、核となる技術を守り、需要のある形に変化させ、発展的に残していく必要があると考えました。

私たちの事業の強みは「黒一筋に100年」という点です。どこにも負けない黒色・高い堅牢度・撥水性・安全担保を兼ね備えた“卓越した独自技術”があります。

その強みを生かして2001年からVivienne Westwood、Champion、MIHARA YASUHIROやSTUDIOUSなどと、国内外問わず様々なアパレルブランドの黒染加工を請け負ってきました。

2013年には博報堂を通じて、「PANDA BLACKプロジェクト」をWWFジャパンとコラボレーションで行うことになりました。これは古着を黒に染め替えることで新品のように再生させ、衣服のリユースを促進することで環境保全を意識したライフスタイルを提案するプロジェクトです。この辺りが弊社としても大きな転換期となっておりまして、以前は、消費者から洋服を送ってもらい、その重量を測って見積もりを提示し、見積もりに納得いただいたうえで染めの作業に入るという方法を取っていましたが、これだけではこの技術を普及させるのに時間がかかるため、2020年にスキームを変更しました。

このスキーム変更というのが、1.重量によっての見積りから、アイテムによる見積りに変更し、さらに自社のホームページで受注するだけでなくパートナーを募集してアフィリエイトのスキームを活用してパートナーにコミッションを支払い受注を広げる、2.新品を販売する時点から、黒染めによる染め替えを意図した商品企画を行い、一着で2回デザインを楽しめる衣類の提案、3.(一社)REWEAR協会を設立し、染め替えや再生繊維の活用、廃棄衣類の削減、啓発活動などを行っています。これにより、世の中に染め替えの概念を広く知らしめることで、廃棄衣類の削減と黒染めの技術継承を目指しています。

そして、新たに2021年9月6日(黒の日)にKUROZOME REWEAR FROM KYOTO「K」が立ち上がったのです。

KUROZOME REWEAR FROM KYOTO「K」では、どのような手順で染め替えを行っているのでしょうか。

染め替えの工程は大きく2つあります。まず、すべての古着を黒染めしてから、自然竿干しで乾燥させます。その後、深黒加工を行い美しい黒に仕上げます。この工程全体で約1週間から10日かかります。

ご依頼が多いのは、ジャケットやパンツ、ブラウスといったアイテムですね。それ以外にも、トートバッグやソファカバー、カーテンなど変わったアイテムも扱っています。

様々な衣類を染めているなかでおもしろいところは、綿の生地にポリエステルで刺繍が入っていると、ポリエステルの色がそのまま残り新しいデザインになります。また、プリントはたいがいの場合そのまま残ります。素材の混率やプリントによって新しいデザインとなり変化が面白いのです。

御社では環境に配慮した染め替えを行なっているのですよね。

私たちは有害物質の不使用や衣類の染め替え促進を通し、環境保全にも取り組んでいます。京都紋付においても、有害とされるアゾ染料は一切使っておりません。

2016年4月に発がん物質を生成するアゾ染料が規制されましたが(ただし着物業界の技術を継承するために暫定法で着物業界においては使用が認められている)、当社ではすでに1996年にアゾ染料の使用を自主的にやめて、消費者に安全安心を担保しています。

しかし百貨店では、着物関連商品を扱う場合、アゾ染料を使用していないことを宣言する必要があります。私たちは1996年にはすでにアゾ染料の使用を止めていたため、百貨店などの取引先などからも技術を評価いただいておりました。

最後に、今後挑戦したい取り組みなどがありましたら教えてください。

伝統産業を発展させるためには、その技術の核なる部分を頑なに守るつつ、今の世の中に必要とされる形に変化させないと発展的に継承できません。

これからより世界へ発信していくために、私たちは近畿経済産業局と協力し、近畿の伝統産業従事者でグループを結成し、2025年の大阪万博に出展し世界に向け
て黒染めだけではなく伝統産業の技術を発信する事を考えています。

さらには、伝統産業だけに頼っていては衰退してしまうため、現代の生活スタイルに合わせた提案をする必要があると考えています。単に紋付サービスを提供するだけで
は不十分であり、私たちはその技術を現代的な要素と組み合わせて提案することが必要だと感じています。

そのため、私たちは様々な手段で提案を行っています。アパレルとのコラボ、DXの活用、黒染技術の用途開発など今後も伝統を継承しながら革新を起こし進化していきます。

京都・二条城で展示会を行い、京都紋付が黒に染め直した服などのアップサイクル製品を展示した
京都・二条城で展示会を行い、京都紋付が黒に染め直した服などのアップサイクル製品を展示した
#Sustainability
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