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2022.04.27

香りを暮らしの一部にするOKO LIFE

日本の伝統芸能の1つである香道。その世界を楽しむための入り口として、お香は手軽に扱えるものだ。昨今、リモートワークによる疲れを癒やすための気分転換としても、お香が使用されている。しかし、お香を本格的に知りたいとなったときには、専門性が高く、戸惑ってしまう人も多いのではないだろうか。
そこで今回、200年以上続く京都の香舗の系譜を引き継ぎ、お香のサブスクリプションサービスOKO LIFEも運営している、香雅堂の代表である山田悠介さんにインタビューを行った。いまの香道やお香を取り巻く状況、お香の世界の楽しみ方についてお聞きした。
PROFILE|プロフィール
山田悠介
山田悠介

1986年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業。大学在学中より香雅堂で仕事を1から学び、卒業後はIT系企業に就職する。2011年に香雅堂に入社。香道志野流・茶道表千家の門弟。村上春樹さんを尊敬し、テニスをプレイ&観戦することが1番の愉しみ。

お香を身近なものに

最初に香雅堂の概要について教えて下さい。
香雅堂は東京都港区麻布にあるお香のお店です。1階が店舗になっていて、香道で使用するお道具や、香りを鑑賞する香木の販売をしています。スティックタイプのお香や香袋など、暮らしのなかで使いやすいお香も扱っております。
これまで化粧品ブランドSUQQUの香りを監修して話題になるなど、さまざまな企業とコラボレーションをされていらっしゃると思いますが、その経緯や思いをお聞かせください。
僕が香雅堂を始めたのは10年ぐらい前なのですが、この2、30年で「香木」という資源がまったくと言っていいほど採れなくなってきたというのが、大きなきっかけとしてあります。
それまでは上質な香木を手に入れて販売をしていれば、基本的にビジネスが成り立つ状況でした。ですが、昨今の経済状況も相まって、それだけではちょっと立ち行かなくなってきたときに、あらためてお香、和の香りが社会に対してどんな役割を果たせるのかを、いろんな業界の方と協力しながら模索しています。
香木とは、どのように採取されるのでしょうか。
香木にはいくつか種類があり、最も貨幣価値が高く、主人公的存在として扱われるものが「沈香」と言われるものです。1本の木が生えているときに、その木全体が香るのではなく、一部が傷つき、その傷口を守ろうとしたり治そうとしたりして、樹脂が集まってくるんですね。その部分が沈香に変化します。
この変化のメカニズムは未だにわかっておらず、作ることができないものです。なので、見つかった上質な沈香を現地の香木ハンターが手に入れて、それがある程度貯まってくると小さな市場ができ、そこで仕入れることができる状況が、30年くらい前を最後に起こらなくなってきました。
山田さんは一度就職してから家業を継いでいらっしゃいますが、そのような経緯に至った背景と現在の活動の結びつきを感じることはありますでしょうか。
僕は江戸時代から続く香木を扱う家に生まれたのですが、親から香雅堂を引き継いでほしいと言われたことはなかったですね。大学4年生になって就職先も決まり、家の仕事を見てみようと思って、暇な時間にアルバイト的に手伝いをしていました。その後、就職してIT系の仕事を始めましたが、お店の手伝いをしていると段々と楽しくなってきて、ズブズブとハマっていったという経緯があります。
そこでITの経験が活きたかという話ですが、ある意味で活きていると思います。IT業界では当時オープンソースという言葉がよく使われていて、「みんなで良くしていこう」、「フェアな議論をしていこう」という思想が好きでした。
お香の業界は、IT業界とはすごく真逆の世界なんです。それが良い悪いということではなくて、秘密めいているからこその魅力がお香の世界にはあるんですね。僕がお店を手伝い始めたときに、お香のパッケージを見て驚いたことがあったのです。
食べ物であれば原材料が書いてあり、それを見比べて「こっちの方が好き」、「こっちの方が健康に良さそう」という基準で選びますよね。でも、お香のパッケージをみると「爽やかな森の香り」しか書かれていなくて、「それで終わり?」という印象を受けました。もう少し内容がわかるほうが、お香を買った後も「この原料が使われていたから、僕は好きだったんだ」と、発展できる可能性がある気がしたんですね。
そういった背景もあって、僕たちが開発するお香は、基本的にすべて原材料や大まかな割合も表示しています。いま思うと、IT系の会社で働いてたときの経験が現れていると感じますね。
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