Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2024.03.26

アンティークボタン 直径数センチの世界史【谷中レッドハウスボタンギャラリー】

たとえば、クローゼットの中にあるお気に入りのシャツを思い浮かべてほしい。生地の色合いや襟の形、纏ったときのシルエット。ではそのシャツに「ボタン」はいくつついているだろうか? 5個か、6個か。服を着るときに必ずと言っていいほど触れるパーツでありながら、意外なほど注意を払っていないことに気が付く。
しかし、なかにはボタンに魅了され、自らギャラリーを開いているほどのコレクターがいる。東京都台東区の住宅街にある「谷中レッドハウスボタンギャラリー」。そこには美意識を刺激する無数のアンティークボタンが展示・販売されている。
本記事ではそのギャラリーオーナーであるドリーヴス公美さんに取材。服に必須のパーツであるボタンが記録したファッションの営みの歴史に触れてみよう。
PROFILE|プロフィール
ドリーヴス 公美(どりーゔす くみ)
ドリーヴス 公美(どりーゔす くみ)

谷中レッドハウスボタンギャラリー・オーナー

今とはまったく違う、200年前のボタンの使用法

「谷中レッドハウスボタンギャラリー」について教えてください。
2013年にオープンした、18世紀~19世紀以降の欧米のアンティークボタンを中心に所蔵・展示する私設の博物館です。ボタンにはとてもユニークな歴史があります。現在のボタンはほとんどがプラスチック製です。貝や金属や水牛製もありますが、かつてはもっと多様な素材とデザインがありました。きらびやかなガラス製や、象牙製。ベークライトやセルロイド。牛乳に含まれる成分を樹脂に使用した、柔らかな質感の「カゼインボタン」など。今ではほぼ見られない素材のボタンも一部は販売しています。
サイズも現在と比べて大ぶりのものが多いですね。見とれるような美しさがありますが、今のファッションにはどう合わせていくのでしょうか。
ボタンは大きさやデザインがそろっていなくても良いのです。お気に入りのカーディガンに好きなものをつけてみるだけで空気感が変わります。サイズが合わなくて使えないと思われるかもしれませんが、ボタンホールは簡単に広げたり狭めたりできますから。
20世紀中頃のセルロイドボタン。最もデザインが多様化し遊び心に溢れた時代の製品
20世紀中頃のセルロイドボタン。最もデザインが多様化し遊び心に溢れた時代の製品
販売しているボタンはあえて大きさや種類の異なるものをセットにしています。
というのも、今ではほとんど知られていないのですが、もともとボタンは「その日の気分に合わせて付け替える」ものだったんです。
必ずしも服とボタンはセットではなかった?
そうです。「ボタンを着替える」というとらえ方が近いですね。このボタンを見てください。英国のプリントボタンですが、ひと揃えが箱入りでセッティングされています。
プリントボタン(20世紀)
プリントボタン(20世紀)
そのモチーフは動物やスポーツのシーンなど。このように自分の趣味に合わせ、あるいはシーンに合わせて服とボタンをコーディネートするようなカルチャーがありました。欧米では「洗濯」を毎日しない時代が長かったという文化的な背景もあります。
こう見ると、同じ服に同じボタンをつけておくというのはごく最近の常識で、歴史的に見ればむしろナンセンスだと思いませんか?
1 / 2 ページ
この記事をシェアする