作品と環境が調和した空間に出くわすと、全身が深くその空間へ沈み込んでいくような感覚に陥る。作品が単体で発する鋭利で短い波長ではなく、水面に浮かべた布が水を含みながらジワリと沈下していく様子に似た、重く長く、心地のよい波長だ。
私はその感覚を、アーティスト・
奈良祐希さんの陶芸作品「ボーンフラワー」が、イタリアの家具ブランド「
ポルトローナ・フラウ」が特別にしつらえた展示台に収まっていたときに感じた。
陶芸家と建築家の二刀流で、金沢を拠点にこれまでにないアートのかたちを社会に提示する奈良さんに革へのこだわりを聞く。
PROFILE|プロフィール

奈良 祐希(なら ゆうき)
陶芸家、建築家、アーティスト
建築デザインラボ EARTHEN ディレクター
350年続く大樋焼と現代アートの融合
石川県金沢市に、大樋焼という350年の歴史を持つ窯がある。加賀藩5代藩主・前田綱紀が、1666年に茶道の普及のために京都から仙叟(裏千家4代・千宗室)を招いた際に、大樋長左衛門という陶工が随伴した。長左衛門はその後も金沢に残り、初代となってその名跡は現代まで金沢で続いていくの だが、奈良祐希さんはその当代11代・大樋長左衛門の年雄さんを父に持つアーティストだ。祐希さんの作品は伝統工芸と一線を画す。将来12代を継ぐ立場ではあるが、現役の建築家でもある。飴色で手捻りの造作が温もりを感じさせる伝統的な大樋焼に対して、祐希さんの作品はCADでデザインされ、素材に牛の骨灰を用いた無機質で輝く白。そこに今回コラボレーションをしたポルトローナ・フラウは、牛革の表情が美しい展示台を据えている。