Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo

キャロル・コレット「領域横断のデザインが可能にする、惑星規模の変化」

ファッションレーベルwrittenafterwardsのデザイナーであり、ファッションを学ぶ場「ここのがっこう」の主宰でもある山縣良和氏とお送りする特集企画「生命の循環:装いの歴史と未来」。今回は、1990年代よりサステナブル・デザイン、バイオ・デザインとテキスタイル・デザインを架橋した研究の第一人者として、領域を牽引してきたキャロル・コレット氏をお迎えします。
テキスタイルのデザイン方法に疑問を持ち、現在ではファッション・デザインの垣根を超えて、デザインそのものについて包括的に検討しているコレット氏の考える、変化についてお聞きしました。
PROFILE|プロフィール
Carole Collet(キャロル・コレット)
Carole Collet(キャロル・コレット)

イギリス・ロンドン拠点のデザイナー/研究者。現在、Central Saint Martins(セントラル・セイント・マーチンズ、以下CSM)の持続的未来開発デザイン領域・教授。またCSM / LVMHのRegenerative Luxuaryのクリエイティブ・プラットフォームMaison/0(メゾン・ゼロ)ディレクター、CSMのLiving & Systems Lab(リビング・システムズ・ラボ)リサーチグループの共同ディレクターを務める。

サムネイル:「Mycelium Textiles」(Carole Collet, 2019)

テキスタイル・デザイナーであり、エコロジストでもあることは可能か

テキスタイル・デザインへの情熱と環境負荷への懸念

私がバイオミミクリーやバイオロジーの原理をテキスタイル・デザインに取り入れる方法を積極的に研究し始めたのは2007年のことでした。それ以前は、サステナブル・テキスタイルの開発を目指し、原料の調達方法、リサイクル素材、染料の種類などを検討していました。1980年代後半に、パリの大学でテキスタイルについて学んでいた時、テクノロジーの講義で、テキスタイルがどのように大量生産され、それがどれほど有害なプロセスに依存しているのかを学びました。それまでの私は、繊維産業とその環境への影響を結びつけられていなかったのですが、講義を受け、このように汚染された産業には関わりたくないと思ったことを今でも覚えています。つまり、私がサステナビリティに興味を持ったのは、私がエコロジストだったということです。
それがはっきりしたとき、エコロジストとテキスタイルデザイナーが両立できるのかを確かめるために、1991年にCSMの修士課程へ進学しました。言い換えれば、産業を維持するために自然界に悪影響を与える有害なマテリアルを開発することにならないように、そして同時にデザインへの情熱を持ち続けるにはどうしたらよいのかを考えていたのです。
「Self-patterning Mycelium Rubber made with waste coffee ground and a mycelium culture」(Carole Collet, 2016)
「Self-patterning Mycelium Rubber made with waste coffee ground and a mycelium culture」(Carole Collet, 2016)
すでに90年代初頭には、繊維産業とその環境への影響については、かなりの数の研究結果やレポートが発表されていました。しかし、それが広く議論されることはありませんでした。当時私が話をした人の多くは、何が問題なのかをきちんと理解しておらず、天然素材や天然染料に代替することで解決すると考えていました。
しかし実際には、コットンは私たちが使用している繊維の中で、環境への負担がとても大きいもののひとつです。その理由は、従来のコットンの栽培方法は、信じられないほど大量の有害な農薬や除草剤を使用しているからです。天然繊維であるにも関わらず、その栽培方法が環境に悪影響を与えているのです。また、天然染料では、伝統的なレシピのほとんどが媒染剤として重金属を使用しています。媒染剤は、染料を天然繊維に浸透させる働きがあります。しかし、私はかなり早い段階から、「ナチュラル=エコロジー」ではないと気づき、どうすればそれを超えられるのかを考えていました。

生物学者と協働すること、バイオミミクリーとの出会い

1997年にエコロジストのJanine Benyus(ジャニン・ベニュス)が「Biomimicry(バイオミミクリー)」について話しているのを聞きました。彼女のバイオミミクリーについての本は、私にとって大きな影響を与えました。そして、この本を読んでから、「生物学から何を学ぶことができるのか」、「この方法をデザインプロセスに持ち込むにはどうしたらいいのか」ということを考えたいと思いました。
実はべニュスは、「To Bring Biologists at the Design Table(生物学者をデザインのテーブルに招くべきだ)」と提唱した最初の人です。彼女の影響は、とても大きかったですね。彼女はテキスタイルを始めとする様々な企業と協力して、生物学が製造方法にどのような影響を与えるのかを理解する手助けも行っています。このような彼女の役割は、バイオデザインの活動全体に大きな影響を与えたと感じています。
1 / 6 ページ
#Bio Fashion
#Sustainability
この記事をシェアする