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【対談】藤原辰史・山縣良和「循環と分解から見るファッション」

ファッションレーベルwrittenafterwardsのデザイナーであり、ファッションを学ぶ場「ここのがっこう」の主宰でもある山縣良和氏とお送りする特集企画「生命の循環:装いの歴史と未来」。今回は、『分解の哲学』の著者であり食と農の歴史や思想を研究する藤原辰史氏をお迎えし、循環や分解という視点を通してファッションを見ていきます。
ファッションの循環、動物性や植物性の素材、さらにはそれに関わる菌の働きにまで着目して、本対談では衣服の分解から分解者としての私たちの営みまでを再考。手触りのあるシステムへ向かうための思想をお聞きしました。
PROFILE|プロフィール
藤原辰史

京都大学人文科学研究所准教授。農業史を専門に、20世紀の食と農の歴史や思想について研究を行う。分析概念として「分解」(ものを壊して、属性をはぎとり、別の構成要素に変えていくこと)と「縁食」(孤食ほど孤立してなく、共食ほど強い結びつきのない食の形態)を用いて、自然界と人間界とを同時に叙述する歴史の方法を探究している。著書に『縁食論』(ミシマ社)、『分解の哲学』(青土社)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『給食の歴史』(岩波新書)、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)など。2019年2月、第15回日本学術振興会賞受賞。

PROFILE|プロフィール
山縣良和

ファッションデザイナー。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学科ウィメンズウェアコースを卒業。2007年4月自身のブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」を設立。2015年日本人として初めてLVMH Prizeノミネート。デザイナーとしての活動のかたわら、ファッション表現の実験と学びの場として「ここのがっこう」を主宰。2016年、セントラルセントマーチンズ美術大学ファッションデザイン学科との日本初の授業の講師を務め、2018年より東京藝術大学にて講師を務める。2019年、The Business of Fashionが主催するBOF 500に選出。

装いと循環・分解

山縣僕が現在制作で着目しているのはまさに「生命の循環」の中でファッションを捉えることです。循環の営みを調べていく中で、白川郷の養蚕業、和紙づくり、(蚕の糞や人尿等を活用した)火薬づくりが一軒の合掌造りの家で行われていることに着目しました。また、合掌造りは現在制作を行っているwrittenafterwardsのコレクションのタイトル「合掌」にもつながります。合掌造りの一軒の家で行われているのはまさに1つの巨大なコンポストのような循環のある営みで、それを参考に動物性(=シルク)と植物性(=和紙)と菌(=藍染)から作られる素材をもとに衣服を作ろうと思っています。
「合掌」というタイトルにしたのは、パンデミック化での人々の不安の中での「祈り」という意味合いも込めています。リサーチしていく中で、日本の伝統的な衣服の原料となる布やそれらを作る手法などを見ていくと、循環するシステムが当時からあったことが見えてきます。しかし20世紀に既製服の大量生産の時代となり、殆どの産業がが限界まで衰退してしまいました。
現代における循環が可能となる衣服を考えたときに、服が微生物の栄養分となって土壌が豊かになり、その土壌で育った栄養素の高い植物が私達の食にもつながるというシステムと衣服のデザインを両立させるプロジェクトを始めました。衣服の素材には和紙を薄く切り刻んで織物にしたものを使用しています。また、山梨の養蚕業をやられてる方から蚕の糞とか桑の葉など様々なものが混ざってる堆肥を頂いてきて、染色で使用した藍の青みがかったカスを混ぜてオリジナルの土壌を作りました。そして和紙で作った衣服をその土の上に置いてどのように土に還っていき、どのような土壌と植物が生成されていくか実験している段階です。
衣服の原料や作り方は20世紀以前の大量生産・大量消費のシステムが構築される前の段階に戻ると、様々な形で循環のシステムが形成されていて、それを今の最新技術と結びつけて研究すると実はこれからのヒントがたくさんあるんじゃないかと思っています。
藤原私の著書『分解の哲学』では基本的に食べ物を中心に扱っているのですが、何事にも値段をつけて大量に作って大量に消費して、大量に廃棄するという資本主義社会に疲れてきているということに関して、ファッション産業と食の産業は原因を共有してると思うんです。要するにゴミの問題です。食べ物の廃棄に違和感と嫌悪感を抱く人がまだ少ないと思うのですが、私が最も違和感を抱くのは、商品化された食べ物がパッケージ付きのまま捨てられて、燃やされるんですよね。食べ物はかなり水分も含まれてるのに、膨大な油をかけてゴミとして捨てられて燃やされる状況に、資本主義の矛盾と限界を強く感じます。
服も大量に生産・消費されて、そのまま捨てられた後燃やされています。つまりファッション業界も食品業界も地球の環境汚染に多大なる貢献してるわけですよね。そんな中で、和紙の服に注目されて、和紙というのはみつまた、楮(こうぞ)など、日本列島の中に伝統的にあった里山の一つの生産様式ですけれども、それで作られたセルロースの結晶である和紙の服を(土に)戻してみるという山縣さんの実験は『分解の哲学』の中でも真剣にとらえられてなかったので、面白い試みだと思いました。
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#Bio Fashion
#Sustainability
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