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【鼎談】池上高志・宇野良子・山縣良和:生命とファッション、技術と身体

ファッションレーベルwrittenafterwardsのデザイナーであり、ファッションを学ぶ場「ここのがっこう」の主宰でもある山縣良和氏とお送りする特集企画「生命の循環:装いの歴史と未来」。今回は、複雑系・人工生命の研究を手掛ける池上高志氏と言語の創造性の研究を手掛ける宇野良子氏をお迎えし、ファッションを生命という視点から見ていきます。
本特集で探求してきた、植物や動物との共創、衣服と農、そして生命といった様々な方面から交わされた対話をお届けします。
PROFILE|プロフィール
池上高志

東京大学広域システム科学系・教授。 専門は複雑系の科学、人工生命。

2018年、ALIFE国際会議を主催。2020年 Conf. Complex Systems,  2019年 SWARM 国際会議 などでの基調講演多数。著書に、『動きが生命をつくる』(青土社 2007),『人間と機械のあいだ』(共著、講談社、2016)、『作って動かすALIFE』(共著、オライリージャパン, 2018)など。また、アート活動として、『Filmachine』( with 渋谷慶一郎, YCAM 2006), 『MindTime Machine』( YCAM, 2010) , 『Scary Beauty』( with 渋谷慶一郎, 2018), 傀儡神楽(2020)などを行っている。

PROFILE|プロフィール
宇野良子

東京農工大学大学院言語文化科学部門、教授。専門は認知言語学。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。「わたし」が発した言葉は、「わたし」の一部なのか、ということに興味を持ち、言葉と心の働きの関係を研究している。特に、自然言語や、人工言語で新しい語が生まれるしくみを分析してきた。近年は、アートやファッションデザインのような言語以外の人間の創造活動に、言語学の分析を応用することも試みている。著書に『オノマトペ研究の射程―近づく音と意味』(共編、ひつじ書房、2013年)、『実験認知言語学の深化』(共編、ひつじ書房、2021年)など。2013年より「ここのがっこう」特別講師。

PROFILE|プロフィール
山縣良和

ファッションデザイナー。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学科ウィメンズウェアコースを卒業。2007年4月自身のブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」を設立。2015年日本人として初めてLVMH Prizeノミネート。デザイナーとしての活動のかたわら、ファッション表現の実験と学びの場として「ここのがっこう」を主宰。2016年、セントラルセントマーチンズ美術大学ファッションデザイン学科との日本初の授業の講師を務め、2018年より東京藝術大学にて講師を務める。2019年、The Business of Fashionが主催するBOF 500に選出。

衣服と食、そして医療

山縣3月16日に国立新美術館で発表したwrittenafterwardsの新作インスタレーションではガラスケースに入った服を土に埋めた状態で展示しました。ファッションの今後を考えた時、2020年代に大切になってくるのはスタディとリサーチをしっかりしていくことだと思います。とにかく大量生産・大量消費がここ20年ぐらいの流れでしたが、このコロナ禍の状況や地球環境の問題に対してクリエイターとしてもそのような状況に限界を感じています。
そこで制作したのが、この和紙でできた衣服です。和紙の衣服は昔から存在していましたが、我々が使用している和紙は土に還るスピードが他の素材も圧倒的に早く、さらに土の栄養にもなることが最近の研究結果からわかりました。衣服によって土が豊かになり、最終的にはそこで野菜を育てたら食にも繋がるというプロジェクトをスタートさせています。
そして「服食」という造語を掲げて、まずは服と体内の関係を捉えようと思い、衣服と薬や医療の原点を探るリサーチをしてきました。よくよく考えると、服薬、服用というように薬を飲むことにも服という言葉がついている。内服に対し、外服という言葉も一応あったりと、昔の人は外で着る服と内側の服を繋げて考えていたのではないかということが見えてきました。もともと衣服には医療的なケアやキュアのイメージが強くあります。日本最古の神話での医療行為と言われる『因幡の白兎』でも、兎が傷を治すために蒲の穂綿に身体を包みました。昔は蒲の穂綿は衣服の中綿にも使用されていたようで、これも何かしら衣服と関連して考えることもできます。薬を処方するように衣服を患者に処方するという医療行為もあっても良いと思います。
山縣それこそ20世紀も後半になると忘れ去られてたんですけど、実はファッションは歴史を辿ると農業的な部分と大いに繋がっており、宇野さんが教壇に立たれている東京農工大学にはかつて繊維学部があって、そもそもの大学のルーツがそこからスタートしたんですよね。
宇野147年前、現在の新宿御苑に、国が農学を学ぶ場所と養蚕を学ぶ場所を作りました。それがそれぞれ東京農工大学の農学部と工学部の起源です。蚕業の試験場は、やがて繊維学部となり、そして、工学部となりました。
山縣従来の繊維学部が無くなりつつありますが、例えば農業系の大学で農学と繊維の研究をするようなことが今また必要としていることで、今後のファッションの流れとしても重要なのではと思います。
池上人間の服だけではなくて、例えば建築学科では粘菌を使って建物を作ろうとしていますね。生物なので環境や餌なんかによる問題もありますが、材質として強度が高いというのがあります。具体的には、柱を置いて、そこに粘菌を生やして柱の形を作り、その後に粘菌を殺して真ん中の柱を抜くとポールができる。ニューヨークにあるTerraForm Oneでやられていましたね。
宇野服食の流れで言うと、繊維学部を前身とする農工大の工学部に、一昨年、生体医用システム工学科が新設されました。それはともかくとして、粘菌を利用して柱を作るのも建築だ、というのと同じく、内服の例など、ファッションの側から「これもファッションだ」と提案していくことで、現在医療に位置づけられているところにも、他のところにも、ファッションが広がっていくことが期待されます。
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#Bio Fashion
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