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山縣良和「生命の循環:装いの歴史と未来」

Fashion Tech Newsでは多様な領域からゲスト監修者をお招きし、ファッションやテクノロジーの未来について考えるための領域横断的な特集企画をお届けします。記念すべきその第1弾として、ファッションレーベルwrittenafterwardsのデザイナーであり、ファッションを学ぶ場「ここのがっこう」の主宰でもある山縣良和氏を監修者に迎え、「生命の循環:装いの歴史と未来」をテーマに5つの記事をお届けします。
去る3月16日に東京コレクションの一環として、国立新美術館で開催された『合掌』と銘打たれたインスタレーションでも、土に埋めた服を披露した山縣氏。この制作の背景ともなったファッションの循環、素材と人間の生活の繋がりへの山縣氏の着目も掘り下げながら、ファッションの過去、現在、未来を繋ぐ探索をお送りします。
PROFILE|プロフィール
山縣良和

ファッションデザイナー。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学科ウィメンズウェアコースを卒業。2007年4月自身のブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」を設立。2015年日本人として初めてLVMH Prizeノミネート。デザイナーとしての活動のかたわら、ファッション表現の実験と学びの場として「ここのがっこう」を主宰。2016年、セントラルセントマーチンズ美術大学ファッションデザイン学科との日本初の授業の講師を務め、2018年より東京藝術大学にて講師を務める。2019年、The Business of Fashionが主催するBOF 500に選出。

人間の営みとしての装い

「生命の循環:装いの歴史と未来」というテーマに込めた想い

直感的な部分でもあるのですが、大きな歴史の中でのファッションの進化というのを、今一度見るべきなのではないか。短い時間軸でのファッションの変化に目を向けることも大切ですが、今はもっと大きく捉えるべきというところから、自分の思考が始まっています。もう1回、社会にとってファッションは何ができるのかということが、大きくいろんな角度で問われてる時代が今なのかと。
それはコロナ禍におけるプロテクション、地球環境、さらにジェンダー問題だったり、身体的な多様性の問題だったりと、まだまだファッションが取り組まなければならない課題が色々と炙り出されてる。そういった部分を掘り起こせるような企画になればと、今回の特集テーマを提案しました。
僕は未来の話をできたらと思うと同時に、歴史にもたくさんヒントがあるという観点も持っています。そして忘れ去られていた「人間の営み」、20世紀の大きな資本主義システムによって見えなくなってる部分も少なからずあるんじゃないかなと思います。僕が理想的だと思うのは、歴史や文化と接続したテクノロジーです。なので今回、このFashion Tech Newsの企画でも、今一度、古代から20世紀型資本主義社会以前の歴史まで振り返るというのをスタートポイントとして捉えたらどうかと思いました。

環境との対峙、動物や植物、菌類との共創

もともとは2020年にやろうとしていたプロジェクトがコロナによって延期・中止になり、自ずと考える時間が出来たことから、ファッションの歴史を紐解いてみることや、服のマテリアルがどう作られていくかという原点的なものを求めるようになり、養蚕業とシルクの歴史を自分なりに調べ始めました。そこで大きくテーマとなったのが、特集のタイトルにもなっている「生命の循環」というところで、ファッションにかかわる生態系をもう1回考えてみたいと思っています。
過去に養蚕業が行われていた場所での人々の営みがどういうものだったかを調べていく中で、白川郷で有名な合掌造りに注目しました。合掌造りという建築は、そこでの生業から自然に出来上がったもので、1階は主に人の生活空間として使用され、2階、3階では養蚕や和紙作りをしていたとのことです。そして地下では人の排泄物や食べ残し、蚕の糞などを培養して、火薬を作っていた歴史があるのも知りました。つまり、ひとつ(茅葺き)屋根の下では、人々の生活の営みのなかに、動物性原料のシルク、植物性原料の和紙、さらに菌を使った火薬や堆肥の生産も行われていて、家そのものが巨大なコンポストのような循環的システムが何百年も前からあったという所に注目すべきと思いました。

歴史の蓄積とテクノロジー

先端テクノロジーと原初的なテクノロジー

僕は先端テクノロジーと原初的なテクノロジー(職人技)は融合すべきだと思ってます。特にファッションは分断してしまってはリアリティが作れない。先端テクノロジーだけを勉強してファッションを更新させるというのはなかなか難しく、それはテック側の方々も薄々気づいてきていると思います。究極には、職人さんが歴史の中で培われたものをどう学び継承していくかが重要で、今後間違いなくそういった潮流になってくるかと思います。
例えば世界中のどこでも同じ機械を使うようになってきていますが、そこから差異を出すには、職人さんが何十年もの間で培ったノウハウや技法があるかないかによって、同じ織機でも繊細な布が作れたり作れなかったりということが出てきます。それは、糸調子といわれる糸1本1本のテンションを長年の経験によって繊細に調整しながら布は作られるためです。この、繊細に糸を調整する技術で日本は世界でもトップクラスと言われています。
やはりテクノロジーと職人的なものをどう結びつけることができるかが、私達のこれからの課題だと思っています。
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