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【対談】水野祐・飯田豊「新たな社会に向けたリーガルデザイン」

メディア研究者である立命館大学産業社会学部准教授・飯田豊氏とお送りする特集企画「都市とメディアの過去/現在/未来」。今回は、弁護士の水野氏をお迎えし、対談を行いました。
法やルールという観点から、都市やメディアの現在/未来についてどのように考えていけるのか、理論や実践、多様な領域を架橋した多様な対話をお届けします。
PROFILE|プロフィール
水野祐

法律家。弁護士(シティライツ法律事務所)。九州大学GIC客員教授。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。慶應義塾大学SFC非常勤講師。note株式会社などの社外役員。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』、共著に『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』など。
Twitter : @TasukuMizuno

PROFILE|プロフィール
飯田豊

立命館大学産業社会学部准教授。専門はメディア論、メディア技術史、文化社会学。1979年、広島県生まれ。東京大学大学院 学際情報学府 博士課程 単位取得退学。著書に『テレビが見世物だったころ:初期テレビジョンの考古学』(青弓社、2016年)、共著に『メディア論』(放送大学教育振興会、2018年)、編著に『メディア技術史:デジタル社会の系譜と行方[改訂版]』(北樹出版、2017年)、共編著に『現代文化への社会学:90年代と「いま」を比較する』(北樹出版、2018年)、『現代メディア・イベント論:パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』(勁草書房、2017年)などがある。

新たな社会に向けたルール

リーガルデザインという視点

水野私のこれまでの活動は、抽象的に言えば、ソフトあるいはハードでも、何らかのリソース・資源に絡みついた権利や契約関係をときほぐし、利活用しやすい形で整理することです。土地や建物でいえば所有権あるいは賃借権の問題、ソフトコンテンツの分野でいえば 著作権や個人情報保護、肖像権などの様々な権利が多層的に折り重なっています。
リソースを利活用しやすいように、あるいはビジネスパーソンやクリエイターが望む形で作品やコンテンツを届けられるように、そのための新しいルールを考えています。「法」は邪魔なものや遠ざけておきたいものと捉えられることが多いですが、私が「リーガルデザイン」と呼んでいるのは、望ましいビジネスやクリエイティブを実現するため、こういう社会になったらいいなという方向に導くためのツールとして、法を捉え直す視点や技術だと思います。
法をひとつのデザインツールとして、あるいはデザインの対象として見ていくことは、過去にもあったはずですが、今の時代、より求められているというのが私の考えです。

リテラシーからコンピテンシーへ

水野2021年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「ルール?展」を、菅俊一さん、田中みゆきさんと​​企画しましたが、自分が関心を抱いていたことは、「法律」だとすごく堅くなってしまうので、「ルール」として対象を広げて考えていくことでした。私たちは「マイルール」といったものから、友人や恋人、夫婦、家族といった関係性のなかで、小さなルールをたくさん使って生活しています。 より大きな枠組みでは、SDGsのように、ポジティブな未来のために、サボりがちな人間がなんとかサボらないようにするためのルールの使い方もあると思います。
しかし、学校の校則や会社の社則はもちろん、国の法律や自治体の条例となると、途端に嫌なものになる。この小さなルールと大きなルールの溝を埋めるために何が必要なのかという疑問がずっとありました。どうしたら、大きなルールを「自分のこと」として捉えることができるのか。そこを埋めるようなルールの多面的な見方、面白さを提示したいというのが、今回の展示で自分が最も考えていたことです。堅苦しくなく表現し、展示という体験を通して、楽しかったな、面白いなという感覚が残せれば、意義があることだなと考えていました。
結果として、たくさんの来場者に恵まれたことは成功のひとつですが、見に来てくれた人、体験してくれた人が、どれだけ頭の隅にこういった感覚を残してくれたかは測りづらいものです。展覧会というフォーマットであまりに多くのことをやりすぎようとした部分はあったと思うし、InstagramやTikTokで消費されてしまったという見方もあると思います。来場してくれた人が、どれだけ趣旨を意識的に、あるいは無意識的に感じ取ってくれたかはわかりません。
オードリー・タンさんが、黒鳥社の若林恵さんのインタビューのなかで、「リテラシーからコンピテンシーへ」という表現をしていますが、優れた成果を創出する個人の能力・行動特性である「コンピテンシー 」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。私の立場では、「リーガルリテラシーからリーガルコンピテンシーへ」という風に言っていますが、これまで法を含むルールはリテラシーという観点から語られすぎてきたように思います。「ルール?展」では、要は新しいルールをつくっていくことは次の社会をつくっていくこととニアリーイコールで、しかもそれに自分が関わってみることは案外楽しいことかもよ、という提案をしたつもりです。それくらい、軽く捉えてもらえればいいかなと。
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