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カイコとシルクに付加価値を! 農研機構が取り組む「蚕業革命」と、富岡シルク推進機構がブランド化を目指す「富岡シルク」

日本において、養蚕におけるカイコの繭や、生糸の生産量が大きく減少する一方で、養蚕復興の機運も高まっており、新たなカイコ産業を生み出す挑戦に注目が集まっている。
農林水産省所管の国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)では、最新のテクノロジーを活用した「蛍光シルク」や「超極細シルク」、医療用素材の開発などによる、養蚕における新産業の創出を試みており、技術革新によって養蚕の再活性化を目指す「蚕業革命」と位置付け注力している。
また、一般社団法人 富岡シルク推進機構(以下、富岡シルク推進機構)では富岡産の繭を原材料にした絹製品を「富岡シルク」としてブランド化することで付加価値をつけ、国内外にアピールする製品の企画・開発を行っている。
そこで、特集「養蚕と製糸」の第2回は、第1回で紹介した富岡製糸場と、今なお稼働を続ける碓氷製糸工場のいまを踏まえて、カイコの新たな可能性を実現しようとしている農研機構と、ブランド価値を高めた富岡シルクの展開に力を入れている富岡シルク推進機構に話を伺った。

注目を集めた「蛍光シルク」のいま

農研機構は、2000年に世界で初めてカイコの遺伝子組換えに成功し、衣服などの新素材の開発はもちろん、医療などのさまざまな分野での活用に取り組んでいる。
メディアに取り上げられるなど、注目を集めた研究としては、「蛍光シルク」が挙げられるだろう。
農研機構が開発した「蛍光シルク」
農研機構が開発した「蛍光シルク」
「蛍光シルク」で制作された「十二単風の舞台衣装」デザイン:成安造形大学 田中秀彦、着用モデル:林(古田)敦子(ミーム・コーポレル・ドラマティック・アクター) 蛍光赤色および蛍光緑色のタンパク質は理化学研究所及び(株)医学生物学研究所が開発したもの。 写真提供:農研機構(冒頭の写真も同様)
「蛍光シルク」で制作された「十二単風の舞台衣装」デザイン:成安造形大学 田中秀彦、着用モデル:林(古田)敦子(ミーム・コーポレル・ドラマティック・アクター) 蛍光赤色および蛍光緑色のタンパク質は理化学研究所及び(株)医学生物学研究所が開発したもの。 写真提供:農研機構(冒頭の写真も同様)
2007年、カイコの遺伝子組換え技術を応用し「蛍光シルク」を作る技術が開発された。具体的には、クラゲやサンゴ由来の蛍光タンパク質を、繭糸のフィブロインタンパク質に融合させるものだ 。この「蛍光シルク」を用いた衣服などが制作され、ファッションデザイナー・桂由美によるウエディングドレス、現代美術家・スプツニ子! による、西陣織のドレスなどが話題となった。[1]
その後、「蛍光シルク」はどのような展開を見せているのだろうか。
「市場形成ができていないのが一番の課題」と語るのは、農研機構の生物機能利用研究部門で研究領域長を務める瀬筒秀樹さんだ。
「現在、『蛍光シルク』は普通の糸と同じような生産体制で流通ができていないので、なかなか売れないという事情があります。2017年、農林水産大臣と環境大臣の承認を受けて、世界で初めて養蚕農家が遺伝子組換えカイコを飼育できるようになったのですが、生産量はまだまだ少ないんです。
そのため、問い合わせはいただくのですが、たとえば『生糸を1トンお願いできますか?』と依頼されても、対応ができないという都合があります。アラブの富豪からも毎年のように問い合わせが来ていた時期もありますが、結局のところ供給できませんでしたね」
さらに、国の規制の問題もあり、そもそも養蚕農家が生産できる遺伝子組換えカイコの最大量が限定的であることも、市場形成の障壁となっていると、農研機構の生物機能利用研究部門でグループ長補佐を務める飯塚哲也さんが語る。
「遺伝子組換えカイコは、管理上の問題で4齢になってから養蚕農家が飼育することができます。現在、1齢から3齢までは、群馬県と茨城県にある2カ所の施設だけで飼育が認められています。そのため、絶対量が限られているため、ファッションショーや展示、アート作品など用途が限られていて、市場の創出につながっていないんです。
これは日本の産業構造が抱える規制の問題と同じですので、現在少しでも生産を増やせるように、国に対して1齢から3齢の遺伝子組換えカイコについても養蚕農家で飼えるように、飼育申請するための準備を行っているところです」
農研機構が開発した世界一細い「超極細シルク」についても同様の課題があるが、「蛍光シルク」よりも商品性のあるものを作りやすいという意味で、製品化、ブランド化の可能性が高いことから、積極的に展開したいと考えているとのことだ。
左半分を「超極細シルク」、右半分を「普通のシルク」で制作したドレス。比較すると、超極細シルクで作られた生地の方が繊細で滑らかになっていることがわかる。
左半分を「超極細シルク」、右半分を「普通のシルク」で制作したドレス。比較すると、超極細シルクで作られた生地の方が繊細で滑らかになっていることがわかる。
丹後縮緬の着物(浜縮緬工業協同組合と農研機構との共同制作) 写真提供:農研機構
丹後縮緬の着物(浜縮緬工業協同組合と農研機構との共同制作) 写真提供:農研機構
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