2021.08.23

バーチャルファッションの先駆者chlomaが導く、VRコミュニティとファッション

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仮想空間で目の前に人がいるかのようにコミュニケーションを取ったり、イベントに参加することができるソーシャルVR「VRChat」。そこで2018年頃から定期的に開催されている音楽イベント「GHOSTCLUB」とファッションブランドclomaがコラボレーションし、バーチャルファッション・ストア「chloma Virtual Store in GHOSTCLUB」がオープン。多くの人がファッションブランドchlomaによるバーチャルウェアの試着などを楽しんだ。

昨年も、chlomaにバーチャルな取り組みへの想いを聞いたが、コロナ禍を経て、いっそうバーチャルファッションへの注目が高まってきている現在、その潮流に変化はあったのか。今回の「chloma Virtual Store in GHOSTCLUB」の取り組みを中心に、同ブランド主宰の鈴木淳哉さんに改めてバーチャルへの思いや期待していることについて伺った。

PROFILE|プロフィール
鈴木淳哉 chloma 主宰/デザイナー

chloma:モニターの中の世界とリアルの世界を境なく歩く現代人のための環境と衣服を提案する、鈴木淳哉と佐久間麗子によるファッションレーベル。2011年設立。定期的なコレクション発表のほか、コラボレーションプロジェクトにも積極的に取り組んでいる。CHLOMA + VIRTUALSELF Fashion Collection (2020年)、VRoid WEAR × chloma (2019年)、chloma x STYLY HMD collection(2017年) 等。

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GHOSTCLUBとのコラボレーション

まず、GHOSTCLUBとのコラボレーションの経緯・概要について教えてください。

GHOSTCLUBを主催する0b4k3(おばけ)さんが、昨年開催したchlomaのバーチャルストアに遊びに来てくださったのがきっかけです。GHOSTCLUBはVRの未来の片鱗をかんじさせるようなクラブイベントをされていて、たくさんのクリエイティブな方々が集まり、コミュニティが形成されていました。私の方からもいつかコラボレーションの打診をしたいと考えていたので、0b4k3さんの方からSNSで「GHOSTCLUBのワールド内にchlomaのストアを出さないか」とお誘いがあった際には、二つ返事で了承しました。

GHOSTCLUBはクラブイベントの名称であり、団体の総称でもあります。GHOSTCLUBのワールドには、廃マンションがあり、その七階の一室にクラブルームが設けられています。chlomaのストアへ行くための連絡通路も同階に設置されています。現在はGHOSTCLUBのクラブイベントのないタイミングで不定期にストアを公開しています。

前回のchloma独自のVRストアとの違いは、どういったところにありますか?

ストア空間の制作は、GHOSTCLUBのコアメンバーに担当していただいてます。GHOSTCLUBのメンバーの中から適任者をあてがってくださり、総計10名ぐらいで制作しました。空間のクオリティーはもちろん、試着システムも前回のバーチャルストアから大きく進化しています。また、今回はGHOSTCLUBのワールドの中に出店ということで、データのサイズを可能な限り削ぐ必要がありましたが、ビジュアルを劣化させないまま最適化を行っていただき、快適に機能する空間となっています。

画像: chloma Virtual Store in GHOSTCLUB 外観(撮影: amanek)
chloma Virtual Store in GHOSTCLUB 外観(撮影: amanek)

アバターウェアの表現で前回と大きく違う点は、今回はフルスクラッチで制作した洋服のデータ販売を行ったことです。前回はVRoidという3Dアバター制作ツールを使って服をデザインしたものだったので、着用できるアバターは限られていました、今回はゼロからモデリングをして作る方法で行っています。CLOでリアルと同じ洋服を再現し、そのモデルをベースにして3Dモデラーさんにアバター用衣服として変換を行っていただきました。色々な体型のアバターが着用することができる汎用アバターウェアとして完成しました。

画像: 左:アバターウェアのShelter Coat 、右:元となったリアルのShelter Coat
左:アバターウェアのShelter Coat 、右:元となったリアルのShelter Coat

フルスクラッチモデルとなり汎用性が高くなったお陰で、着用していただける方が大幅に増え、その数だけ新しいファッション表現が生れました。小柄な、等身の低い女の子のアバターから、高身長の男性アバターまではもちろん、人ではない独特なデザインのアバターの方まで、幅広く着用していただいています。

画像: アバターウェア Shelter Coat、Y2K Anorakの展示風景。ここから服を取り、試着体験をすることができる
アバターウェア Shelter Coat、Y2K Anorakの展示風景。ここから服を取り、試着体験をすることができる

バーチャル空間のコミュニティとユーザー像

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バーチャルファッションについて、ユーザー像やコミュニティの規模が具体的に想像できていない人も多いかと思います。実際に色々な取り組みをされてきたchlomaからみて、バーチャルでのファッションを楽しむ人たちのユーザー像を聞かせください。
画像: Virtual Storeのオープン時の様子
Virtual Storeのオープン時の様子

体感としては、20代が多い印象です。男性が多いですが最近では女性も増えてきていますね。VRChat全体だと女性比率は1割ほどとデータがありますが、今回のchlomaのストアに来店していただいた方の4分の1くらいは女性だったという印象です。職種は様々で、大学生もいれば建築関係、デザイナー、編集者、CGのプロフェッショナル、フリーター、無職の方もいる。chlomaやGHOSTCLUBに興味を持ってくださるのは、特にクリエイティブ関係の方が特に多い印象です。本当に多様な方々がいますが、そういう人たちが現実での社会的な身分とは関係なく、同じフィールドでフラットにコミュニケーションをとりやすいというのが、今のソーシャルVRの素敵なところだと思います。

VRChatの日本のユーザーの中ではアニメやその派生文化の価値観の影響を強く受けたアバターや装いがやはり多い印象です。

その一方、新型コロナウィルスの影響かここ1,2年ではVRクラブイベントがとても盛り上がってきており、アニメ文化からの派生とはまた異なった潮流の装いをする方がVRChatに増えてきた印象です。そういった方々は、現実のトレンドとリンクしたオシャレに関心を持つ傾向にあります。装いとしてバーチャルでしかできない服装を求めるというよりも、ストリートファッションを基調としたカジュアルな装いが人気ですね。クラブイベントの盛り上がりを背景に、そういった方々が僕の目には増えてきているように見えています。

<p><span style="color:#000000">VRChatの日本のユーザーの中ではアニメやその派生文化の価値観の影響を強く受けたアバターや装いがやはり多い印象です。</span><br><br><span style="color:#000000">その一方、新型コロナウィルスの影響かここ1,2年ではVRクラブイベントがとても盛り上がってきており、アニメ文化からの派生とはまた異なった潮流の装いをする方がVRChatに増えてきた印象です。そういった方々は、現実のトレンドとリンクしたオシャレに関心を持つ傾向にあります。装いとしてバーチャルでしかできない服装を求めるというよりも、ストリートファッションを基調としたカジュアルな装いが人気ですね。クラブイベントの盛り上がりを背景に、そういった方々が僕の目には増えてきているように見えています。</span></p>
Shelter Coatを着たamanekさんとwa-iさん
どういった経緯で始められる方が多いでしょうか。デバイス面でもまだ、参入障壁が高いと感じています。

そういった制約を乗り越えるための資金、好奇心、根気が必要なので、感度が高いアーリーアダプターが多いですね。デバイス面での参入障壁に関しては、ブレイクスルーが必要だと感じています。今VRChatをVRで始めようとするならば、PCとVRヘッドマウントで15万円程度の出費がかかってしまいます。いきなり購入するには勇気がいるので、周囲にすでにVRで遊んでいるリアルな友達がいると、いいきっかけになるかもしれませんね。実際に始めてみると、VR内で知り合った人が情報を次々に教えてくれたりと、初心者には優しい文化だと思います。

画像: 左から、Shelter Coatを着たfotflaさん、Y2K Anorkを着たwa-iさん、Cap.さん、amanekさん
左から、Shelter Coatを着たfotflaさん、Y2K Anorkを着たwa-iさん、Cap.さん、amanekさん
こういったファッションへの関心も高いユーザーにとって、chlomaの参入はどういった意味を持つのでしょうか?

バーチャル空間で存在しているファッションのスタイルとしては、chlomaの参入は革新的なことではないんです。クラブに行く人はテック系のファッションが好きな傾向がありますし、実際に現実の方でも着ても違和感のないようなファッションをする人たちが多いので、参入する以前から様々なVRチャットのなかでのファッションの進化はすでにありましたね。そういった方達がいるのを知ったうえで、そこでchlomaの洋服はどうですか?と提案させていただいている状況ですね。

画像: 左から、てじゃさん、tanittaさん、GHOSTCLUB主催の0b4k3さん
左から、てじゃさん、tanittaさん、GHOSTCLUB主催の0b4k3さん

バーチャル空間が「日常から逸脱したユートピア」とする捉え方もあるとは思うんですが、やっぱりユーザーの使う回数が多くなればなるほど、そこに日常や生活に近いものを欲する傾向にありますね。なので、きらびやかな装いというよりは、自分の平常に近い装いを求める方も非常に増えてきています。現実での服の選び方に近くなっていると思います。

ファッションスタイルとしてはchlomaの参入は革新的ではないと言いましたが、chlomaのスタンスはVRChat既存ユーザーにとっても大きな意味を持ち得ると考えています。
「フィジカルの世界とバーチャルの世界は価値観を共有することができるし、地続きの世界なんだ。バーチャルでファッションを楽しむことは、現実のその行いと何も変わらない、素晴らしいものなんだ。」chlomaのバーチャルでの取り組みは常にこのスタンスで行われています。だからこそ特異な存在として受け止めていただけているのだと思います。

画像: chloma 2021-2022 collection [CODE] より
chloma 2021-2022 collection [CODE] より

バーチャルファッションに取り組みつづける意義

昨年のVRストアの発表以降、ファッション業界のVRでの動向についてどう思いますか? 

ソーシャルVRのファッションについては、ファッションブランドの新規参入が少なく、あっても成功とは言えない形だったので、それは少し寂しかったですね。CLOの普及によって3Dモデルを使用したビジュアル表現を行うブランドはどんどん増えていますが、それはお客さんが「着られない」服です。「着る」ことを目的として3Dの洋服を提案するブランドがほぼ皆無だったのが、なぜ? という気持ちです。

画像: chloma 2021-2022 collection [CODE] より
chloma 2021-2022 collection [CODE] より

現在のバーチャルファッションとして展開されているものは、日常を視野に入れたクリエーションではないものがほとんどです。また、NFTへの注目も高まっていますが、NFTは僕が言っていたシーンとは逆で、所有を限定することによって価値を高めるもの。きらびやかであればあるほど、価値があるような傾向にあります。

僕はリアルでも洋服を作って、お客様に選んでいただく立場なので、生活のなかで本当に求められるものという観点をすごく重視しています。ですが、このような視点のあるバーチャルファッションの提案というのは、現時点でファッション界からはほとんどない、もしくはあまり力強くないので僕は寂しいです。

ブランドとして、バーチャルでの取り組みによる注目の高まりがあったという。

それは大いにありますね。元から、作っている洋服の世界観が、今後来たるメタバースやソーシャルVR時代を見据えてのものでもありましたし。ブランドとして、リアルな洋服として従来から提示してきたコンセプトと、バーチャルでの活動が一貫してできているいう点で、信頼して見ていただけてるのかなと感じています。

その一方で、先ほども述べたように参入してくれるブランドがあまりないので、僕たちがビジネスとしても結果を出していくことは大事だと思っています。僕たちがやっていることが特別なことではなくって、もう普通なんですよというところまで持っていきたいですね。まだ、リアルとバーチャルでの取り組みが収益として逆転するような見込みは、今のところ楽観的には考えられないですが、昨年に比べてバーチャルアイテムの売り上げは大きく伸びています。

今回の取り組みは、世界的にも注目が高まったのではと思っています。日本を拠点に活動しているなかで、世界への展開の窓口ともなりそうですが。

バーチャルストアでの試着は、オンラインストアで洋服を見てもらうよりも「体験」としての強度が圧倒的に高く、chlomaの服をリアルで触れることができる機会がほぼ無い海外のファンにとっては、ブランドを強く感じてもらえるとても良い機会となっているようです。実際にバーチャルストアでの体験が決め手となって、リアルの洋服を注文していただけたケースが何度もありました。世界への窓口としてもバーチャルストアは機能しています。

現在のchlomaのリアルな洋服の販売は日本が7割、海外が3割程度で、バーチャルアイテムの販売だと日本が6割、海外4割くらいです。日本のユーザーさんを中心に考えた物づくりにはなっていますが、海外の方に受け入れていただくことができています。

今後はどういった挑戦をしていきたいと考えていますか?

最近、Facebookを始めとした大きなIT企業からメタバース構想が発表されるのをよく見ますね。ただ、僕はそこで提案されているソーシャルVRにおけるファッションの捉え方に違和感を抱くことが多いです。具体的に言うとファッションやアバターの自由度の無さ。この方向性のままメタバースを実現されたら、ファッション的には完全にディストピアとなると思っています。そのような未来を防ぎたい、バーチャル空間がファッションのユートピアであるように、「無限の自由度があってこそのファッションだし、自由なファッション抜きにメタバースは成立しえない」ということを訴えていきたいです。

なので、大きな課題としてはファッションにとってバーチャル空間がユートピアとなるように、そういった未来に繋がるように活動していきたいです。ファッションが社会において、そしてメタバースにおいてどれほど重要で、そして楽しいものかっていうのを世界にアピールしていきたい。

また、chlomaは「フィジカルの世界とバーチャルの世界は価値観を共有することができるし、地続きの世界なんだ」というスタンスを発信しつづけていきたいです。これ以上の何か革新的なことに挑むことももちろん考えてはいきたいですが、それよりも今取り組んでいることが当たり前のものとして認識されていくように活動していくフェーズだと思っています。

現時点においても、chlomaのリアルでのイベントと、バーチャルのイベントの両方に足を運んでくださる方が多くいらっしゃいます。これからも、2つの世界の架け橋になれる存在でありつづけたいと思っています。

画像: chloma 2021-2022 collection [CODE] より
chloma 2021-2022 collection [CODE] より
次回のバーチャルストアの展開を見据えた構想もあれば、教えてください。

今までのバーチャルストアの取り組みは、リアルの価値をバーチャルに持ってくるという方向だったのですが、逆のベクトルの取り組みも構想中です。楽しみにしていてください。

アイテム面の話だと、洋服のバリエーションを増やして、楽しめるスタイルを多様化していきたいなと思っています。特にアバターはスタイルがいいので、着映えするワンピースの需要がありそうだと見込んでいます。バックもいいですね。バーチャル空間だとバッグを持っていると、なぜかおしゃれに見えるんですよね。物を持ち運ぶ必要のないバーチャル空間でのバッグって、機能としては本当に意味がないからかもしれません。こういったバーチャルファッションならでは特性みたいなところも引き続き研究していきたいなと思います。

画像: GHOSTCLUBのワールドとchlomaのストア空間を繋ぐ通路
GHOSTCLUBのワールドとchlomaのストア空間を繋ぐ通路
#Virtual Fashion Show
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