今、サステナブルは 業界全体で重要なキーワードとなっているが、その多くは、プロダクトの生産や素材における環境への配慮で、生産だけではない回収や再生、再利用の方法に関しては消費者が参画しやすい取り組みは十分とはいえない。
そこで、コットンに注目し、サーキュラーエコノミーを実現するための「コンシューマーコットンプロジェクト」を立ち上げたのが、造形構想株式会社の峯村昇吾さんだ。今回、そのプロジェクトの概要と産業構造の改善に向けた課題を伺った。
サービスデザイナー
武蔵野美術大学大学院 造形構想研究科 造形構想専攻 修士二年
青山学院大学卒業後、新卒で繊維専門商社でテキスタイルの企画開発と営業に従事。2015年にFABRIC TOKYOに参画し、クリエイティブ統括後、BXデザイン、サービスデザインを担当。2020年10月1日デザインの日に造形構想株式会社を設立。
「コンシューマーコットンプロジェクト」は、アパレル産業のサーキュラーエコノミーを促進させるソーシャルマテリアルのプロジェクトです。
具体的には、「コンシューマーコットンプロジェクト」はユーザーに対しては、コットン素材の古着を手放す際の「回収と選別」を担います。消費者が選別した上で再利用させるためのプラットフォームを生成し、消費者を循環型ルートに参画してもらえるようにします。
ブランドに対しては、消費者から回収し、不要になったコットン素材の古着を原材料とした、古着由来のサステナブルコットンを製造します。その際に、再び製品化した際には、マテリアルにNFCチップを搭載し、長く利用するためのケアや修理方法、服を手放す際の回収方法など、製品と利用者とのインタラクションを可能にします。現在はプロジェクトを設立した段階で、上記の試みを実装に向けて進めている段階です。
本プロジェクトの目的は大きく3つあります。1つめが消費者1人1人によるソーシャルイノベーション、2つめに新しい再生コットンを作り出すことで、サステナブルコットンの選択肢を拡張することです。そして最後にテクノロジーを付与してIoTのプロダクトによる利用体験によって顧客に価値を提供することです。このように、産業生態系を一巡する様なプロジェクトになっています。
まず、人権的な問題があります。コットンの主な生産地は、インドやエジプト、アメリカなどがありますが、たとえばインドのコットン農家の平均寿命は35歳くらいと言われています。
オーガニックコットンは1%ほどしかシェアがないので、ほとんどのコットンは農薬を使っています。農家の人たちは農薬を買うお金がないので、お金を借りなければならない。公的な機関からは借りれないので闇金からお金を借りてしまう。そこでお金を返せなくなって農薬を飲んで自殺してしまう人が後を断ちません。このような形で、コットン農家は30分に1人が自殺すると言われている産業でもあります。1次産業には、こんな闇があり、人権の面で大きな問題があります。
加えて、コットンは水をたくさん使用する素材になっています。ファッション産業の水使用料の9割はコットンです。1次産業の段階でいかに資源を使わないかという点は注目されていて、オーガニックコットンなど従来のコットンを改善する動きがありますが、より行うべきは2次流通だと思います。このような意味でも、コットンは非常に注目すべき素材です。
最後に、コットンは2次流通のルートがまだ確立されていない素材であることが大きな理由です。最近他社の再生プロジェクトが注目を浴びていますが、本来ならコットンはコットンで回収されるルートが必要です。
かといって、特定の素材を抽出するだけでは正しい循環にならないので、他の素材なら他社、コットンなら「コンシューマーコットンプロジェクト」といったように、それぞれの素材に合わせたルートがあるべきです。このような状況に向き合って、素材別にサーキュラーな仕組みがあると良いなと思ったことも、コットンを選んだ理由の1つです。
経歴を簡単にお話すると、僕は大学卒業後、繊維の専門商社に入りました。そこからキャリアをスタートさせましたが、商社で工場のものづくりやアパレルの販売との間に立つと業界の歪な構造に気づきました。アパレルとしてあるべき姿を考えたときに、商社はどうしてもイニシアチブがあるわけではないので、小売に行きたいと思うようになりました。
そこで今のFABRIC TOKYOに転職しました。そのなかで、フェアトレードコットンのシャツやトレーサビリティのあるスーツを提供したのですが「伝えようとしても伝わらないジレンマ」がありました。
キング牧師の有名な言葉で、「愛のない力は暴力で、力のない愛は無力だ」という言葉があります。正しいことをするなら力をつけたいと思って、武蔵野美術大学の大学院に入りました。そこでは、Institute of Innovationというイノベーションを研究する、デザイン思考、アート思考を学ぶ大学院があり、このプロジェクトは武蔵美での僕の研究のプロジェクトです。デザインやアートを源泉にしながら、ビジネス、心理学などを組み合わせてイノベーションを起こすために学んでいます。そのなかで、個人から始まるソーシャルイノベーションという文脈に行き着きました。力のある人が何か大きなパワーで何かを進めて、人々がそれを享受するような「design for people」から、みんなで共創する「design with people」の時代に変わってきて、さらには「design by people」、一人一人がデザインする民主化の時代へ向かっていきます。
アパレル産業を変えるためには、1人による大きなパワーより、みんなの小さなパワーが鍵となってくると思います。
こちらは僕が作成した、ファッションの産業構造に関する図式です。これを一巡させるというのが僕のプロジェクトです。
前提からご説明すると、ファッション産業は原料調達から紡績、撚糸などを経て製造され、出荷されていきます。そこからメーカーに渡って、メーカーがものを売ってユーザーが買います。ここまでが縦に降りるリニアエコノミーです。それに付随して、フェーズごとに廃棄するものを循環させていくことが全体像です。この全体像を把握するために調査を行い、この図を設計しました。
ユーザーのフローは、みんなで服を回収するファンコミュニティを作ろうと思っています。決してお金の便益ではなく社会に、コミュニティに接続しているというモチベーションから始めようと思います。
再生コットンを原料でブランドに提供するのですが、提供する際にテクノロジーが搭載され、ブランドと利用者がインタラクティブにコミュニ ケーションできるようになります。そのときにユーザーは、スマートフォンなどを通して、ブランドと商品を長く使うためのコミュニケーションを行います。その後に、それが使えなくなったら最後回収する部分にUXを提供し、回収を提案できればと考えています。
おっしゃる通りで、ここで使うテクノロジーはブランドとユーザーのコミュニケーションによる製品寿命の延長を目指しています。内容としてはケア、リペア、最後の回収を提案することです。基本的にはブランドは今サステナビリティを掲げていますが、ブランドは物を売ることでしかマネタイズできないという点で、矛盾が生じています。買ってもらうタイミングでしかマネタイズできないことは、物を消費する社会から脱却できないことを指しています。
テクノロジーを導入して長く使ってもらうことは、廃棄を長引かせて、消費のスピードを遅らせるだけでなく、今の小売りをサービス業にモデルチェンジすることへも繋がると思います。小売だけでなく、ケアや修理などの利用体験からマネタイズができれば、「物を売って収益を得る」というモデルから脱却できます。なのでテクノロジーの導入は大きな鍵だと思っています。
物を買うまでのUXから、利用体験から物を捨てるまでの体験までにテクノロジーを介在させ、いかにブーストさせるかが重要です。このためにNFCだけではなく、Bluetoothなどの導入も考えています。
また、未着用のアパレルを活用するためのテクノロジーも考えています。国内では、アパレルは年間約80万トン市場に供給されるのですが、そのうち約50万トンが焼却されます。このなかで140万トンくらい、未着用のままクローゼットに眠っている服が常にあるんですね。このような、家にあるけど着ていない服の稼働率をあげることができれば、ファストファッションのような大量消費大量生産からズレることもできますので、このような未着用のアパレルの活用も考えています。
車や家などが象徴的ですが、20世紀のような、所有欲が先行する消費は、現在供給過多による問題が出てきています。たとえば、空き家問題などは、ここでAirbnbなどのテクノロジー登場で稼働率をあげるような動きがあります。アパレルもこのように使用されていない物の稼働率をあげるべきだし、そこにテクノロジーを適用させるべきだと思います。
再生コットンが作られる上で反毛という過程が必要になってきます。これは、服を裁断して小さい断片にした後に、すごい細かい針がある機械で掻いていくことによって綿に戻す作業です。これは昔からある技術で、特に新しい技術ではないです。むしろ重要なのは流通のルートをどうするかという問題です。
今の現状だと、反毛に行かない構造になっています。まずユーザーが古着を手放したときに行政とか町内会とかが服を回収します。その後に回収組合や古紙問屋さんが受け取り、ボロの選別業者が買い取ることで大量に保管します。
このボロの選別業者は大量の服を1キロ3〜5円の仕入れ値で買い取ると言われています。この服を人の目と人の手で選別する必要があります。この選別作業は海外に委託されており、マレーシアや韓国、フィリピンなどの国で選別が行われた結果、ウエスという雑巾を製造するか、そこからリユース中古衣料になるかの2択になります。そこからまた雑巾となって日本に戻ってきたり、中古衣料として海外で内販されたりします。
このように循環は現在、限定的な循環にしかなっていません。ちなみに全体の2〜3割くらいは国内で選別されることがあります。この場合も、同じようにリユースか国内でのウエスの製造の2択になってしまいます。
では、なぜここで反毛が選択肢に入ってこないのかというと、前述したようにボロ選別業者は3〜5円で大量の服を仕入れた後に、人件費がかかる人の手による選別をしますが、その後の反毛の売値は1キロ約8円と言われています。
反毛は現在、愛知の岡崎にしか機械が無く、運搬費も自社負担になります。こうなると売り上げはほぼ0になってしまいます。再生コットンができるルートは反毛だけなのに利益が出ない形になっています。
それでも現状、なぜ反毛が利用されているかというと、国内で仕分けした後に、雨で濡れたりするとリサイクル不能品が生まれてしまうからです。これが全体の20%くらいで、リサイクル不能品は燃焼するのに1キロ約13円かかってしまい、「そうなるくらいなら反毛に出す」といった形で消去法で反毛に流れつくことになります。
この状況を変えなければならないので、まず僕は中間流通を無くすために、生活者が選別と回収を行い、一気に国内循環のルートに乗せて反毛へ向かうことを目指しています。
コットンを作る技術自体は、新しいものは必要なく、真に必要なのは業界の再編です。今までの中間流通を排除して、適正価格で届けるということが、再生循環の中で行われていく必要があります。これはシステミックデザインという考え方です。どこを改善すればよい循環が生まれるかということを僕は考えています。
分ける基準としては販売先で分けます。たとえば、仕分けるときはほぼリユース向けに分けるんですが、中古衣料のバイヤーが何を欲しがっているかは仕分ける側は分かっています。アフリカだったら暖かいものではなく綿素材の春夏向けの服が欲しいとか、デニムだけ欲しいみたいなことがあります。
なので、バイヤーが何を求めているかが優先順位として上にあり、中古衣料で売れなかった場合はウエスという雑巾になります。雑巾は基本的には油とか水分を吸う必要があるのでコットンが適していてコットン51%以上がウエスに行くことになります。このように、明確な基準がない定性的な選別となっています。
そうですね。状況によっても基準はさまざまです。首都圏ではNPOなどで回収と選別を行い、街のチャリティーショップなどで販売を行う場合もありますが、そこではご高齢の方向けの服が売れるので目利きする対象が異なってきます。このように、さまざまな需要に対して選別をするという形が行われています。
このプロジェクトはかなり壮大なプロジェクトなので、複合的に行っていく形になると思います。まずはこのプロジェクトを、社会実践にまで乗せるということが目標です。
年内中には、アパレルメーカーに採用されることを目指し、UXデザインに落とし込む部分を考えています。
バイオ素材を用いて原料調達に寄与する試みもありますが、このようなバイオマテリアルではなく、ソーシャルマテリアルという新しい概念でこの循環の問題に向き合っていきたいと思っています。物を売るだけではなくて、人々の利用に寄り添ったソーシャルな部分を提供できればと考えています。
昔、PATAGONIAが再生ポリエステルの製品を出したときに、再生ポリエステルが脱色できないために全部エメラルドグリーンの服でしたが、。それがシンボルとなって広がっていったと思います。「コンシューマーコットンプロジェクト」で生まれる生地も、服の色々な色が混ざり合ったメランジ調の色になるので、ソーシャルマテリアルのシンボルとして広く浸透していければと考えています。
もちろん貨幣的なインセンティブも重要ですが、どのようにウェルビーイングを考えることだと思っています。よくサステナブルを語るときに、「エシカル」という言葉が使われますが、僕は基本的には多くの人にとってエシカルなアプローチは持続的ではないと思っています。
エシカルなことは、倫理的で理性的なアプローチですが、それはある種の我慢だと思います。自然界では我慢している生物はいないですし、人間だけエシカルで倫理的に理性のアプローチをしてずっと続けていけるかと言われると、それは持続可能ではないです。そこで、どのように人と繋がっていくか、どうやって社会と接続していくかのような人間のウェルビーイングにつながる点が鍵になってくると思います。