ものを購入するときの基準はなんだろうか。CMで見かけたからか、それとも好きな芸能人が紹介していたからだろうか。どんな理由であれ、人は外からの影響によって行動してしまうことは多々ある。だが、ここで立ち止まって、もう一度自分の気持ちにしたがって、ものを選んでみてはどうだろうか。
そうしたものとの付き合い方を提案するのが、デニムブランド「
ITONAMI(イトナミ) 」を
立ち上げた山脇耀平さんだ。EVERY DENIMという岡山の魅力的な伝統技術からできるデニムを兄弟で販売していたブランドが、心機一転、新ブランドとして発足した。その転換の背景には、なにがあったのか。 今回、山脇燿平さんに同社の活動を通じて考えてきた、ものづくりのあり方やものとの付き合い方を伺った。
PROFILE|プロフィール
山脇 耀平(やまわき ようへい)
1992年生まれ、兵庫県加古川市出身。 大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げ。翌2015年から瀬戸内地域のデニム工場と直接連携したオリジナル製品の企画販売をスタートする。2019年岡山県倉敷市児島に宿泊施設「DENIM HOSTEL float」をオープン。2020年ブランドを「ITONAM」にリニューアル。 デニム回収再生プロジェクト「FUKKOKU」や、服の完成を1年かけて一緒に楽しむ「服のたね」など、完成品を買うだけではなくみんなが服づくりに関わる取り組みを行っている。
ものの魅力を伝えたい EVERY DENIMを立ち上げた経緯を教えてください。 EVERY DENIMは、2015年に私と弟の2人で創業したデニムブランドになります。自分たちが届けるものを長く、愛着を持って使っていただきたいという思いがあったので、デニムをお客様に直接お渡しするために、地域を渡り歩きながら販売をしていました。 ブランドを立ち上げようという考えは、弟のものでした。大学で岡山に行くことになり、新しい場所で地域の文化に触れられる活動をしたいという思いがあったようです。人づてに職人さんを紹介していただき、はじめてものづくりの現場を見たときに大いに感動したようで、職人さんの思いなどを自分たちの目線で発信できないかと考え、兄弟でブランドを立ち上げました。
そこからITONAMIへブランド名を変更されたのは、どんな理由があったのでしょうか。 EVERY DENIMを始めたとき、瀬戸内が持つ産地の魅力や技術力の高さなど、製品の魅力を伝えるつもりでした。ところが、気づいたときには私たちが兄弟で立ち上げたブランドであることや、対面で手売りをする販売スタイルに注目が集まっていました。その結果、私たちがある意味でキャラクター化してしまい、肝心の商品にスポットライトが当たらず、もどかしい思いをしました。 本来、サービスやブランド名は自分たちのアイデンティティを表すものです。 うちらのやり方はこうだよね、と自分たちの進んでいく道を照らしてくれるはずなのに、それを感じられなくなってしまったのです。
あらためて自分たちの原点を確認するために、ブランド名のリニューアルを図ったのがITOMANIの誕生になります。
一人ひとりの行動や思いを大切に ITONAMIというブランド名には、どういった思いが込められていますか。 デニムブランドということでは、EVERY DENIMと変わりはありませんが、ITONAMIでは3つの思いを込めています。 1つめは、自分たちのアイデンティティを示すという意味でITONAMI、つまり自分たちの活動が広く人々の生活、暮らしの「営み」に携わっているというものです。
2つめは「ITO(糸)+NAMI(波)」です。繊維産業としての営みと、私たちの拠点である瀬戸内海から世界を眺めるという思いを込めています。
3つめが、「I(意)+TO+NAMI(波)」で、個人の意見や考えが波のように広がっていき、人々の気持ちを動かしていく。そういった行動を起こせる自分たちでありたいという思いです。
みんなが作り上げた正しさにしたがうのではなく、自分はこう思うとか、こういうものを作っていきたいという主張を大切にし、それらが評価されるような流れを作っていきたかったのです。
ブランドに込めた思いを実現するために、どういった活動をされていますか。 前のブランドから続いているのは「服のたね」です。私たちからデニム製作の現場を伝えるのではなく、 お客様のほうから興味が湧いてくるような取り組みをしたかったのです。そのために、お客様に綿をた ねから育てていただき、収穫したものを服にして届ける活動をしています。