2022.04.08

ANREALAGEのデジタルショーを支えた李在龍に聞く、3DCGとデザインの共存

デジタルショーが活発になった現代のファッションシーンで、いち早くその試みに目をつけたのがANREALAGEだ。先日も2022-23AWコレクション「PLANET」を公開したANREALAGEのデジタルショーの実現には3Dファッションのスペシャリスト、李在龍さんの存在が大きい。

今回はANREALAGEとの共同制作を中心に、3DCG技術とデザインとの共存について李さんに話を伺った。

PROFILE|プロフィール
李 在龍(LEE JAEYONG )
李 在龍(LEE JAEYONG )

3D FASHION SPECIALIST
Specialist for 3D Sample making, design and visual production

Tools
CLO3D,Marvelous Designer,Blender,Substance painter,Photoshop,Illustrator,Premiere pro,Toray Creacompo2

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対話を中心とした全面的なサポート

最初に現在のご活動やお仕事の内容について教えてください。

基本的にはなんでも相談を受けるスタンスでやっています。たとえばリアルで洋服を作ることに時間がかかる、場所が取られるなどの現実的な難しい部分を3Dでサポートしています。

ANREALAGEでデザイナーを勤める森永さんのコレクションは、企画やデザインの方向性を決める前から2人で3Dを使っていました。コレクションの方向性が見えてきたらブラッシュアップして3Dサンプルの制作や、洋服以外の部分も3DCGの技術を使ってサポートしました。

ほかにも、ヘッドピースやアクセサリーなどのデザインにも関わっていたり、近年のバーチャルショーに際したモデルの導線、配置などを3D空間上でセットアップすることにも携わっています。イメージを作るだけではなくて、場合によっては型紙データなどを3Dとして組んだものをベースで実物を作れるようなデータの準備を行っています。

簡単なご経歴について教えてください。

僕は生まれが韓国で2009年末、震災の少し前に日本に留学にきました。2011年から4年間、文化服装学院の高度専門士科に入学して、卒業してすぐ文化服装学院で教員として勤めていました。そこから約5年ほど教員として勤め、洋服の作り方やパターンの引き方、縫製などを学生に教えていました。

そのなかで、3DCADツールのCLOを使った学生向けのコンテストがあったんですが、まだ当時文化服装学院はCLOを導入している環境ではなく、教員も使えない状態でした。当時から僕も興味がありましたし、たまたまCLOが韓国の会社が開発したソフトということもきっかけになり、勉強をし始めました。

文化服装学院を退職した後は、3DCGの仕事を志すために、1年くらいCGの勉強をしながら転職活動を行って、株式会社VRCに転職しました。3Dの勉強をしている間にも、さまざまなブランドさんからお声がけをいただき、協力・コラボという形でお仕事を一緒にさせていただきましたが、本格的に3DCGを使ったきっかけは森永さんでした。

コロナになって最初の緊急事態宣言が出たときに、外に出れない、場所もない、人も集まれないなか、森永さんから3Dを用いたコレクションの準備をできないかというお話をいただいて。森永さんは前にも3Dで服を作った経験をお持ちでしたが、それは3D専門の方との共同で、洋服を作ることに関する知識がなく、やりとりが難しかったようです。自分は3Dより服の知識の方があったので、そういう面で森永さんと話しながらコレクションの準備をしていく機会をいただきました。

森永様との共同制作ではどのような役割をご担当されたのでしょうか?

コレクションを準備していく間の全般的なサポートを行ってます。森永さんからコレクションテーマを頂いて、企画、デザイン出しから3Dで製作したイメージをベースにコレクションの方向性を一緒に決めてます。この段階ではシルエットや、色などのバリエーションのチェックを行ってます。

方向性が決まってからは、パタンナーさんから頂いたデータを使い、ディテールを加えて
3Dサンプルを製作します。更に着せ方、着こなし方のアレンジ、ディテール調整、シルエット修正、テクスチャ調整などを行いました。

基本的にコレクション準備中は全てオンラインで、画面越しにほぼライブのような形で作業をしていました。このような形で、僕はチームのなかでも、森永さんと直接やりとりをすることが多くて、コレクションの準備にガッツリ入るよりかは森永さんの相談役的な立ち位置になりました。

あくまで「ものを作る」ということ

ブランドの世界観やデザイナーの意図することを表現するためにどのような工夫が必要でしたか?

3Dでものを作って、それをイメージにするだけではなくて一番重要なのは、「ものを作る」ということで、僕はそれを強く意識しています。つまり、3Dで作ったものとリアルの服が一致していないと意味がないということです。

森永さんはいつも奇抜な発想でコレクションを作り上げることが多い方です。3シーズン前のコレクション「HOME」では、家のような形をした立方体の服を作って、人が着れる形にするというテーマでした。

当たり前ですが、洋服は重力で落ちるものであって、肩にかけるものです。その表現は従来のツールでもちろん可能ですが、立方体を保った状態でさらに洋服のディティールを表現をすることは、苦労しました。

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次のシーズンの「GROUND」では、天と地が逆になるコレクションでした。最初は3D空間上で服を作って、それを逆さまにすれば重力が逆になって上手くいくかなと思ったのですが、さまざまな問題が浮上しました。試行錯誤をしている間に、天地が逆になる表現をするには重力が重要であることに気づきました。そこで、3D空間上での重力の向きを変えてシミュレーションすることで、逆さまになったシルエットが出来ました。

1つ前のシーズン「DEMENTION」では映画『竜とそばかすの姫』とのコラボだったのですが、このコレクションでは約1ヶ月という短い間で準備をすることが一番大変でした。このコレクションでは、映画の世界での服のデータとリアルの服のデータ2つを用意する必要がありました。

それをいかに効率よく準備するかを考えたとき、3Dのデータを平面化して型紙として使うことを考えつきました。つまり、映画の世界のアバターや服の3Dデータを先に作って、モデリングデータをそのまま利用し、リアルの服を作る際に必要な型紙データやプリントデータを制作しました。

今回のシーズンではCLOはそこまで使いませんでした。全体的に見た目のデザインがポリゴンの形でカクカクとしたものだったので、どちらかというとCLOは柔らかいもの、布っぽいものは表現しやすいですが、硬いものの表現には特化してなくて、DEMENTIONの時はほぼCGの仕事に近いことを行っていました。

クリエイティビティと技術が折り合いをつける上で、苦労された点や相乗効果を生んだような点を教えてください。

どちらかというと森永さんは僕の方に合わせてくれている部分が多かったですね。3Dで表現が難しい部分に関しては違う方法で表現して、3Dで形が出せたらそこからつきつめたデザイン展開をする場面が多かったです。お互いにできることからデザインの発想を広げていきました。

僕はなるべく森永さんの思い描いていることを3Dで表現することに注目していて。森永さんが見たいものをいかにすぐ出すかというところに目的を置いていました。

森永さんとの仕事を重ねていくうちに変化した事や全体的なご感想を聞かせてください。

最初の頃はコレクションのアイテムも含め、全て3Dでモデリングしていたのですが、3Dでやるのが速い部分もあれば、リアルでやった方が速い部分もあるので、回数を重ねるうちに3Dでやることと、リアルでやることの使い分けがわかるようになりました。

CLOは洋服の形を作るのは速くて効率もよく、色などの修正も簡単ですが、ジャケットの袖をまくるなど、着せ方や着こなし方の部分ではリアルの方が簡単にできるのでその部分はリアルで行うという形で、どう使い分けるかが回数を重ねることでわかるようになりました。

3DCGの技術として関わっていくと、それが必ずしも必要のない部分が出てくるというのは、意外でした。

そうですね。僕の気持ちとしては全てのことを3Dで表現できるようになるというのが、ベストだと思うのですが。やはり効率的なところを考えると・・・という感じです。

専門性に応じた分化と、教育面の課題を乗り越えて

ファッション業界全体において3Dモデリングという職業の内容は今後どのような立ち位置になっていくとお考えでしょうか?

僕の個人的な意見ですが、洋服を作るときに使う3DCGの仕事と、それを作ることを考えてビジュアルの制作や、メタバース・NFTに活用できるようにする仕事に分かれるのではないかと思っています。

そこで関わる仕事の内容や、求められる技術は異なっていくのでしょうか?

そうですね。制作の方では洋服の知識、たとえば縫製や洋服の仕様、パターンを読む技術が必要になりますが、ビジュアル制作やメタバース用のデータを制作するにあたっては洋服の知識よりは3DCGの知識が求められている部分があります。

現在の3Dモデリング教育に対してお感じになられている点がありましたら教えてください。

今ファッション業界で活躍できる人材を育てる教育機関は、非常に少ないです。最近ではTFL(Tokyo Fashion technology Lab)や文化服装学院、モード学園などがCLOを使った授業をしていますが、環境がまだ整っていないイメージがあります。

それは教えられる人が少ない現状もありますし、今までにない新しい職業なので、経験を積んだ方が教育の現場にまだいません。企業からは人材が欲しいという声があるのですが、教育が不十分なので人材の確保はやはり難しい現状があります。

企業側ではCLOやBLOWZWEARなどのソフトが1台100万ほどと高価で、大量に導入はできない難しさもあります。たとえば企業の規模が小さく、1台しかソフトが導入できないとなると、触れる人が1人になるので1人で全てのことをやらないといけない。

大きい企業でも台数が限られるので、触れる人も限られてしまいます。もちろん、年数を重ねれば3Dソフトを使える人材も増え、ソフトの値段も下がり、バランスがよくなると思います。昔、2DのCADが出た時も最初は100万以上のソフトだったのですが、CADが業界で一般的になってくるにつれて値段も落ち着いてきたので、3Dソフトもそのような環境になっていくのではないかと思ってます。

バーチャルファッションへの今後の期待や、個人的に挑戦したいことがあればお聞かせください

バーチャルファッションは今も企業でCLOを導入したりクロスシミュレーションのソフトを活用し始めているところもあって、これから定着していくのではないかという期待もあります。あとはメタバースなどでエンドユーザーが体験できるバーチャルファッションのコンテンツが増える期待もあります。会社で行っている開発もそうですが、個人的には、今まで行ってきたデザイナーさんやブランドさんの思い描いているものを表現することに加えて、自分の世界観を落とし込んだ作品をNFT作品として公開することもしたいと思っています。

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