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2023.05.08

ANREALAGEのショーを彩ったLIGHTFORCEが見据える反射材の未来

反射材と聞くと、その多くは夜間の事故防止など、安全のために使用されるものという印象がある。健康志向の高まりに伴い、夜間のランニングなどスポーツ時に目にすることも増えた。そのなかでファッションブランドANREALAGEの2022ssショーで用いられたのは、オーロラのように鮮やかに光る反射材「LIGHTFORCE(ライトフォース)」だった。

このような「魅せる」反射材はどのように生まれ、どのような未来を目指しているのか? LIGHTFORCEを手がける株式会社丸仁の代表取締役を務める雨森研悟さんにお話を伺った。

PROFILE|プロフィール
雨森研悟 Kengo Amemori
雨森研悟 Kengo Amemori

㈱丸仁代表取締役社長、反射服装研究家。

2001年福井工業大学中退。2002年㈱丸仁入社。

おもにアパレル、美術、エンターテイメント分野での反射材の使い方を研究、普及活動を行っている。反射材を使ってくれるコラボ先を常に募集中。趣味は反射材を使った工作とオンラインゲーム。

カジュアルウエアへの模索

当社は私の父が1984年に創業しまして私が2代目になります。福井は繊維関係の事業が多い街で、先代は近くの繊維関係の会社で会社員をしており、そこから独立する形で事業を始めました。もともとは「ダイレクトプリント」「シルクプリント」と呼ばれるような、服にプリントする手法の版型を作る仕事をしていました。

それだけでは続かないということで、プリントの仕事に業務の中心をシフトしました。プリントといっても一般的な生地の上に直接プリントをするものではなく、熱転写プリントという方法になります。熱転写プリントではまず、フィルムの上にシルクプリントでデザインを印刷をする際に、熱で溶ける接着剤を一緒に印刷しておきます。その後、デザインを印刷したフィルムを服の上に置いて、熱転写機という大きなアイロンのような機械で加圧、加熱を行うと服にデザインがプリントされるという仕組みです。この熱転写プリントマークの製造事業が当社のメイン事業となります。

先代は、熱転写プリントマークと相性が良い、スポーツアパレルブランドに営業をかけておりましたが最初はなかなか大きな仕事はもらえなかったようです。そんななかMizunoさんがJリーグ立ち上げでユニフォームを一手に作ることになり、当社がそのマーク製造に手を上げて制作を任せて頂くことになりました。当社にとっては初めてと言っても良いメジャーな仕事で、物量もとんでもない規模でした。

しかし、Jリーグ案件を無事こなせたことが実績となり、スポーツアパレル業界で丸仁という名前が浸透してきました。この時はまだLIGHTFORCEなどのブランド名称はもっておらず、普通の熱転写プリントマークの製造でビジネスを続けていました。

そんななかで、何か社会貢献したいと考えるようになりました。反射材に目をつけたのは、当社のメイン事業である熱転写プリント技術が反射材を服に加工するのに相性が良かったためです。当時の反射材はあくまで目立つことが重要で、シルバーや黄色、オレンジといった、いわゆる安全そうなイメージ通りのものばかりでした。危険な場所で作業される方のワークウエアはもちろん、スポーツウエアなどにも使用されていましたが、一般の人が着るようなカジュアルな服にはなかなか使ってもらえないという現実がありました。

私たちが普段着ている服に反射材がついていなければ、いくら反射材の技術を高めても、一般の人を守れないと思い、ある意味では反射材らしくない反射材を作っていこうと考えました。そこで、カジュアルな服にもなじませられるよう柔らかく、カラーバリエーションも自由に選べるようなものをと試行錯誤した結果、色も自由に変えられ、更に光ったときにオーロラのようにグラデーションするというまだ世界にない新しい反射材を開発することができました。この技術は当社が日本、アメリカ、ドイツ、フランスで特許を取得しています。

これらの既存の反射材にはなかったファッション性に特化した当社の反射材シリーズ(熱転写プリント、生地、糸など)を「LIGHTFORCE」と先代が名付け、新しい反射材のブランドとして売り出したものを現在も引き継いでいます。

従来の反射材にシルバーや黄色などの特定の色が多かったことは技術的な背景があったのでしょうか?

反射材というのは反射させるために鏡のような層が1層必要になります。その層にアルミを使うのがもっとも反射の効率が良く、なおかつ安価なことがシルバーが多用される理由です。

シルバー以外の色となると、オレンジや黄色が多くなってきます。この色は、光っていないときでも目立つというのが大きな理由です。なかでも、道路で作業している人が危なくないように、蛍光黄色などのわかりやすい色が反射材として普及しはじめました。

結局、歴史的に反射材の需要は「安全」から始まっているので、「見えやすい色」というのがこれまで最も重視されてきたわけです。なので反射材メーカーさんもそのような色しか展開していないという背景がありました。

再帰性反射材「LIGHTFORCE」

LIGHTFORCEの機能の特徴を改めて教えてください。

私たちが言う反射材とは正確には「再帰性反射材」というものになります。反射というと鏡などを最初に思い浮かべる人が多いと思いますが、鏡の反射と「再帰性反射材」が違う点は、どの角度から光があたっても、光を受けた同じ方向に光を返すという特性があることです。

この特性が道路上での安全に役立ちます。車のヘドライトから放たれる光が反射材にあたって、車の方向に反射して戻ることで、ドライバーはその反射材に気がつくことが出来ます。これが鏡のような反射構造だと真正面から光があたらないとドライバーの方に光って見えないので、安全とは言えません。

また、LIGHTFORCEシリーズの中で最も特徴的なオーロラリフレクター反射材は再帰性反射材という点では一般的な反射材と同じで光ったときに真っ白な光を返しますが、オーロラリフレクターは、その名の通りオーロラのようなグラデーションの光を返します。

ほかにも、LIGHTFORCEシリーズには通常時に赤いデザインのプリントを光ったときもそのまま赤い光を返すようなものや、赤いデザインが光ると青いデザインに変わって見えるものなど、一般的な反射材にはない多くのバリエーションがあります。

このようにファッションに合わせやすい、合わせることでもっと面白いファッションを表現できるということをLIGHTFORCEのコンセプトにしてブランディングをしています。

反射材業界はそこまで大きいものではありませんが、それでも私たちはこの業界でまったく大手ではありません。その中で、私たちの反射材をお客様に選んで頂くためにファッションに一番特化するという方向性になりました。

いくつか導入事例を教えてください。

最近ですと、OVER PRINTさんのプロダクトに使って頂きました。OVER PRINTさんはインフルエンサーのなえなのさんなどをモデルに起用するなど、SNSで若者から絶大な支持を集めているブランドさんで、アイテムはちょっとレトロ感のあるグラフィックを味のある重厚なプリントで表現しているものが多いです。その特徴的なグラフィックプリントと当社のオーロラリフレクターをミックスさせて、フラッシュ撮影するとデザインが変わったりするアイテムに仕上げてもらいました。

具体的にはどのような形で企業に提供することが多いのでしょうか?

LIGHTFORCEのご提供の方法は、お客様が熱転写機を持っているかによって大きく2つに分かれます。お客様が例えばアパレル製造を行っているブランドさんであれば、熱転写機を持っている場合が多いので、当社からは熱転写マーク状態のものをそのまま販売させて頂く形となります。熱転写機をお持ちでないお客様の場合は、当社にTシャツなどの服の本体を送って頂き、当社で熱転写プリント加工まで行い、製品をお返しする形になります。

基本的には、何かにのせることが必要なんですね。

そうですね。熱転写マークの場合は最終的に生地にくっつける必要があります。依頼を頂くのはTシャツやパーカーなどのボディが多いです。転写以外の使い方としては、反射素材でできた生地をそのままカット縫製してジャケットやバッグに使って頂く場合もあります。我々は縫製はできませんので、生地使いの場合は反射生地を反物状態でご提供する形となります。ANREALAGEさんでは複数色の反射生地パッチワークでつなぎ合わせドレスにして使って頂きました。反射生地は普通の生地と違って柔軟性がほとんどないため、それをパッチワークして狙った形にするのはかなり熟練した技術が必要だと思います。

今までのお話だとコットン生地が多かったように思いますが、相性の良い生地などはあるのでしょうか?

相性的にはやはりコットンなど接着剤が絡みやすい生地素材がやりやすいですが、当社はスポーツアパレルさん向けの熱転写プリントの経験から、アウター用の布帛、撥水生地に対応した接着剤のバリエーションも豊富で、ほとんどの場合は付けることが可能だと思います。熱転写プリントの接着技術をそのまま反射材に展開できるのもLIGHTFORCEの強みです。

魅せる社会貢献

導入、提供した企業からのリアクションやお声はどのようなものでしたか?

LIGHTFORCEはカジュアルファッションブランドさんへ提供する機会が多く、「SNS映えする」というお声をいただきます。それはInstagramなどの写真を投稿するSNSで、LIGHTFORCEの反射を一つのネタとして表現できるからです。たとえば、LIGHTFORCEのプロダクトだと、フラッシュのありなしで「反射しているとき」と「反射していないとき」の2つを比較して投稿する楽しさがあるのかと思います。

私たちとしても、そのような投稿をしていただくことを推奨しております。ブランドさんにLIGHTFORCEを提案させてもらうときも「安全性が増しますよ」という話よりは、多様な魅せ方ができることをお話します。今まで、ファッションブランドの歴史の中でもなかなか使用されてこなかった素材ですので、昔からある程度反射材を知っているスポーツやワーク系のアパレルブランドさんよりカジュアルブランドさんの方が新鮮な面白い素材として注目してくれます。

そのような特徴を知っていただき、ブランドさんに採用してもらえることは結果的に交通事故防止という社会貢献にも繋がると思っています。つまりLIGHTFORCEという反射材をブランドさんに採用していただき、かっこいい、かわいいアイテムにしてもらってたくさん販売していただければ、結果的に多くの若者が反射材を身につけてくれることに繋がります。過程はともかくそれが結果的に多くの人に反射材を身に着けてもらえるので、反射材を普及させることになると考えます。

LIGHTFORCEをアップデートされた部分などはありますでしょうか?

反射材の素材自体は基本的にはあまり変わっていません。現在LIGHTFORCEの代名詞となっているオーロラリフレクター反射材も、実は10年以上前に開発されたものになります。ただ、やはり時代の変化に合わせて提案の仕方を変えたことが客層の変化に繋がりました。オーロラリフレクターが開発された当時は主要顧客のスポーツやワークブランドさんに、反射材の安全性を訴えるぐらいしか提案方法がありませんでしたが、現在はスマホとSNSがありますので、写真映えのインパクトでカジュアルブランドさんに使ってもらって、その実績がまたスポーツ、ワークブランドさんに新鮮に捉えてもらえて、良い循環が構築できたのかと思います。

LIGHTFORCEが今後チャレンジしたい点や展望などがあれば教えてください。

LIGHTFORCEの反射材の根底の思いとしては交通事故から人々を守るという社会貢献の考えがありますが、現代のファッション素材として広がった「写真映えする」、「SNSのネタになる」という特性は、ファッションアイテム以外に使っても有効なものと考えています。たとえば、アートやお店の看板などのようなものにもLIGHTFORCEは表現の可能性がありますので、日々色々と試作して、アパレル以外の業界の人たちにも見てもらっています。つい最近ですと、地元のJR駅の巨大なフォトスポットタペストリーに使ってもらったりしました。

まずは「面白いから」という理由から使っていただけることが大事だと思っています。街ではよく、警察や自治体の方々が積極的に反射材をキーホルダーにして配布していることがあります。交通安全を呼びかけるためですね。でも、なかなか身につけてくれる人が増えない事に警察の方はずっと悩んでいらっしゃるので、LIGHTFORCEの魅せる表現で人々を惹きつけるファッションとして成立しているプロダクトを提案したいと考えています。

ファッションは自分が身に纏える限られたものですのでそこに反射材をいれてもらうには、やはり安全云々の前にその人にとってカッコいい、かわいい、自分らしいと思えるものでないといけない、そこに入り込める提案こそが反射材メーカーとして僕らの生き残る道であり、それが社会貢献に繋がればこれ以上のことはないと思います。

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