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2023.01.12

ファッションローをより身近に感じるための「fashionlaw.tokyo」と、ファッション業界を取り巻く現状(海老澤美幸)

現在、ファッションに関わるさまざまな社会問題がニュースに取り上げられる。そのとき、合わせて法律との問題が指摘されることが多くなってきた。
しかし、ファッションに関わる人々は必ずしも法律に通じておらず、ファッションの複雑な現状を理解していないケースもある。そのなかで近年注目を集めているのが、ファッション産業に関わる法律の総称としての「ファッションロー」だ。
そこで今回スタイリストとして働いた経歴を持ち、ファッションと法律を繋げる「fashionlaw.tokyo」を立ち上げた弁護士の海老澤美幸さんに、ファッションローの現状とこれからについてお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
海老澤 美幸
海老澤 美幸

弁護士(第二東京弁護士会)/ファッションエディター
三村小松山縣法律事務所

ファッションにかかわる法律問題を扱う「ファッションロー」に力を入れており、ファッション関係者の法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」、ファッションローに特化したメディア「mag by fashionlaw.tokyo」主宰。文化服装学院非常勤講師、Fashion Law Institute Japan研究員。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員、同「ファッションローWG」副座長。2022年より株式会社高島屋社外取締役。ファッションローに関する執筆、インタビュー、講演等多数。

法の敷居とメディア

fashionlaw.tokyoを立ち上げた経緯について教えてください。
ファッション雑誌の編集者を経てファッションエディター/スタイリストとして仕事をするなかで、ファッション業界特有とも言える法律問題がたくさんあることを知りました。たとえば、誌面がポスターに利用されるなどの二次使用に関わる問題などもその一つです。
そうした経験から、ファッション業界の法律問題に興味をもち、それを解決するために弁護士になりました。当時、ファッション業界の人が気軽に相談できる場は少なく、問題意識を強く持っていました。
実際、私もファッションエディター時代に法律相談をした経験はありませんでしたし、たとえば弁護士に契約書を見てもらうなんていう発想もありませんでした。大学の学部が法律学科だった私ですらそうだったので、ファッション業界全体としてもまだまだそういう認識はなかったのではないかと思います。
最近は検索すれば法律知識らしきものがたくさん出てきますが、どれが正しいのか、どこが間違っているのかは専門家でないとなかなか判断が難しい。またファッションに限らず、法律についてわからないことがあると、まずは知り合いや先輩などの非専門家に相談することが多いと思います。もちろん知り合いや先輩の助言も有益ではあるものの、その助言がそのまま当てはまらなかったり、実は法律的にはよりベターな方法があることもあります。こうしたミスマッチを避けるためには、まずは弁護士へのアクセスのハードルを下げることが大事だと思い、fashionlaw.tokyoを立ち上げました。
同時に、「ファッションでも法律は重要だ」という認識を持ってもらうことが重要だと感じています。個人的には、法律の枠を知ることがクリエイティビティの発揮につながると思っているので、できれば関係者全員に法律のことを知っておいてほしい。とはいっても、法律はわかりにくい用語もたくさん出てきますし、なかなか理解が難しいですよね。そこで、そういった内容をできる限り優しい言葉で伝えられる場所があったらいいなと。編集者としての経歴も持っていたので、そういう経緯から「mag by fashionlaw.tokyo」を立ち上げ、現在に至ります。
mag by fashionlaw.tokyoではどんなトピックを取り上げていらっしゃるのでしょうか?
私自身が関心があるトピックを中心に広く取り上げていますが、SNSと著作権に関するトピックは人気ですね。特に著作権や知的財産権関連の話は多くの方に読んでいただいています。
契約もよく取り上げるトピックの一つです。実は、ご相談で一番多いのが契約関連なんですよ。明確な契約を交わしていなかったために発生したトラブルも少なくありません。仕事をしていく上で、契約の条件をきちんと決めておくことは本当に重要です。「どんな条件を決めておけばいいのか?」「 契約書を作成しないとダメ?」 といった「契約あるある」をわかりやすく説明するようにしています。
ファッションローというと、デザインのパクリなどの知的財産権のイメージが強いかもしれませんが、実は、あらゆる法律問題をカバーする法分野だと考えています。私自身も知的財産権関連にも力を入れつつ、文化の盗用やジェンダー関連のテーマも広く扱っており、そういったトピックを取り上げることも多いですね。
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