「はくひとおもい」というコンセプトで、良質な素材を使用し、編み方や時代にとらわれないデザイン、そして買い続けられる価格帯を提供するために、自社工場で製造される靴下ブランド「NISHIGUCHI KUTSUSHITA (西口靴下)」。
国内はもちろん海外でも愛されるその秘訣と靴下の深い魅力について、株式会社ニット・ウィンの西口功人さんにお話を伺った。
「1950年、私の祖父が始めた靴下の工場の名前は『西口靴下』といいます。
2代目の現在の社長になってからは、1999年に株式会社ニット・ウィンという社名に変更しました。その後、私がオリジナルブランドを立ち上げる際に、もともとの原点である西口靴下の名前を使用したいと考え、NISHIGUCHI KUTSUSHITAというローマ字表記にしました。
当時から海外展開の考えがあったため、外国での発音が難しいというデメリットはありましたが、それでもNISHIGUCHI KUTSUSHITAという名前を使用したいと思い、ブランドが誕生しました」
「OEM[1]を作る工場としての仕事と、ブランドの仕事は半々ぐらいでやっています。このブランドの仕事が100%になってほしいとは思っていなくて、私たちがブランドをやるのはあくまでもアート的な側面だと考えています。そのアート的な側面とOEMの仕事のような職人としての側面を合わせてニット・ウィンという会社だと考えています。
デザイナーで普段パッケージデザインの仕事をしている傍ら、自分自身のアート作品も作って定期的に個展を開くような方がいますよね。それに近い感覚です」
NISHIGUCHI KUTSUSHITAはどれもハイクオリティなアイテムだが、特にカシミヤのソックスはブランドの素晴らしさを体感できるアイテムだと思う。履き心地や価格においても、手に取った人たちは驚くことだろう。
「世の中で売られているカシミヤソックスのクオリティについて、私たち作り手としては納得できないところがあります。価格とクオリティのバランスが合っていないため、『この薄さだとすぐに履けなくなってしまう』という問題があります。
私たち作り手にはそれがわかるのです。日本の消費者がこのようなカシミヤソックスを手に取って、『これがカシミヤソックスか』と思ってしまうのは困ることだと考えています。たとえば、本当に良いカシミヤのセーターがあるとして、編み目がぎゅっと詰まっていて手入れをすれば5年、10年と着られそうなものがありますよね。
商売的なことを考えると、カシミヤの原材料は非常に高価であり、扱うべき商品ではないように思います。しかし、私たちが届ける理由は、カシミヤソックスというものが本来こうであるべきだということを示すことです。
靴下づくりには技術的な要素も重要ですが、感性的な要素も大きく関わっています。この太さの糸をこの組み合わせで編むと最適な仕上がりになるという感覚を、料理のレシピ開発に近い形で追求しています。
カシミヤという素材に対する感性のアプローチの仕方によって、どのように良質な靴下ができるかを考えて作っています。原材料のカシミヤの糸も色々試しましたが、『深喜毛織(株)』という会社の糸がもっともしっくりきました。
深喜毛織のカシミヤは、私の感覚では非常に『ねばっこい』特徴があります。汗をかいたときにしっとりとした独特の感覚があるため、嫌な感じがしないのです。カシミヤのような高級天然素材は、汗というネガティブな要素をポジティブに変える特徴があると思います。
また、カシミヤ100%で販売されている靴下があると思いますが、僕たちの場合はカシミヤ90%、ナイロン10%で作っています。なぜかというと、ナイロンが入っている方が強度が圧倒的に増すからです。結果として、お客さんに長く使ってもらえるアイテムに仕上がり、このナイロン10%が『はくひとおもい』な部分だと思っています」
「もう一つ、エジプトコットンのリブソックスという、1番シンプルなアイテムがあります。NISHIGUCHI KUTSUSHITAの定番であり、私たちの最高傑作だと思っています。
ブランドを立ち上げたときは、リサイクルコットンを使った靴下がブランドの顔になる商品だと思っていましたが、コットンの靴下という基本中の基本の商品を突き詰めて開発を進め、さまざまなコットンを試していく中で、エジプトコットンのギザコットンという種類にたどり着きました。
この素材は繊維が長く、あまく糸をよっても強度がある素材です。私たちはこのギザコットンを3本より合わせて使用し、試作を繰り返す中、通常より糸が頬張るくらいに機械に投入することで、独特の『もっちり』とした感触で弾力性のある靴下が出来上がりました。この靴下が、私たちが考える最高のアイテムとなりました。
履くと適度にクッション性もあり、分厚すぎる感じもなく、ものづくりの本質を表すような納得のいくアイテムになっています」
工場で使っている丸編み機と呼ばれる靴下の編み機の話を伺った。
「私たちは、オールドマシン(古い編み機)と新しい編み機の両方を使い分けています。オールドマシンは従来の技術で、新しい編み機はデジタルでオートメーションされた技術を使っています。同じ靴下でも、使い分ける編み機によって作り方が異なります。その使い分けもまた、私たちにとって重要な技術です。
古い技術をきちんと次の世代に伝え、若い技術者が育っていくことも大切だと考えています。後継者不足で廃業してしまう工場の話も聞きますし、最近はオートメーションの機械しかない工場もありますが、そのような中でも、私たちが実践しているものづくりに共感して、『この会社で働きたい』と思ってくれる人たちがいてくれて、それが実現できているのです。
『靴下で1日を変える、靴下で価値を変える』という言葉を使っていますが、私たちは働く価値観を変えていくことで暮らしを向上させたいという思いがあります。そのためには利 益を出す必要があります。利益を追求するために、ブランドのアーティスティックな部分が重要だと考えています。そして、その利益を従業員に還元する形で日々取り組んでいます」
大阪に旗艦店を構え、今後は奈良県葛城市の本社前にもファクトリーショップをオープン予定だそうだ、ショップ以外にも地域とつながる試みなども考えている。
日本で始まったNISHIGUCHI KUTSUSHITA。ブランドが立ち上がって半年後から海外の展示会に出展を続けており、現在、海外の取り扱いは30カ国ほどになっているという。NISHIGUCHI KUTSUSHITAは日本発のグローバル靴下ブランドだ。
[1]OEM:ブランドと工場の間に入り生産を一手に請け負うこと
株式会社ニット・ウィン
大手日用品メーカーで営業、マーケティングを経て、2012年に家業である株式会社ニット・ウィンに入社。天然素材を中心としたOEM生産と「はくひとおもい」をコンセプトとしたNISHIGUCHI KUTSUSHITAを 国内外の消費者に届ける。