フランス文化は、その裾野から頂上までを、多様で質実な職人技によって支えられている。それら職人たちの中で、最高峰の技を持つ証として国家から授けられるのが「MOF(フランス国家最優秀職人章)」である。
MOFは1924年に始まった制度で、230以上の職種を対象に4年に一度の試験で認定される称号だ。フランスの技術文化の継承者足り得る、高度な技術を持つ職人に授与される。
パリで帽子職人として活躍する日爪ノブキさんは、2019年に39歳の若さで日本人として唯一の帽子職人(正確には「Modist:婦人帽製造工」)としてのMOFを授けられた人物である。
PROFILE|プロフィール

日爪 ノブキ
帽子デザイナー。2004年に文化服装学院アパレルデザイン科を主席で卒業。イタリアに渡り、コレクションを発表する。帰国後、国内外の舞台やミュージシャンの帽子・ヘッドピースを制作し、同時にアーティスト活動として「NOBUKI HIZUME」を展開。2009年よりフランスに拠点を移し、数々のグランメゾンのパリコレクション用の帽子を手がけている。2018年には会社「JBK」を設立。翌年5月にフランス国家最優秀職人章を取得し、同年、帽子ブランド「HIZUME」をスタート。
帽子製作経験ゼロが、そのセンスを見抜かれる
「自分の意思では、ほぼ帽子をかぶったことなかったんです。 小学校の体育の赤白帽くらいですよ。それくらい帽子が嫌いだったんです」窓から中庭の涼しい風が時折流れ込むパリの7月初め、パリ市内11区にある日爪さんのアトリエでお話をうかがい始めると、意外な答えが返ってきた。「帽子、似合わないと思っていたんで」と屈託なく笑う。
MOFを獲得した実力者というイメージもあり、一見すると帽子職人という道が最初から開かれていたと思うかもしれないが、実際はそうでもなかったらしい。