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2023.12.07

日本の老舗工場が贈る安全なベビー服製造:小倉メリヤス製造所の取り組み

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ベビー服・子供服の縫製工場として、約半世紀にわたって生産を続けている小倉メリヤス製造所。日本国内では老舗に分類される歴史ある製造所のひとつだ。
ベビー服や子供服は、大人の洋服とは異なり、どこの縫製工場でも生産できるわけではない。殺菌や防腐などの目的で使われる刺激の強い物質「ホルムアルデヒド」の規制値が厳しく設定されているため、技術的にはベビー服が作れる工場があったとしても、ホルムアルデヒド管理がしっかりとできていなければ販売することはできないのだ。
小倉メリヤス製造所は、ベビー服・子供服だけでなく、工場で取り扱うすべての製品において、ホルムアルデヒドを含む素材・加工を扱わないことを徹底している。そのため、技術的な問題だけでなく、ホルムアルデヒド管理の面でも、ベビー服・子供服を安心して製造・販売できる体制を整えている。
今回は、代表取締役である小倉大典さんに対し、ベビー服・子供服製造における豊富な経験と製造のこだわりについてインタビューを実施した。
PROFILE|プロフィール
小倉 大典(おぐら だいすけ)
小倉 大典(おぐら だいすけ)

小倉メリヤス製造所 代表取締役社長
東京ニットファッション工業組合理事
東京都墨田区出身。大学卒業後、専門学校教員経験を経て、2003年に小倉メリヤス製造所入社。その後、上海に赴任し、2005年現地自社工場上海笑子服飾有限公司を設立。2015年代表取締役社長就任。

ベビー服・子供服製造は安全が第一

小倉メリヤス製造所が1929年に創業されてから、ベビー服・子供服の市場を開拓するに至った経緯について教えてください。
1929年の創業時は、東京の本所区(現在の墨田区)にて糸を仕入れて、丸編み機で編み立て、裁断縫製した紳士肌着を、創業者の祖父がリヤカーに積み、隅田川の両国橋を越えて、横山町(現在の馬喰横山駅あたり)に卸しに行っていたのが始まりになります。
当時の本所区は同様の工場が多く、今でもニット製造の一大産地として存続しています。そんななか、1963年、まだ当時は「ベビーウエア」というカテゴリーがなかった時代に、株式会社レナウンがピッコロというブランドを立ち上げ、その際に弊社を中核の専用工場に指定したことがベビーウエアとの出会いでした。
そこから2000年代前半まで、ベビー服・子供服の専門工場として生産を続け、2000年代後半からは、ベビー服・子供服以外のレディース・メンズ衣料なども生産するようになりましたが、今現在でもベビー服・子供服の生産シェアが高い縫製工場になります。
ベビー服・子供服の縫製において、小倉メリヤス製造所が培ってきたノウハウについても教えてください。
一番大きいのはホルムアルデヒドの管理体制です。目に見えないホルムアルデヒドは厄介なことに空気中で移染してしまいます。扱う素材によっても、動物性の素材は植物性の素材よりもホルムアルデヒドを吸収しやすく、また、さまざまな資材や時には設備に防腐材などを使用していると、そこから生地や製品に移染してしまうので、この管理は非常に厄介です。
乳幼児衣料のホルムアルデヒド基準値の知識がなく、レディース服の工場などでベビー服を生産し、基準値を超えて全品回収などのトラブルが発生した後、弊社へ製造を切り替える業者も少なくありません。
赤ちゃんは、全体的な体のバランスが大人とは異なり、頭が大きいことやおむつを着用していることなどから、パターンメイキングが重要です。また、着脱の際に頭囲寸法も考慮する必要があります。
また、仕様上ドットボタンを多く使用するため、その打ち損じやボタンがとれてしまった際の誤飲にも注意が必要です。これは、大きな事故につながる可能性があります。
さらに、赤ちゃんは「痛い」「かゆい」などを言葉で表現できないため、大人には想像できないような行動をとることがあります。そのため、安全への配慮はもちろんのこと、赤ちゃんが快適に身に着けられることにも配慮しながら生産を続けています。
創業当初から現在まで、ベビー服の生産を取り巻く状況に変化はありますか。
大きく変わったのは、業者様が製造現場に足を運ばなくなったことです。そのため、安全面や現場で起こる仕様面の知識が乏しくなり、理解していただくのが大変になりました。
アパレル製品において、デザイン面も重要ですが、ベビーウエアは安全性の徹底が不可欠です。
生地や資材、そして製品に対して、ホルムアルデヒド検査を実施しています。また、工場内のホルムアルデヒドの浮遊状況を管理するために、雰囲気汚染検査も行っています。
ベビー服・子供服は、付属品や加工(プリント・刺繍)の使用量が多いため、それらも含めた安全性を担保することが重要です。そのためのコストもかかります。業者様と工場が協力して、安全でおしゃれな製品を一緒に作ることが重要だと思います。
近年、いかにもベビー服というデザインの服は減り、レディース服のような大人っぽいベビー服・子供服が増えていると感じます。しかし、先ほど申し上げた安全性への配慮は、これからもその重要性は変わらないと考えています。
乳幼児衣料分野は生産が難しい分野のひとつだと思います。小倉メリヤス製造所がここに特化することを決定した理由についても教えてください。
ベビーブームの時代には、多くの工場が乳幼児衣料の生産に参入しましたが、その多くが次第にこの分野から撤退していきました。その主な理由は、工賃の問題だと考えられます。乳幼児は成長が早く、半年も経たないうちにサイズアウトしてしまうため、価格設定には限界があります。
この事実に伴い、工賃の設定も制約され、同業他社はDCブランドブームを経て、単価が高い婦人紳士のブランドの製造に方針転換していきました。
当社が乳幼児衣料に特化してきたのは、レナウンが日本にベビーウエアというカテゴリーを持ち込み、日本のベビーウエア市場を開拓した当時の中核工場として、自社もそれに貢献してきたという自負があるためです。当時はよく「弊社はベビー服屋」と表現していました。
工場によっては、トップスやボトムスのみに特化しているところも多いですが、乳幼児衣料でそれら一部だけを扱うのは限界があると考え、弊社ではオールアイテムに対応してきました。
カットソーだけでなく、布帛やよだれ掛けなどの雑貨も扱ってきました。弊社では当たり前に作ってきたものですが、よだれ掛けなどの丸みのある商材は、カーブをきれいに出すのが難しいと言われています。
弊社の製品は、そういう部分をきれいに対応できると評価していただいているのだと思います。また、絶対的な差別化はやはりホルムアルデヒドの管理だと考えており、その点について、海外のスーパーブランドの乳幼児服部門から視察や勉強会の依頼をいただくことも少なくありません。
御社が持つ独自の素材の特徴や競合優位性があれば、教えてください。特に工程に関しては、全工程において日本でのものづくりを大切にされている、と拝見しました。その背景についても教えていただけますでしょうか?
乳幼児衣料の製造に関しては、長年の経験と実績により、他工場よりも情報や知識、経験において圧倒的な優位性があると考えています。しかし、今はそれよりも、国内縫製工場および国内生産の生産拠点を守ることが重要だと感じています。
元々、国内生産拠点は縮小傾向にありましたが、コロナ禍の影響でさらに縮小が進んでいます。かつては同業他社はライバルでしたが、今は日本生産を守る仲間という認識を持っています。
日本国内には、まだ100名規模の工場も若干存在しますが、圧倒的に中規模・小規模工場が多数を占めています。各社、さまざまな努力をしていますが、時期やタイミングによっては仕事量が偏ることもあります。
乳幼児衣料だけでなく、婦人服・紳士服も、すべての国内衣料品製造工場が肩を組み、国内生産を守っていく必要があると強く感じています。
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