近年、企業が行うプロジェクトでは必須の条件となりつつある「サステナビリティ」への配慮。しかし、同時に自由なクリエイションにとっては障害となりうることも事実だ。表現と持続可能性はどのように共存し高めあえるのか。
PROFILE|プロフィール
守田 篤史(もりた あつし)
株式会社ペーパーパレード Co-founder / Creative Director / Printing Director 多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。「紙や印刷の新しい価値を生み出す」をテーマに、フィジカルの境界を横断しながら独自の世界観を創出するデザインを提案。下町の印刷・紙加工工場との協働を通じてプリンティング、プロセッシング技術の知見を深める。アートディレクターとプリンティングディレクターの2つの視点からの提案を得意とし、サーキュラーの観点からプロジェクトをプロデュース。国内外の受賞歴多数。
「リガレッタ」のバッグ。企業の広告物をアップサイクルしたオリジナル素材を使用
Paper Paradeの事業について教えてください。 「紙や印刷の可能性を探ること」を原点に、グラフィックデザイン・ブランディング・アートプロジェクトなどの領域で活動しています。特に近年はサステナビリティを意識した循環型のプロジェクトにも注力することが多くなりました。
本記事ではPaper Paradeの活動から、サステナビリティとクリエイティブがどのように共存・相乗するのかを考えたいと思います。 Paper Paradeのクリエイティブは、サステナビリティを特別なものではなくあたり前のこととして、デザインを提案しています。まず国際的な前提として、ビジネスプロジェクトを推進する際に持続可能性を考慮しない企画やデザインは見直され、そういった企画では承認が得られにくくなっています。サステナビリティに価値があるのかという議論はなかば終結していて、シンプルに「やらなけ ればならない」ものになっている。この流れは日本にも今後より色濃く反映されていくでしょう。
ファッションの世界でもアップサイクル素材の使用やリアルレザー・ファーからの脱却が盛んです。 一方でそれは創作活動の自由にとってどんな影響があるのかという問題があります。私は正直にいえば、数年前まで持続可能性への配慮はクリエイティブにとって「不都合な」制約だと感じていました。使用できる素材も限られ、発信するメッセージも制限される。ひとりのデザイナーが地球規模の課題に対してできることがどれほどあるのかと疑問を抱いていたところもありました。しかしながら、2020年に参加したあるデザインの国際会議でその疑問を投げかけたところ、多くのデザイナーから批判されたんです。「デザインにだってできることはあるんだ!」と、皆さんとても強い思いを持っていました。世界のクリエイターとのスタンスの違いにショックを受けましたね。
そこでグラフィックデザイナーとして何ができるのかを考えはじめました。私は広告がきらびやかな時代にデザイナーを目指して、美しく・かっこいいものを表現し追求していくことこそが、正しい在り方だと考えてきた。では、いまサステナビリティを意識しながらも「美しく」していくにはどうしたらいいのかと。そうした問いから生まれたのが「都市型サーキュラー」という考え方でした。
「都市型サーキュラー」とは。 サステナビリティは、自然素材やローカリティなどに着目したバナキュラー(土着)的なアイディアが多く見られますね。しかし私は都市に住み仕事をして生きている。都市生活から生まれたものが都市の中で循環していく仕組みをクリエイティブでつくれないだろうかと考えました。そのもっとも重要な対象のひとつが「屋外広告のアップサイクル」です。たとえばビルや駅の中、ストリートに掲示されているフラッグなどの大きな広告物。これらは「ターポリン」「遮光スエード」など悪天候にも耐えうるとても頑丈な素材を使用していますが、広告であるため通常2 週間ほどで取り換えられていきます。
数年間は問題なく使える素材が、2週間で廃棄されるのです。まったくサステナブルとはいえません。広告が「使い捨て」であることは広告業界内で長年の課題になっていましたが、キャンペーン的な短期間・単発でのリサイクル事例はあっても、継続的な循環に成功した例は少なく、社会に実装していくためには課題も多くありました。
ターポリンはファッションにおけるサステナビリティで有名なブランド「フライターグ」でも使われている素材ですね。多くの使い道がありそうですが、なぜ再生できないのでしょうか? もちろん使い終えた屋外広告を裁断して、バッグや服をつくることは充分可能ですし、社会的にも価値がある。しかし再利用の許可がとれないのです。広告は商標権・肖像権・著作権など知的財産権の塊ですから。掲出した企業、参加した芸能人やモデル、そして私のような制作サイドのデザイナーなど複雑な権利者がおり、そのすべてにOKをとることは非常に難しい。権利委任の手続きをしている間にも2週間で新しい広告に取り換えられていき、保管するより廃棄したほうがコストがかからないため、交渉が成り立たない。屋外広告には広告業界の構造的な問題が集積しているといえます。しかし、だからこそチャレンジしたいと思いました。頼りになったのはデザイン的思考でもよく使われる「枯れた技術の水平思考」という考え方です。