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2023.05.17

THE NORTH FACEとのコラボでも話題の構造タンパク質素材『Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)』の無限の可能性

山形県鶴岡市に本社を構え、環境への負荷を考慮した先鋭的な素材を開発しているバイオベンチャー企業のSpiber(スパイバー)株式会社。同社は2013年、独自開発したクモ糸を模した人工構造タンパク質素材で作ったドレスを発表したことで話題に。
以降もタンパク質合成の研究を重ね、植物由来の糖類を使用し微生物発酵により製造される構造タンパク質素材『Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™ )』を開発。2022年からタイにて同社初となる量産プラントでのタンパク質ポリマーの生産が開始されていて、数年かけて生産量を拡大していく予定。
2019年には、アウトドアブランドのTHE NORTH FACEを日本国内で展開するゴールドウイン社と共同で開発した、ブリュード・プロテイン繊維を使用したアウトドアジャケット『MOON PARKA(ムーン・パーカ)』が発売されるなど、アパレルシーンでも注目度を高めている。
SDGsの観点からも大きな期待を集めているこのブリュード・プロテイン素材について、さらには同社が描いている“未来のものづくり”について、取締役兼代表執行役を務める関山和秀さんに話をうかがった。

人類の問題を解決する画期的な素材。それが『ブリュード・プロテイン』

アパレル業界を中心に革新的な素材を世に送り出すSpiberとは、そもそもどのような会社なのだろうか。そして、具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。
「私たちは、人類社会の役に立つことをやりたいという思いのもと、“持続可能な人類のウェルビーイングに貢献する”というのをミッションに掲げ、それを実現するためのさまざまなプロジェクトを進めています。なかでも、タンパク質を素材として使いこなす技術においては今、世界でトップを走っている企業だと思っています」
Spiberといえば、2019年に発売されたムーン・パーカの素材として注目された、構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」によって、さまざまな業界にイノベーションを起こしている。ではなぜ、タンパク質由来の素材を使うことが人類への貢献になるのだろうか。
「一例としてアパレル業界についてお話しすると、アパレル製品というのはテキスタイル(布地)や繊維でできていますが、それらは世界で年間約1億トン生産されているといわれています。現在、世界のCAGR(年平均成長率)が4%とされるなかで、その消費量と生産量も増加傾向にあり、単純計算で20年後には年間およそ2億トンもの生産量が必要になると予測できます。
一方で、地球環境に配慮して生分解しない石油由来の化学繊維の使用量を減らしていくと天然資源が足りなくなるため、『循環性』を上げる必要があるのですが、それを可能にするのがこのブリュード・プロテイン素材なのです」
2019年12月にザ・ノース・フェイスから発売された、3層構造の表地に構造タンパク質素材のブリュード・プロテイン™繊維を採用したアウドドアジャケット『ムーン・パーカ』。商品名は“困難だが実現すれば巨大なインパクトをもたらす挑戦”を意味する「ムーンショット」に由来
2019年12月にザ・ノース・フェイスから発売された、3層構造の表地に構造タンパク質素材のブリュード・プロテイン™繊維を採用したアウドドアジャケット『ムーン・パーカ』。商品名は“困難だが実現すれば巨大なインパクトをもたらす挑戦”を意味する「ムーンショット」に由来
資源の循環を可能にするというブリュード・プロテイン素材について、さらに詳しく教えてもらった。
「サステナブルな社会を実現する上では、ものをリサイクルすることも大切ですが、ひとつのものを長く使うことのほうがより重要になってきます。しかし、リユースしてどんなに大切に使っても、ボロボロになってしまえば最後には必ず廃棄しなければなりません。
最近はアパレルメーカーを中心に再生ポリエステルや再生ナイロンが普及し、そのほとんどがペットボトルなどを原料としていますが、衣服から衣服、繊維から繊維へのリサイクルはできません。つまり、ペットボトルなどは一度しか再利用できず、その次はゴミになってしまうのです。
では、どうしたらいいのか? いろいろと思案するなかで、『この地球上で一番高度なプロダクトは、人間なども含む生き物だ』という考えに辿り着きました。生き物はさまざまな機能を持つ器官からできていますが、すべて再資源化したり、自然に還したりすることが可能です。
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#Sustainability
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