1970年代にブロンクスの路上で生まれたストリートファッションがアパレルの巨大なジャンルになったのはいつごろのことだろうか。
90年代に原宿の街角で巻き起こった「Kawaii」カルチャーや裏原ブランドがラグジュアリーメゾンのデザインソースになって何年経つだろう。
前衛的で実験的でリアルで、まだ何者にもなれない人々の自己表現の手段として路上のファッションは成長し、やがて世界を動かした。
そして今、新しい「ストリート」は仮想空間の中にあるのかもしれない。2020年代に入りメタバースプラットフォームの中に現れた「アバターを着る」文化。そこにはまだ誰にも整理されていない、自由な装いが拡がっている。
本記事ではVRChatを中心に写真作品を撮るバーチャルフォトグラファーであり、自身もモデルとして複数のアバターを着こなす「suma」氏に話を聞いた。リアルクローズからサイバー、巨人化/人形化までアバターファッションのカオティックな数々とその楽しみ方、代表的なブランドを紹介。服好きのユーザーが集まる「集会」カルチャーからもスナップを掲載する。 PROFILE|プロフィール
suma(すま)
VRフォトグラファー/モデル。VR映画スタジオ「カデシュ・プロジェクト」副代表。
sumaさんの活動について教えてください。
主にVRChatでアバターや「ワールド」(ユーザーがVRChat内に構築するデジタルスペース)を撮る「バーチャルフォトグラファー」として活動しています。アバター撮影のモデルなどもしています。SNSに投稿されているsumaさんの服装はリアルクローズに近いものからサイバーなコスチュームまで見られます。情報収集の手段は。
フォローしているショップの新着アイテムをチェックしたり、SNSやVRChat内で出会ったフレンドの服を「それどこの?」と聞き合ったりする感じで、ほとんど現実のファッションと同じです(笑)。リアルと違う点は、マーケティングがトレンドを動かしているわけではないので、口コミの力が圧倒的に強いことでしょうか。VRChatにはかつてのストリートファッション全盛期のような熱気が感じられます。現在のような多様な服装が見られるようになったのはいつごろからでしょうか。
2020年ごろから一気に増えました。私が友人に誘われてVRChatをはじめたのは2017年ですが、当時と比べるとアバターもアクセサリーも百花繚乱です。VRでファッションを楽しむ方法は。
VRChatの場合はパブリック(無料公開)のアバターが無数に用意されていますが、自分だけのアバターを着たい場合はUnityというゲームエンジンでVRChatのサーバーに3Dモデルをアップロードします。アバターやファッションアイテムは自作ですか。
Blenderなどのモデリングソフトで自作も可能ですが、主には「
BOOTH」(編集部注:ピクシブ株式会社が運営するクリエイタープラットフォーム)で販売されている3Dモデルを買って自分なりの姿に「改変」し、アップロードします。3Dモデルの価格はほとんどが数百円から数 千円で、無料配布されるアイテムも多く、リアルのファッションより気軽に自由なコーディネートが組めます。
「改変」とは。
「改変」はVRChatのカルチャーの中で重要なキーワードです。既存のアバターや服のデザイン・色・サイズなどをユーザー自身で調整してオリジナリティを出すことを指します。サイズや色まで変えられるのですか。
はい。私がメインで着ているアバターも「森羅(Shinra)」というモデルを改変したものです。デフォルト状態と比べると髪型や顔つき、体型までほとんど別の姿です。
アバターには「シェイプキー」という変更可能な幅が設定されていて、その範囲内で調整して個性を出します。「森羅」はデフォルトの美しさに加えてシェイプキーが豊富で、改変しやすい点でも人気のアバターです。他にも「Lapwing」は最近リリースされたアバターの中で話題になった一体。作者の「久(くじ)」さんに よる独特の表情や造形が魅力です。