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2021.10.20

「AI によるラベリングから逃れるためカモフラージュ」が投げかける、AI社会での新たな服の選択肢

日常生活の様々な局面で、AIを活用したサービスに触れる場面が増えている。それは私たちにとって非常に便利なものである一方で、プライバシーや自分のデータの使われ方に対して、不安を抱いている人も少なくないだろう。
こういった社会背景のなかで、AI の「目」から身を守る術として提案されたのがUNLABELED(アンラベルド)による「AI によるラベリングから逃れるためのカモフラージュ」だ。UNLABELEDは、Dentsu Lab Tokyoと株式会社Qosmo が共に立ち上げたテキスタイルレーベル。今回は、初の展示会『Camouflage Against the Machines』の開催に際して、この「AI によるラベリングから逃れるためのカモフラージュ」の背景にある思想について、Dentsu Lab Tokyo・クリエーティブ・ディレクターの田中直基氏、株式会社Qosmo・代表の徳井直生氏にインタビューを行った。
PROFILE|プロフィール
田中直基

Dentsu Lab Tokyo クリエーティブディレクター。大学・大学院では、マテリアルエンジニアリング専攻。言葉、映像、デザイン、テクノロジーなど、課題に適した手段でニュートラルに企画することを得意としている。主な仕事にTOKYO2020パラリンピック開会式(選手入場パート)、「マツコロイド」、NHKのAI野球解説システム「ZUNO」、Eテレ「デザインあ」など。受賞歴に文化庁メディア芸術祭審査員特別作品、グッドデザイン賞、カンヌライオンズなど。京都芸術大学情報デザイン学科特別講師。



PROFILE|プロフィール
徳井直生

株式会社Qosmo 代表取締役 / 慶應義塾大学 政策・メディア研究科(SFC) 准教授 / Dentsu Craft Tokyo, Head of Technology

2009年にQosmoを設立。Computational Creativity and Beyondをモットーに、AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索。AIを用いたインスタレーション作品群で知られる。2019年4月からは慶應義塾大学SFCでComputational Creativity Labを主宰。研究・教育面からも実践を深めている。著書に『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』(BNN)など。東京大学 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。工学博士。

AIによる監視という問題を、身近に考えるきっかけに

まず、「AI によるラベリングから逃れるためのカモフラージュ」の開発の経緯、またプロジェクト体制について教えてください。
田中そもそもは2019年の2月ぐらいに、僕と徳井さんの2人で雑談をしていたところから始まったプロジェクトです。はじめはTシャツにプリントしたものを作りました。それはミラノで開催されたMeet the Media Guruというメディアアートのカンファレンスで徳井さんが招待講演をする機会があって、そこでも紹介してもらいました。
そのタイミングで徳井さんが慶應義塾大学の准教授になられるということで、次のプロトタイピングをSFCの学生さんとも共同でやってみようという形で進め、こちらは2020年2月にMedia Ambition Tokyoで展示を行いました。
そこから再び僕と徳井さんで、作品をさらにスケールするために、実際に店舗を作ってみたり、実証実験と広く展開してみようということで、今回の展示会の開催に至りました。
Media Ambition Tokyo 2020
Media Ambition Tokyo 2020
今回、これまでのプロトタイプから商品として一般のユーザーに向けて展開した経緯を詳しく教えてください。特に、実証実験という表現をされていましたが、どういう意図があるのでしょうか?
田中率直に言うと、今回も商品を作ろうとして進めたわけでもなく、今回発表するものも商品というよりは作品だと思っています。
もともとは上海での展示なども予定していたのですが、コロナ禍で見送ることとなり、国内での展開へと切り替えるなかで、プロダクトとして作るパートナーを探していきました。特に、これまではSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のメンバーなどインナーで作ってきましたが、外部のパートナーと組んで新たな化学反応が生まれることが面白いかもと考えていたところ、NEXUSVII.(ネクサスセブン)というストリートカルチャーをベースにファッションを提案しているブランドの方が共感してしてくださり、一緒に作っていくことになりました。実証実験と表現したのは、これは実際に着てもらったり、試してもらって、どのような反応が起きるかをみていくことに意味があると思っています。
そもそもこのカモフラージュの制作を始めた経緯が、タクシーに乗っていた時、座席に備え付けられている広告ディスプレイに「カメラで性別や年齢を推定し最適な CMを流します」という注釈がつけられていて、違和感を持ったことがきっかけでした。このダイバーシティと盛んに言われている時代に、機械の中では「見た目の性別」しか存在しないんだなと。
そこで調べてみると、海外ではこういった問題に対しては、大手企業が監視カメラ事業から撤退したり、ロンドンではデモが起こったり、サンフランシスコでは州法が改正されたりと、はるかに議論が進んでいることを知りました。一方で、日本では国民性もあってか、あまり議論になっていませんが、やはり僕らはクリエイターやアーティストみたいな肩書きを背負っているので、活動家としてデモをするとかではなく、楽しく認知が広まってもらいたいという思いがあり、制作を始めました。なので、今回は少しスケールアップをして、社会に小石を投げ込んでみたいという意図があります。
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#Wearable Device
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