累計360万ダウンロードを突破し、MAUは66万人に達している国内シェアナンバーワンの登山地図GPSアプリ「YAMAP(ヤマップ)」。電波の届かない山の中でも現在地がわかることから、位置情報の共有や遭難リスクの低減につながり、多くのユーザーから支持を得ている。
そんなYAMAPを運営している株式会社ヤマップは、2019年から「YAMAP STORE」を運営しており、独自セレクトはもちろん、メーカーとの別注商品やYAMAPオリジナルのウェアや道具を販売している。
さらに、2024年にはプライベートブランドを立ち上げ、天然素材を生かしたウエアの開発・販売にも取り組んでいくという。
そこで今回、株式会社ヤマップ STOREグループ執行役員兼事業部長の清水直人さんに、YAMAP STOREがスタートしたきっかけやアイテムがどのように開発されているのか、そして今後の展開まで聞いた。
創業当初から、代表の春山(慶彦)の頭の中には、「アウトドア製品とファッション」を展開する計画がありました。登山地図GPSアプリを中心としながら、他にも「コミュニティ」と「読みもの(コンテンツ)」があり、相互の関係によって活性化されるイメージです。この図を頭に描いて事業を続けつつ、市場環境や私たちのステージに合わせてビジネスモデルを進化させています。
そして、現在は登山・アウトドアに関する幾つかの事業を展開するまでになりました。日常と登山シーンが連なるライフスタイルの中で、人と環境のWell Beingが向上していく「YAMAP Well Being Life Journey」の流れにもとづき、ユーザーさんに寄り添ったサービス・体験がオンライン・オフラインに関わらず設計されています。
YAMAP STOREは、YAMAPユーザーさんが利用する道具店として生まれたわけですが、メーカーとの別注商品やオリジナル商品の開発にも力を注いでおり、ユニークなラインナップを取り揃えています。
YAMAP STOREのコンセプトは、「私たちが本当に良いと思った商品のみを取り扱うセレクトオンラインストア」です。社員やユーザーさんの声を反映した商品が揃っています。YAMAPアプリに集まる活動日記やデータ、ユーザーさんとの交流会などからもヒントを得て商品のセレクトや開発に生かしています。
当初はメーカー商品のセレクト(仕入れ)が中心でしたが、ユーザーさんに寄り添い、登山中の悩みの解決につながる別注・オリジナル商品を販売することで非常に良い反応を得られるようになりました。今ではそれが強みに変わり、月間売上げの約30%を占めるようになっています。
国産アウトドアブランド「finetrack(ファイントラック)」に別注させていただいた「カミノパンツ」です。販売期間が限られているにも関わらず、YAMAP STOREだけで累計 で4,000本ほどを売り上げています。
別注のきっかけは、代表の春山が愛用していたことでした。春山としては「物の良さは素晴らしいが、機能面をもっと改善したい」という思いがありました。
そこで、春山を中心に社員が改善点を洗い出し、私たちからfinetrackさんにコラボレーションの提案をさせていただきました。
finetrackさんの優れたモノづくりを踏まえて、私たちが企画段階から加わることによって、より製品の良さを引き出すことができました。
たとえば、具体的に提案したのはスマホ専用ポケットです。YAMAPユーザーの皆さんは、登山の際にスマホでYAMAPのアプリを見るわけですが、いざ山の中でスマホを取り出すと、落としたり無くしたりする危険がありますし、意外と嵩張るアイテムでもあります。
そこで、登山中にスマホを出し入れするストレスや、腰を下ろした際にお尻に当たる煩わしさを解消するため、スマホ専用ポケットを考えました。バックパックにも干渉しない絶妙な位置にあります。
また、本来あった膝上のロゴもなくして、カラーも普段使いしやすくすることで、登山中以外も着用したくなる機能的なパンツとして好評を得ています。
基本的にオリジナル商品のすべてに、私たち含めユーザーさんの悩みが反映されていると言えますが、その中でも「YAMAP別注 山を歩くインソール」が代表的で、カミノパンツと同じくらいのヒット商品となっています。
登山をする方は何かしら足の悩みを持っていることが多いのですが、たとえば足の痛みを気にしながら山に登るのは、楽しさが半減するだけでなく、場合によっては命の危険にも関わってしまいます。
昨今、厚底の靴が増えており、足に負担がかからない利点もありますが、しっかり足指を使って歩く、足本来の機能が損なわれているという指摘もあります。その結果、足の機能が退化したり、膝や腰など別の場所に負荷がかかったりするのです。
そこで、足指を使って安定した歩行ができることに特化した登山用のインソールを、専門メーカーのBMZさんと共に開発しました。
たとえば、「YAMAP別注 山を歩くインソール ベーシック」では、cuboid(立方骨)を中心に『足の骨格バランス』をサポートするBMZ cuboid balance理論に加え、インソール全面に衝撃吸収性の高い機能素材「PORON®」を採用しました。
高価な素材のため部分的に使われることは多いのですが 、インソールの全面に使用していることが特徴です。そして、表生地は「Kラコルト® SU」で、対摩耗性や汗の透湿性に優れている素材を採用しました。
発売後に「足の痛みが改善されました」「諦めていた縦走にチャレンジすることができました」といったお手紙がたくさん届き、とても嬉しく思っています。
そして今では、私たちの製品開発の体制が整ってきたこともあり、メーカーさんと素材や生地について一緒に考え、開発する機会も生まれています。
3月31日に、新素材「PlaX(プラックス)」という糸を開発しているBioworks株式会社と協力して、製造時のCO2の排出が少なく、抗菌・防臭性に優れたアウトドア用のカットソーを発売しました。
ユーザーさんの声だけでなく、私たち自らが試着やフィールドテストを行い、どんな糸の配合で生地を作れば登山に適した機能が得られるかという観点で意見を伝え、共同開発しました。
汗や臭いのお悩みを解決するアイテムとして、非常に多くの反響をいただいています。すでに一部のサイズが完売したため、追加の生産をかけています。
こうした取り組みを踏まえ、私たちがゼロから糸を開発して製品化まで行う予定もあります。
この点に関しては、あくまでアウトドアメーカーさんの仕事だと考えており、私たちが競合になるつもりはありません。
そのなかでYAMAP STOREでは、プライベートブランドの立ち上げを来年2024年春に予定しています。これまでの別注・オリジナル商品とは異なり、コンセプトは天然素材を中心としたものづくりです。
単に天然素材が良いと伝えるのではなく、素材が生まれた背景や自然とのつながりをストーリーとして紹介したいと思っています。
今年YAMAPは創業10周年を迎え、新たなパーパス(存在意義)として「地球とつながるよろこび。」を掲げました。自然をはじめ、あらゆる環境とつながることで、私たちが存在するよろこびを伝えたい。それが、YAMAP STOREで天然素材を中心としたウェアをつくる理由の一つでもあります。
昨今、登山・アウトドアシーンで使われる衣服の素材は、ポリエステルやナイロンなどの化学繊維が中心ですが、それがなかった時代には天然素材が用いられ、機能性としても十分優れていました。天然素材の良さを改めて知ることで、私たちの地球環境に対する視点を変えていく試みです。
ちょうど繊維や糸の選定が終わり、どんな製品をつくるか検討し始めているところです。
2026年に向けて、当社全体では「クローゼット構想」を水面下で進めています。
登山・アウトドアを楽しむハードルを下げるために、ユーザーさん同士でアイテムの貸し借りや、中古品の売買など、いわゆる道具の循環をYAMAPのプラットフォームの中で行い、新しい商品を買う以外の選択肢を増やす取り組みです。
私たちは、ウェアや道具といった"モノ"ではなく、登山・アウトドアの「体験」にお金を使っていただくことが大事だと考えています。道具の循環によって、登山・アウトドアを楽しむための"モノ"のハードルを下げること、そして、YAMAPのアプリで蓄積されたデータと組み合わせて、ユーザーさん一人ひとりにパーソナライズされた提案を行っていく仕組みが、新しい小売のあり方だと考えています。
こうした私たちの取り組みを通して、大事な地球の自然環境を次の世代に残していけたらいいですね。
株式会社ヤマップ
STOREグループ執行役員兼事業部長
大手アパレル企業に入社後、独立。アパレル・服飾関連・食品企業において、Eコマース/販売部門責任者、新規事業立ち上げ、コンサルティングなど、小売業の事業拡大やサービス向上に一貫して努めてきた。2018年9月よりヤマップに参画し、STORE事業のリーダーとして立ち上げから2年で年商数億円の事業に成長。今後は、未来のEC「クローゼット構想(YAMAPのプラットフォームを活かした循環型の新しい小売りの仕組み)」やプライベートブランドを創り上げていく。