2021.05.06

【対談】Pinscreen ハオ・リー・ZOZOテクノロジーズ 高橋一馬「バーチャルヒューマン『Drip』が切り拓く未来図」

#Project Drip
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ZOZOテクノロジーズが発表したバーチャルヒューマン「Drip」。コンピュータビジョン領域を牽引するHao Liが創業したPinscreenとの協業で生まれたこのプロジェクトであるが、両者のコラボレーションはどのようにして生まれたのだろうか?

今回はPinscreen CEO・Hao Li氏と、本プロジェクトを率いるZOZOテクノロジーズの新規事業開発部署であるMATRIX本部長・高橋一馬氏の対談をお届けする。

画像: 左/Hao Li氏 右/高橋一馬
左/Hao Li氏 右/高橋一馬
PROFILE|プロフィール
Hao Li (ハオ・リー)

Hao Li(ハオ・リー)は、コンピュータ・グラフィックスとコンピュータ・ビジョンの起業家、研究者。高度なAIを使用したバーチャルアバター開発のスタートアップ、Pinscreen, Inc.(ピンスクリーン)のCEO兼共同設立者。UC Berkeleyの特別研究員。2013年にはMITテクノロジーレビュー誌にて、「Top 35 Innovator Under 35」に選ばれ、2018年にはOffice of Naval Research主催の、「Young Investigator Award」を受賞。2019年からDARPA ISATのメンバーとして活動し、ACM SIGGRAPH2020の「Real-Time Live!」にて 「Best in Show」を受賞。

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PROFILE|プロフィール
高橋一馬

欧州でスタートアップの立ち上げの後、大手総合ECプラットフォームにて新規事業、輸送企画等を経験。2019年よりZOZO TechnologiesにてVP of InnovationとしてR&Dと新規事業の創造に従事。

誰もがバーチャルヒューマンを作れるように

日本最大級の洋服通販サイト「ZOZOTOWN』を運営するZOZOグループで、なぜバーチャルファッションの分野に挑戦しようと思ったのでしょうか。興味を持った経緯、自社のビジネスにとって重要だと考えた理由を教えてください。
高橋:

背景として、ファッション産業が他の産業と比べて、テクノロジーの成長スピードが遅いという現状があります。一般的に繊維産業やアパレル産業の構造は、ここ数年で変化していません。一方で、例えばスマートフォンの普及のように、私たちの生活にはここ数十年間で多様な変化が見られます。このように変化が乏しい産業だからこそ、テクノロジーによっていかに変化を生み出せるのか、ファッションテック企業として考える必要があると思っています。

そして、そのためのアプローチのひとつが、「我々はバーチャルな世界と接続することがが可能か」という問いへの対峙となるでしょう。こういったバーチャルな世界の盛り上がりは、既にゲームを通じて見られている現象でもあります。例えば、日本で人気の「あつまれ どうぶつの森」では、バーチャルの世界で着飾って友人に会ったり、ただただファッションを楽しむことも可能です。

このようにバーチャルファッションを実装していきたいと考え始めましたが、その手法が不明確だったため、日本だけでなく、世界に視野を広げてパートナーを探していました。そして実際にいくつかの会社とトライアルも行い、スピード感があり、現実的でスケーラブルな技術を持っているパートナーとして、ハオが代表を務めるPinscreenと共働することになりました。互いに同じ気持ちを持ち、ビジョンを共有することが必要となる非常に大きなチャレンジではありましたが、私の上司でありZOZOテクノロジーズ代表取締役CINOである金山裕樹と共に、ハオと連携してムーンショットに挑むことを決めました。何より、スケーラビリティ(拡張可能性)を感じられたことが大きいです。

スケーラビリティが重要だということですが、それはなぜでしょうか?具体的に、Pinscreenの技術の優れているポイントを教えてください。
Li:

Pinscreenで行っていることは、AIを活用したバーチャルアバターの自動作成と、ユーザーが自分でアバターを作成できる技術の開発です。素晴らしいバーチャルヒューマンを作っている企業は他にもたくさんあり、ビデオゲームでビジュアルエフェクトとして目にすることも多いかとおもいます。

 一般的にこのようなバーチャルヒューマンを作成するには、スタジオでデジタルアーティストが3Dスキャンを使って制作します。そして、良質のアバターを作成するには、非常に強力なマシンが必要で、微調整を行うのに数ヶ月を要します。これでは一般ユーザーが自分でアバターを作ることはできず、スケーラブルでもありません。何より非常にコストがかかります。

Pinscreen創業以来、そして私の長年の研究のなかで、AIを活用したバーチャルヒューマン作成のための技術開発は飛躍的な進展を遂げました。私が考えていたのは、誰でも自分自身の写真を撮って高品質なアバターを生成できるようにすることは、どのようにして可能なのか、ということでした。ZOZOテクノロジーズと最初に会話したときに、バーチャル試着における問題を解決したいということ、そしてユーザーが実店舗に行かずとも試着体験ができるようになることを互いに考えていることがわかりました。家のソファで座りながらでも自分の写真を撮って、自分がクールな服を着用している様子を見ることができるようにするということです。

当初は技術的には未熟でしたが、私たちはすでにそのような開発に着手していました。そしてまず、コンセプト検証やテストを行いました。その段階でもすでに、いくつかのシナジーがあったように思います。私たちのようなテックスタートアップにとって、ビジネスを拡大できるようなパートナーと協働することはとても重要です。
また例えばビデオゲームは、必ずしも完璧にリアルな人間に近づける必要はありませんが、ファッションにおいては必ず写実的な姿にする必要があります。そこに大きなチャンスがあるように感じました。だからこそ私たちは真剣に話し合い、関係を築くところからはじめました。そしてコンセプトの検証から始め、数年に渡るコラボレーションに移行しました。願わくば、ファッションモデルのバーチャル作成を民主化し、バーチャル試着機能を誰もがアクセスできるものにしたいと考えています。

画像: このプロジェクトによって誕生したバーチャルモデル「Drip」
このプロジェクトによって誕生したバーチャルモデル「Drip」

思想を共有したパートナーとして 

髙橋さんにお聞きしたいのが、なぜPinscreenとハオと共に技術開発をリードしていきたいと思ったのでしょうか。
高橋:

まず、ハオもPinscreenも、信じられないほどポジティブであることが挙げられます。このプロジェクトは本当に開発も困難かつ、時間と労力のかかるプロジェクトです。しかし、ハオもPinscreenも、たとえ誰もやったことがないようなチャレンジでも、立ち止まったり躊躇したりしません。そして、意思決定も早い。このように動けることは、とても理想でした。そして、既に最終的なもののアイデアが固まっていたため、開発プロセスが極めてシンプルでした。なんといってもPinscreenは研究開発も行いつつ、同時にプロダクトの構築も行っており、これは他のスタートアップとの大きな違いであるように思います。

Li:

ひとつ付け加えさせてください。以前のミーティングで、次のプロジェクトのゴールや達成すべき目標といった内容について話しおり、そこで「このプロジェクトは不可能なのか?」という質問がありました。それに対する私たちの直感は、「私たちがやるべきだ、そうすれば他の人もできる」といったようなもので、不可能に思われることを実現する最初の人でありたいと思っています。そして、それを達成するためにはハードルを高くするしかありません。
追い求めていることは、誰もまだ成し遂げていない破壊的(disruptive)な技術なのだと思います。私は失敗について考えたことがありません。なぜなら、挑戦をして成功するか、それを通じて学び、その知識をもとに目標を達成することが可能だからです。

Pinscreen にとっては、ZOZOテクノロジーズとのパートナーシップはどういったところが魅力的でしたか?
Li:

ZOZOグループが提供するサービス、そしてZOZOテクノロジーズが良きパートナーだと考える理由は、ZOZOは実店舗を持たず、すべてオンラインで提供するという非常に大胆なビジョンを持っているところです。そして、事業をさらに次のレベルへと押し上げたいと考えている。

このプロジェクトを始める前は、私の住んでいるアメリカではZOZOSUITでしか名前を耳にしたことはありませんでした。これを誰もが使うかどうかは別にして、本当に重要な問題にアプローチしていると思います。店舗に行って試着をせずとも、自分のサイズに合った服を手に入れることができる。手法はどうであれ、現実の問題を解決するために革新的な手法で解決しようとする姿勢こそが、ZOZOテクノロジーズが適切なパートナーであることを示していると感じています。

誰かが何かをするのを待って、それを模倣するのではなく、自分たちは他とは違うことがしたい、自分たちが最初に行いたいと思っている。そして、失敗を恐れない。これはスタートアップでも同様で、スタートアップが成功するための唯一の方法でもあります。

一馬や裕樹がロサンジェルスを訪れた時、彼らは他の日本企業の人とは服装や見た目も異なっていました。そして、とても真っ直ぐで正直でした。「デモを見せてほしい」と言われたので見せた後、即座に的確かつ核心を突く質問をされて、大企業ではあまりいないような、無駄のない迅速な対応だったことが印象的でした。

ソーシャルメディアで「Drip」を展開

では、実際に作られたバーチャルヒューマン「Drip」はTikTokやInstagramなどで展開されていますが、ソーシャルメディアを通じての技術展開についてのどのように考えているか、教えてください。
高橋:

これはまさに技術を民主化することであり、誰もがバーチャルファッションにアクセスできるようにするための始まりに過ぎません。それはまだ、始まったばかりです。私たちが示したのは、スケーラブルなソリューションをもって達成できるクオリティです。専門的な技術がわからなくても、高価な設備がなくとも、ユーザーがこういったアバターを生み出すことができるということを知ってもらいたいと思っています。そして、これを見たみなさんが、「スマートフォンの中でもここまで行えるのなら、バーチャルな世界ではもっと表現できるはずだ」と期待してくれることを願っています。

Li:

これは本当に最初のステップで、ここまで私たちはバーチャルヒューマンを作る前に、バーチャルヒューマンをつくるためのフレームワークを構築していました。そしてユーザーに向けて、バーチャルヒューマンというものをどのように紹介していくかを考えていました。そのひとつの方法は、ユーザーが自分のアバターを作成できるようなアプリを作ることです。

しかし、これには多くの課題がありました。例えば、この完全に自動化されたパイプラインが、私たちの期待しているクオリティを担保できるのかといった点です。一方で、少なくともバーチャルヒューマンを作成する環境があれば、クオリティをコントロールすることは可能となります。

今回、Dripのバーチャルモデルで紹介したかったのは、他とは異なるバーチャルヒューマンの作成手法でした。誰もが見たことのあるようなアバターのような見た目ではありますが、作成手法には大きな違いがあります。私たちの技術を使えば、非常に迅速に作成できるのです。また、ビデオコンテンツも充実させることができます。例えば他社の場合は、写真と数本のビデオしかありませんが、私たちの技術ではアニメーションコンテンツの作成も、これまでの約2倍の速さで可能となります。

この次のステップとなるのは、作成をさらにどれだけ速くできるかです。そこを突き詰めることで、誰もが自分自身のバーチャルヒューマンを作成でき、このTシャツやパンツ、靴の組み合わせを着用している自分を見てみたい、この帽子を被った自分を見てみたいといったニーズを叶え、バーチャルトレンドにおける問題を解決できることでしょう。そこではさらにリアルに感じてもらうため、完全にカスタマイズされたアバターを生成できるフルカスタマイズ機能も必要となってきます。これが私たちの戦略的な道筋です。

なぜ今、TikTokやInstagramがデモンストレーションをする場所なのでしょうか?
高橋:

世界で最も人気のあるプラットホームであり、あなたが何をしているのか、何を着ているのか、どこに行ったのかなど、思い出を共有したり、保存するのに適した場だからです。そしてユーザーに楽しんでもらうためにも、InstagramやTikTokに存在するファッションコミュニティは重要な存在です。

Li:

他にも、バーチャルインフルエンサーが活躍するプラットフォームでもありますね。例えば、成功しているバーチャルインフルエンサーは50万人から200万人のフォロワーを抱えていることもあります。このような状況をみると、バーチャルでも現実世界と同様のことをできる可能性がある、そして、これらは衣服を販売したり、ブランドが広告を打ち出したりするための未来のプラットフォームでもあります。

ZOZOテクノロジーズが印象的であったのは、バーチャルインフルエンサーが将来的に重要であることを認識していたことでした。現在、多くの企業ではAIによるメディア合成を使用して、90%リアルなバーチャルインフルエンサーを作るように予算の大部分を費やしています。私たちはその代わりに、最も効率的な手法でバーチャルモデルを作成することで、市場をリードするためのパイプライン全体を構築しようと先手を打っているとも言えます。

ではプロジェクトの話に戻って、実際にコラボレーションを進めての感想を教えてください。
高橋:

とても良い感じですね。コラボレーションが上手く進んでいる理由は、議論を重ねることで、不可能な事へ挑戦するための力が大きくなり、より自信を持てるようになってきたからであるようにも思います。私たちは、その挑戦はビジネス面や技術面で現実的であるか否かを正直に話し合っています。これはプロセスを合理化する上で、とても重要なことです。

Li:

私たちとZOZOテクノロジーズとの関係は、他のコラボレーションで見るような関係性とは異なるような印象です。テクノロジーとは何か、ここにおけるビジネスチャンスとは何かを探りながら、互いに自分たちが大きなことを成し遂げようとしていること、ゲームチェンジャーであることを確信しています。同時に遅れをとらないように、競合先が何をしているのかをしっかりと把握しています。このインタビューでは明かせないこともあります。

しかし、バーチャルファッションにおいて、どのようにすべてのアセットをデジタル化するか、どのようにすべてのユーザーに向けてカスタマイズを可能とするのかといった問題を解決するための具体的なプランもあります。頻繁に連絡を取り合い、必要であればチームを拡大しています。この奇妙なコラボレーションが生まれたのは、本当に素晴らしいことであると思っています。

この先に描く未来図

では5年後、10年後、今の技術はどのようになっていると思いますか?理想として、この技術は私たちをどこに導いてくれるのでしょうか?
Li:

きっと、「ボタンを押せばバレンシアガのTシャツを着れる」、「LAレイカーズのハットが欲しい」といった会話をしていると思います。この技術を使えば、私たちの想像力を駆使してコンテンツをインタラクティブに作成し、望むものを何でも見ることができ、望むものを何でも3次元的に体験できるようになるでしょう。

おそらく5年以内には、誰もがVRヘッドセットないしはVRグラスを持っているということはないと思います。しかし、10年後には実現しているかもしれません。これから体験するコンテンツでは、InstagramやTikTokで見る動画のように、本物かどうかわからなくなると思います。

そしてユーザーは現実のコンテンツよりも、デジタルコンテンツにより一層興味を持つと思います。なぜなら、デジタルコンテンツは無料で有形ではなく、300ドルの靴のようなものでもありません。数メガバイトの何かであるということです。また、NFTを使った何かがあるかもしれません。Gucciも17ドルのNFTシューズで興味深いことを行っています。そこには、私たちと何らかの関連性もあるかもしれません。デジタルコンテンツの市場は大きく、「Fortnite」や「Call of Duty」といったビデオゲームで見られたように、テクスチャー付きの銃に何百ドル、何千ドルを費やす人がいることもわかっています。同様なことが、これからのデジタルコンテンツでも起こるのではないでしょうか。

高橋:

これは他の業界の変化とも、親和性があると思います。例えば、Netflixは物理的なものからバーチャルなものへ、Spotifyはモノの販売からストリーミング体験へと移行が見られます。もし、NFTを使ってアーキテクト・ファッション・マテリアルと呼ばれるようなバーチャル製品を素早く作り出すことができて、実際にそれを売ることができれば、ファッションECにとっての新しい市場となり得るでしょう。現在ではまだ量産することは難しく、限られた資金の潤沢な企業しか行えていません。しかし、私たちが探究している破壊的なテクノロジーは、誰もがバーチャルな何かを作ることを可能にするものです。ユーザーがバーチャルな世界で自分自身を表現できるようになれば、将来的にこれは現実的に大きなマーケットプレイスとなり得るのではないでしょうか。

Interview by Phillip Scott
Translated by Hanako Hirata

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