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遊び心から新しい領域を導く:スマートテキスタイル開発から見えた可能性

ZOZOグループ初のテキスタイル開発に挑む“Project Foil”。株式会社 細尾ならびに東京大学大学院情報学環 筧康明研究室と共に取り組んだ「機能性と美を両立する新規テキスタイルの開発に関する共同研究」においては、伝統工芸と先端素材およびインタラクション技術を組み合わせた作品が生み出された。現在開催中の成果展示「Ambient Weaving ── 環境と織物」 では、環境温度による色彩の変化、コンピュータ制御による有機ELの発光、紫外線照射による硬化などを用いた、5つの作品が公開されている。
このような新たな領域に挑む研究開発プロジェクトは、どのように実現したのか?そこから見えてきた、スマートテキスタイル開発の課題と可能性とは?今回は、このプロジェクトを率いるZOZOテクノロジーズ・MATRIXの田島康太郎、中丸啓の両名にインタビューを行った。
PROFILE|プロフィール
田島 康太郎

Director、ZOZOテクノロジーズ新規技術開発とその事業化を行うMATRIX部門に所属。素材やデバイスを活用したスマートテキスタイル開発ならびにテーマとしてファッションテックを取り扱うオウンドメディアを統括。

PROFILE|プロフィール
中丸 啓

研究者、ZOZOテクノロジーズ新規技術開発とその事業化を行うMATRIX部門に所属。博士(政策・メディア)。柔らかな機能性素材やデバイスの開発と、それらを活用したインタラクション・UX設計を専門とする。論文や特許など技術領域を軸に、Ars Electronica Festival等での作品展示も展開する。ACM DIS 2019 Best Paperなどを受賞。

挑戦できる環境で何をやるのか

まず、今回のプロジェクトでのそれぞれの役割を教えてください。
中丸今回、3者の共同研究を進めていくにあたり、ZOZOテクノロジーズは織物に機能を付与するためのデバイスや材料の選定、パートナー企業様との交渉を中心に担いました。
私は元々、電子デバイスの研究開発の業務に10年ほど携わっており、素材そのものやそれらを応用したデバイスの開発を行ってきました。また、博士課程では布などの柔らかい素材に多様な認識機能や表出機能を埋め込む研究をしています。今回のプロジェクトメンバーである細尾真孝さん、筧康明准教授とは、特殊な機能を有したテキスタイルを共に開発した経験があります。
田島私は、パートナー選定を経てアライアンスを組むなどのディレクターのような役割を担当しました。
また、前職では中丸と同じメーカーに所属しており、6年間ほど半導体の製造や生産プロセスに携わっていたのですが、織物の構造を細かく見ると、電子デバイスや半導体ととても近いんですよね。初めて株式会社 細尾の工房に訪れた際に細尾さんと「織物はプログラミングの起源だ」という話をしました。そういった意味で、自分の過去の経験が活きた部分もあります。
今回のプロジェクトは、どういった経緯で立ち上げられたのでしょうか?

田島先ほども中丸が述べた通り、もともと中丸が博士課程在籍中に携わった細尾と東京大学のプロジェクトがあり、そこから弊社CINOの金山と共に「美しいスマートテキスタイル」について考え始めました。これまでのスマートテキスタイルは機能に焦点を当てたものが多かったのですが、ZOZOグループらしいスマートテキスタイルを考えたときに、意匠に目を向けた開発は新しい取り組みとなるのではないかと。
事業的な目線も必要なため、どうやってビジネスとして展開していくか、技術をどのように広げていくかを意識しましたね。
中丸スマートテキスタイルは、マーケットレポートですでに約6,000億円規模と言われていて、将来的には2兆円にもなると期待されています。本当にそこまでの規模となるかは疑問もありますが、逆にその不確実性の高いところに挑戦させてくれるような俎上がZOZOテクノロジーズにはあり、せっかくチャレンジできるなら、他とは違うことをやってみたいと思っていました。

テキスタイルだからこそ、という問いへの対峙

では、実際に開発はどのように進められたのでしょうか?
中丸最初は、織れそうで面白そうな素材を可能な限り出してみることから始めました。プロジェクトメンバーで情報収集して共有し、試行錯誤しながら進めていきました。
田島制作を進めるなかで、却下になったアイデアもたくさんありますね。私は当初、スマートテキスタイルやヒューマンコンピューターインタラクション(HCI)の領域は全くわからず、潮流を把握するために論文は数百本は読みました。あとは周囲からの情報収集も積み重ねて、手当たり次第に当たって。
中丸私は、物理信号を光・水・温度といった視点から整理し、その掛け合わせからなる物理現象を書き出し、それに当てはまる材料を考えて「これなら織れるかも」と思ったものを出していくようなこともしましたね。また論文を読み、手付かずの部分を探したりもしていました。
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#Smart Textile
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