1980年代以降、ファッションの文脈においては記号的価値や表象的作用に注目が集まることが多かった。つまり、衣服を身にまとうことによる、自分らしさの表現や、他集団との違いを周囲に見せる「視覚」的な要素が中心的に論じられてきた。
その一方で、ファッションにおいては、肌に合う素材を用いた着心地や、気候に適した素材を用いた快適性など、人々にとっての「触覚」的な価値である「快」も追求されてきている。
たとえば、ユニクロが2013年に「第二の肌」として打ち出した「AIRism(エアリズム)」は、世界中の人々が感じる快適さをグローバルに展開。日本においても馴染み深いアイテムとなっている。
今回は、これまでメディア研究やファッションにおいて、議論の中心ではなかった触覚に注目して、映像研究、情動論などを展開している聖徳大学ラーニングデザインセンター・情報教育センターの難波阿丹准教授に、触覚的価値の意味するところから、ユニクロの特徴まで伺った。
PROFILE|プロフィール
難波 阿丹(なんば あんに)
聖徳大学聖徳ラーニングデザインセンター・情報教育センター(兼任)准教授。慶應義塾大学ほか非常勤講師。学際情報学博士(東京大学)。
主な論文に「拡張する表皮:複数化するスクリーンから透明なインターフェイスへ」『現代思想』2015年5月(単著)。「情動の出来事性:インターフェイス・ライブ性・交感」『情報学環紀要』2017年4月(共著)。「ユニクロのAir-Rhythm:インターフェイシング〈相互調整〉と触覚的価値の再創出」『vanitas 005』2018年3月(単著)。共著書に『ソーシャルメディア・スタディーズ』(北樹出版、2021年)。
「触覚」的価値を刷新したユニクロ
メディア理 論がご専門で、映画研究からスタートした難波先生が、ユニクロ論である『ユニクロのAir-Rhythm インターフェイシング(相互調整)と触覚的価値の再創出』を書いたのは、どんな理由があったのでしょうか。
衣服は、マーシャル・マクルーハンのメディア論にあるように「皮膚」を拡張、外在化したメディウムの一つとして、機能するものだと考えることができます。その意味で、ファッションは皮膚の延長であり、衣服などによって皮膚を書き換えたり、演出したりするわけです。