ラテン語で“雲”を意味するNIMBUSをモデル名に冠した、アシックスの「ゲルニンバス」シリーズ。文字通り、まるで雲の上を走っているような、軽やかでソフトな履き心地を提供し、誕生以来、多くのランナーに支持されてきた。
「ゲルカヤノ」と並び称されるブランドを代表するロングセラーは、特にクッションシューズの市場が大きいヨーロッパ、アメリカでは高い人気を誇っているという。25周年のアニバーサリーイヤーに登場する最新作「ゲルニンバス 25」は、前作からどのような進化を遂げたのだろうか。
「ゲルニンバス」シリーズの優れたクッショニング性能を支えているのは、柔らかなフォーム素材と、踵部に搭載されたクッション素材のGELだが、このGELが大きな進化を遂げた。新素材のPureGEL(ピュアゲル)は、従来素材と比べて約65%柔らかく、約10%軽い。
「ゲルニンバスと他社のクッションシューズとの大きな違いがGELにあるかと思います。近年、ミッドソールに使われるフォーム素材は大きな進化を遂げていますが、やはりフォーム素材をいくら改良しても実現できないクッション性があるんです。
それでも、フォーム素材がますます柔らかく軽くなる中で、GELが変わらなければ、相対的に柔らかさを感じにくくなりますし、搭載するメリットも小さくなってしまいます。今までもGELの硬度の変更はしてきたのですが、今回は新しく開発したPureGELを搭載することになりました」と、開発担当者の小澤圭太さんは言う。
従来比で約65%も柔らかくなった自信のある新素材ならば、今まで通りビジブルにしてアピールしても良さそうだが、内蔵式になっているのには理由がある。
「柔らかさを追求したPureGELは、フォームと接着してビジブルにすることができないぐらい繊細な素材なため、内蔵式になっています。踵直下に搭載しているのですが、履いていただくとそのソフトさを実感してもらえるはずです」
前作「ゲルニンバス 24」のミッドソールはFF BLAST PLUS(エフエフ ブラスト プラス)とFLYTEFOAM(フライトフォーム)でGELを挟む構造だったが、「ゲルニンバス 25」ではミッドソールの全面にFF BLAST PLUS ECO(エフエフ ブラスト プラス エコ)という素材を採用している。
FF BLAST PLUS ECOは、軽量で柔らかく跳ねるように反発するFF BLAST PLUS機能はそのままに、約24%を植物由来に変えた環境配慮がなされたフォーム素材。ミッドソールの厚さ自体も前作より増し、PureGELを搭載したことで、「ゲルニンバス 25」はシリーズ史上最高のクッション性を実現した。
クッション性がそれだけ向上すると、安定性やスムーズな重心移動が損なわれるのではないかと心配される「ゲルニンバス」ファンの方がいるかもしれないが、もちろんそのあたりも十分に配慮されている。
「ソール自体の幅を広くし、受け皿を大きくすることで安定性を確保しています。また、アウトソールの前足部は、従来の分割されたブロック型から一枚仕様に変更しています。
アウトソールを分割する理由は、足の動きに合わせて屈曲しやすくするためなのですが、柔らかく分厚いミッドソールは変形しやすいので、蹴り出しの際にブロックごとの局所的な変形を感じやすくなるという懸念がありました。ゲルニンバス 25のソール材料や仕様においては、スムーズな足運びをサポートし、気持ちよい足抜け感を実現するにはこの形状の方が好ましかったんです」
アッパーには、一枚の生地の中で編み方を変えることで、足の部位によってフィッティング・通気性を適正化するエンジニアードメッシュアッパー構造を採用し、快適な履き心地を提供。加えて、履き口部分とシュータンに柔らかく足あたりの良いニット素材を採用することで、心地よいフィット感を実現している。
「シュータンの伸び具合だけでも何度も調整し、アッパー自体かなりの数の試作を作って辿り着いたものです。気持ちよさを体験していただくために、今できる一番良い形に仕上げることができたのではないかと思います」
ストレッチが効いて柔らかい素材をアッパーに使えば、当然足あたりは心地よく、足にフィットしている感覚も得られるが、着地時や蹴り出し時に足がブレやすくなる。
足のブレは疲労に繋がるので、長時間快適に走るためには抑制しなければならないもの。“本当の快適”を追求するために、素材選びや編み方の調整などの試行錯誤が繰り返されたというわけだ。そして今作は、視覚や触覚に訴える気持ちよさも重視したという。
「クッション性などの機能性が、数値的に前作を上回っているのは確かなのですが、数字を出すだけではなく、見た目からも伝えたいなと。たとえばアッパーの質感もデザイナーと一緒にこだわったところの1つになります。シューズを見て、“柔らかそうだな”とか“履いてみたい”と思ってもらえたら嬉しいですね」
実際に足をシューズに通してみる。踵部に引き手が付いているので、足入れがしやすい。細かい話かもしれないが、シューズの履きやすさはランニングへのハードルを下げてくれる要素の1つ。いくら良いシューズでも、履くのが大変だと敬遠してしまうものだ。
履いてすぐに感じるのはアッパーの ソフトさと、ミッドソールの厚底感。そして足首周辺の心地良いフィットだ。「ゲルカヤノ」シリーズとも共通する部分なのだが、この足首周辺のフィットが、筆者の好みにかなりマッチしている。踵を確実にそして優しくホールドしてくれるため、足とシューズの一体感が感じられ、靴擦れの心配がない。
走り始めると、ソフトな接地感と心地よいクッション感が得られる。お世辞抜きにかなり気持ちがいい。過度な沈み込みやブレがないので、快適に走ることができた。それほどたくさん「ゲルニンバス」シリーズのシューズを履いてきたわけではないが、気持ちよさはシリーズ史上最高なのではないだろうか。
シューズにクッション性を求めるランナー、楽しく快適にランを楽しみたい人に特におすすめしたいシューズだ。
株式会社アシックス パフォーマンスランニングフットウェア統括部 クッションサイロ開発チーム
ゲルニンバスシリーズを中心にアシックスのランニングシューズの開発を手掛けてきた。研究や次世代中長期開発などに携わった経験を活かしながら、より良いモノづくりができるよう日々業務にあたっている。週末はランニングで運動不足を解消しつつ、開発したシューズの感触を確かめている。
https://corp.asics.com/jp
Text by Fumihito Kouzu