Speed、Stability、Safety、Sub4の4つのSをとって名付けられたという「S4(エスフォー)」は、フルマラソンで4時間を切る、いわゆるサブ4を目指すランナーのために開発されたモデルだという。
「METASPEED(メタスピード)」シリーズのエッセンスを取り入れたカーボンプレート搭載シューズは、どのような機能を有しているのだろうか。そして「メタスピード」シリーズや、同じくカーボンプレートを搭載している「MAGIC SPEED(マジックスピード)」との違いはどこにあるのだろうか。
十分な準備期間を設け、しっかりとトレーニングを積んで挑まなければ達成が難しいサブ4。レーシング志向の強い日本ではサブ4を目指して練習に励むランナーが多いようなのだが、「S4」はズバリその目標達成をサポートするためのシューズだ。
熱心なランナーでもあるアシックスの廣田康人社長CEO兼COOが、開発陣に「サブ4用のシューズを作ってくれ」と依頼し、開発がスタートしたことからも、いかに“サブ4”にこだわって作られたものなのかが窺える。
サブ4を達成するためには、スタートからゴールまでイーブンペースで走ったとして、1kmをおよそ5分40秒で走り続けなければならない。それなりのスピードが必要となるのだが、それを支えてくれるのが、カーボンプレートと反発性に優れたフォーム素材だ。
「2層構造のミッドソールの上層部にはメタスピード シリーズにも使われている、軽量で反発性に優れたFF BLAST TURBO(エフエフ ブラスト ターボ)を採用しています。
また、METASPEED EDGE+(メタスピード エッジ プラス)と同様のV字形状で、剛性をサブ4仕様に調整したカーボンプレートを搭載しています。レース後半まで着地から蹴り出しまでの動作が安定して行え、体が前進するのをサポートしてくれるはずです」と、開発を担当した谷垣雄飛さんは言う。
エリートランナーほどの筋力がないサブ4レベルのランナーでも、カーボンプレートの恩恵が受けれるように剛性が調整されているので、プレートのしなりによる助力を感じられるはずだ。
4時間ものランニングを支えるためには、安定性も重要な要素のひとつ。「S4」では、「メタスピード」シリーズと比較すると前足部、踵部ともにソールの底面が広くなっている。その分、接地面積が増え、安定した足運びが可能となる。
また、踵部のラバーを前足部より厚くすることで、接地時の耐摩耗性も高めている。そして、ミッドソール下層部に採用されているFLYTEFOAM(フライトフォーム)も安定性向上の一助となっている。
「テスト履きを見ると、サブ4を目指すレベルのランナーは、踵部分がすり減っているケースが多いことが確認できたことから、後半は踵着地になりやすいと推測し、踵から着地しても安定し、かつスムーズに前方に抜けていけるような構造に至りました。30km以降、疲れてきた場面でも、足を前に出しやすいと感じて頂けると思います」
アッパーに採用されているのは、「メタスピード」シリーズと同じく、軽量で通気性に優れたモーションラップアッパー。シューレースも「メタスピード」シリーズと同様に、走行時に 緩みにくいよう両端に凹凸のあるものが採用されている。細部までしっかりとレーシング仕様となっているのだ。
「メタスピード」シリーズの機能とデザインを引き継ぎつつ、より多くのランナーが活用できる厚底カーボンシューズとして登場したのが、「マジックスピード」シリーズだ。
新たにカーボンシューズを試したいランナーのレース&トレーニング、レースで「メタスピード」シリーズを活用しているランナーのトレーニングに推奨される「マジックスピード 2」も、サブ4を目指すレースに適しているように思える。その違いはどこにあるのだろうか。
「ミッドソールが2層でフルレングスのカーボンプレートを搭載しているという構造自体は似ているのですが、プレートの形状も違いますし、ミッドソールの上層に使用している素材も違います。素材の持つ反発性はS4の方が高く、また踵で着地した際にも反発を得やすい構造になっています。ソール底面の面積もS4の方が広いので、より安定性を感じてもらえるかと思います」
「S4」派か、「マジックスピード 2」派か。履き心地の好みは分かれそうだが、目標がはっきりとサブ4ということならば、「S4」を選んでおけば間違いないということなのだろう。
足を入れて、まず感じたのがモチッとした弾力感。これはおそらく、ミッドソールの上部に使われているFF BLAST TURBOによるものだろう。モーションラップアッパーは薄く、軽量感があり、「ザ・レースシューズ」といった印象。踵周辺はしっかりとホールド感がある。
実際に走ってみると、マイルドで心地よい反発感と、適度なクッション感が得られる。厚底ではあるものの大きなブレはなく、安定性が高い。これならゴールまで足を任せられそうだと思える安心感があった。
「マジックスピード 2」とも比べてみたが、弾力感を強く感じるのは「S4」の方だ。一方「マジックスピード 2」の方が接地感も反発感もシャープな印象で、おそらくサブ4よりも速いペースで走るランナーには「マジックスピード 2」の方が好まれるのではないかと感じた。
筆者は「マジックスピード 2」を初めて履いたときにレースで試してみたいと思ったのだが、実際にフルマラソンを走らなければならないとなったら「S4」を選択しそうだなと感じた。その前にもっと走行距離を増やさなければいけないが……。
サブ4達成を目標にしているランナーには、ぜひ試してもらいたい一足だ。
株式会社アシックス パフォーマンスランニングフットウェア統括部 開発部
主にロードやトレイルランニング用シューズの開発に携わる。自身の担当するシューズが、お客様にとって大切な一足となるよう試行錯誤する日々を送る。休日はランニングやテニスなどを楽しみ、公私ともにスポーツでいっぱいの生活を長く続けたいと願っている。
Text by Fumihito Kouzu