2021.10.15

微生物で分解するという可能性、金澤バイオ研究所の研究開発

ファッション産業の環境負荷をめぐる課題への認識が広まるなかで、多様な方面からサステナビリティへの取り組みが行われている。そのなかでも注目を集めるトピックのひとつが、焼却することなく処分することが可能な生分解素材の使用だ。

こういった素材が広まる一方で、実際に分解するというところを考えていくことも重要となるだろう。土壌微生物を用いて生分解を得意とする研究所に、福岡を拠点とする「金澤バイオ研究所」がある。今回は金澤バイオ研究所の企画担当である金澤聡子さんに、自社の分解できる衣服「DOC」の開発の経緯や、微生物燃焼による生分解への可能性などをめぐってインタビューを行った。

PROFILE|プロフィール
金澤 聡子

東京生まれ。音楽雑誌の編集を経て、フリーランスに。九州大学で微生物の研究をしている父の研究室でアルバイトした経験から微生物の世界に興味を持つ。2007年に立ち上げた「金澤バイオ研究所」で企画を行ない、研究成果を実生活の「衣・食・住」に生かすものづくりを担当。2021年、前職の同僚やJAXAの研究員とともに土に還るウエアブランド「DOC」を立ち上げる。重機の免許を取得し、自社工場で土作りの現場を修行中。

起業のきっかけはバイオハザードフリー堆肥

まず、大学での研究から会社設立に至った経緯について教えてください。

金澤バイオ研究所は、微生物学者の父が大学からのプロジェクトがきっかけで立ち上がりました。父は四半世紀以上の間土壌微生物一筋に研究しているのですが、九州大学時代に「キャンパスゼロエミッションシステム」という医学部と農学部が連携して学内のゴミを循環させるという計画が立ち上がり、そのなかの「九州大学研究拠点形成プロジェクト」にて実際にモノを作ろうという話になりました。通常、製造は外部委託が多いのですが、父の現場一徹主義から大学の付属農場に有機肥料製造工場を作り、「バイオハザードフリー堆肥」作り始めました。研究の傍ら、真っ黒になりながらこだわりの肥料作りをするという(笑)。これが後に漢方処方の有機肥料「土の薬膳」になります。

バイオハザードフリー堆肥ってすごい名前ですが、その名の通り危ないものがない堆肥です。バイオハザートとは大腸菌や病原菌、病害虫、抗生物質耐性菌などのハイリスクな生物群集です。市民の方達に配布したところ評判が良く、大学発ベンチャーをやってみようという話になって会社を立ち上げました。原料調達から製造、販売まですべて行っています。それは2003年当時から今も変わらず、自分たちでのものづくりを大切にしていますね。

これまでは、どういった領域でのプロジェクトを手掛けてきたのでしょうか?

農業分野のほかに、医学部や病院から出るゴミの処分などで医学部と連携をしたり、工学部、薬草の研究で薬学部など、案件によっていろいろな学部と連携していました。企業との共同研究ではサントリーと「天然水の森」の研究者として山に登って土壌調査を担当したり、四国電力と原発の冷却管内に張り付く貝殻の分解の依頼を受けたり、カルビー株式会社とはじゃがいものそうか病の殺菌・除去法を確立したり、コスメ事業や動物のエサなど微生物に関わるあらゆるマターを扱っています。微生物は意外と守備範囲が広く、衣食住に役立つので、様々な業種のクライアントさんのオーダーに研究という形で応えていくという感じです。

分解できる衣服への取り組み

衣服に対する取り組みは分解できる防護服からだということですが、この開発の経緯を教えてください。

もともとは、アパレルや服を手掛けることには自発的ではなかったんです。衣服に取り組むきっかけはJAXAでした。2007年頃に研究室にJAXAの研究者が訪ねて来られて。火星で農業をしたいという内容で、当時父は「地球のことで今は忙しいから」と一度はお断りしたのですが、なんか面白そうだしやってみよう!ということになり共同研究がはじまりました。2011年に東日本大震災が発生し、当時福島入りしていたJAXAの方が「先生の菌で大量に廃棄された防護服を分解処分できるかもしれない」と取り組み始めました。震災時は東レ株式会社さんと開発を進めました。この防護服は土に還るだけでなく、微生物による燃焼マシンで素早く使用済みの防護服を溶かすことができるのが特徴です。医療廃棄物や放射性物質などハイリスクな着用後の防護服をその場で分解できるので廃棄のために動かしたり、焼却処分する必要がありません。

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そしてコロナが発生してからは、土に還りつつウイルスをガードするため、ビニールと同じ機能があるものを探しました。ビニールでありながら土に還る素材というのは難易度が高かったですが、アキレス株式会社さんに辿り着き、JAXA、製造を担当するジンナイ株式会社の方と半年ほどオンラインミーティングを行い商品開発が始まりました。アキレス株式会社さんはゆっくり分解するテキスタイルに関する技術をもっておられました。逆に金澤バイオは高速分解が得意なので、お互いの得意分野を生かしながら次なる技術開発を進めています現在防水かつ生分解の特性を生かし、鳥インフルなど患畜の処理に応用する実験を予定しています。

こういった防護服から、今回タウンユースに向けた製品「DOC」の開発を進められているとのことですが、一般ユーザー向けの衣服に着手した経緯を教えてください。

原発やコロナ対策でハイリスク仕様の防護服を作っていてもなかなか認知されませんでした。環境省や防衛省などにも掛け合ったのですがなかなか現場に届きませんでした。開発したのに動かずモヤモヤしているのを見ていた編集時代の同僚吉岡加奈さんから、完全に防備というよりは、コート羽織って共存できるような服を作ってみようと提案があり「DOC」を立ち上げました。コロナ渦の世の中でも、ウイルスと共存できるようなものを作ろうというのが始まりです。ブランド名「DOC」の由来は、吉岡さんが父のビジュアルとパンク精神が令和のドク博士だよね、ということで命名いたしました。

私は編集業から離れておりましたが、元同僚はファッションやカルチャーのど真ん中の現役なので開発はすんなり進み、デザインは「CYDERHOUSE」の岡本裕治さん、ロゴは阿部周平さんが担当しました。こちらも半年ほどでスムーズに出来上がりました。

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タウンユース向けとしての設計は、どう考えられているのでしょうか?

タウンユース用なので、高い放射性物質やウイルスなどのハイリスクな現場用ではないので、着てすぐ溶かすというような設計にはしておらず、買い物行ったり遊びに行くときに羽織って気楽に使えるように、かつレインコート感覚で着られるようにということを考えました。マシンに入れるとはやく分解しますが、土の中に埋めて大体3年くらいで分解されるものとなっていますね。

防護服から「DOC」を開発されて、服ならではの難しさや課題があれば教えてください。

製造面での課題は、本来なら布の裁断時に機械で一度に何枚も裁断できるんですが、この生地の場合は1枚ずつ手切りでカットするのが大変な作業になりますね。国内ではこういった製造への対応がほとんどなくコスト的に高いこともあり、縫製する場合もマチ針も打てないので難しかったですね。

私たちがアパレル専門ではないので、1万枚単位とかは難しく、ロットの問題が大きくあります。ハイリスク現場用の「バイオかっぽう着」の開発自体は半年でできたのですが、現実に製造するとき小ロットから始めたのでコストが高くつきましたね。ロットや製造の問題については、これからの課題として考えています。

ファッション領域でも、生分解可能な素材を用いているプロダクトが国内外ともに増えてきていますよね。分解を専門にされている金澤バイオさんからみて、普及における課題として感じていることがあれば教えてください。

生分解性の生地はまだコスト的に高く、特に国産の生分解の生地を安定的に供給できるといいですね。また生分解に取り組む企業が増えてきて、微生物燃焼をして欲しいといった依頼も増えてきました。健康な土で畑を作って植物を育てて生地を作ってください、と逆にお願いしているくらいです。土からこだわった生分解性の生地が安定的にできるのが夢のひとつです。

画像: Photo by teppeihoshida
Photo by teppeihoshida

微生物での分解を活用していくために

生分解というとそれだけでメリットがあるように漠然と感じてしまいますが、実際の環境負荷への影響を改めて教えてもらえないでしょうか。

廃棄の面から言うと、ゴミの処分は埋め立てと焼却が一般的でエネルギーの消費が大きいですが、コンポストするとゴミをゴミで終わらせない。微生物が自然発熱するためガソリンや電気も使いませんし、高温発酵するので処理が短期間で発酵が終わり、質の高いオーガニック肥料にすることができます。今の有機肥料は家畜糞尿が原料のものが多く、大腸菌や病原菌や薬づけの家畜が多いので抗生物質耐性菌などの問題もありますが、超高熱発酵菌は80〜90度まで高温となるので、病原菌も死滅させて安全できます。このように廃棄物が完熟有機肥料に変わる、短期間で処分できる、副産品でいい植物ができる、などメリットは多数あります。

さらにはダイオキシンや残農薬も分解できることがわかりました。とてもクリーンにできるんです。たとえば、カルビー株式会社さんから「じゃがいもの表皮にウイルスが付着しているが、なんとか堆肥化したい」というリクエストがあり検証しました。ウイルスは土に入れると再度ウイルスが増殖して広がってしまうのですが、高熱で発酵したところウイルスが元素レベルまで分解して死滅してしまったのです。電気も石油も使わず、微生物の発する熱だけでウイルス性のものも処理できるというのは、人間にとっても大きなメリットになると思います。微生物って目に見えないけれどどれだけ貢献するのだろう?と横で眺めて感じますね。

今後の課題はどういったところにあるのでしょうか?

やはり、こんなに「衣食住」にお役立ちの微生物をもうちょっとしかるべきところに活用してみてほしいなと感じています。土壌汚染や食の安全性の問題、それこそ放射性物質や人の命を脅かすようなウイルス性のハイリスクなものも化石燃料を使わずにクリアできる。

地震の際にコンポストトイレを持ち込んでみましたが、前例がないということで突き返されましたが、今思うと緊急時にさすがにいきなりすぎたなと。自分たちが当たり前と思っているけれど、まだまだ微生物の可能性について伝えられていないと思いますので、もっと発信していかねばと思っています。

普及には、コストパフォーマンスの問題もあるのでしょうか?

それはあるかもしれません。農業分野でいったら、確かに農業資材として高いです。ただ、微生物は化学肥料と違って条件さえ整えば土の中で生きているので、投入して効いて、おしまい、じゃないんです。3年ほど経つと微生物がびっしり広まるので、長期的にみると生産物の質や収量も向上するため結果的に化学肥料よりもコスパがいいんです。ただ、工場見学に来られた方は、酒蔵や味噌の現場のような手の掛け方に驚かれます。天然素材を組み合わせて菌で手作りで熟成させていますから。ハイテクとアナログの融合肥料という感じです。

長いスパンで、循環する構造をつくっていく

分解できるプロダクトが日常的に広まっていくと、私たちのものとの付き合い方がどう変化していくのでしょうか?

今まで微生物の存在を生活の中で意識することがあまりなかったように思うのですが、家庭用コンポストは広がって、これが土に還ったらどうなるのかなと考えるようになったり、家庭菜園で植物を育てはじめると意外と生活が変わってきます。原発当時「衣類を分解する」というのはかなり異端的な考えでしたが、今は「服の分解」が当たり前になりつつある時代になったというのが嬉しく思っています。衣服も分解への意識が広まると、土から生まれる生地に命を感じたり、服を手放すときにワンクッション、何かしら考えるようになるのではないかと思います。

廃棄に出してしまうと自分と切り離して考えてしまいますが、分解されているプロセスを知ると何か変わる気がしますね。

ここのところ残布や衣類の大量廃棄の話をうかがうことや現場を見る機会が多いです。皮をなめす業界の方から連絡があり、廃棄の負担が大きく廃業する会社があると聞きました。レザーとなると生き物を捨てる感じですよね。その会社の方は牛の命を無駄にしたくないという思いで何かしらリユースできないか考えられていました。皮革の廃棄の倉庫を見せてもらったんですが、肌にブツブツがあって商品化されずに倉庫に積み重なっている山を見ると非常に考えさせられました。生まれて殺されて、皮となっても使いものにならずに廃棄されている、もし牛がきちんとしたものを食べて綺麗な肌であればこうならなかったのかなと考えを巡らせました。微生物の力を使うと、廃棄する皮革を分解するのは簡単です。そこから生まれた土で健康な牧草を育てて、健康な牛のエサにできないかなと。

また、リネンのブランドをしている友人とも、土から一緒にやってみたいということでオーガニックの土で植物を育てて、最後には土に還すところまで取り組んでいます。藍染めの原料となる植物を種から育てたり。先日は畑に繁茂するくずを繊維にして織るという、気の遠くなるような地道な作業で生地を作っている方と出会いました。絹とはまた違うツヤのある生地でした。茶畑をしているので、このくずを敵視していたのですが、生地になって見るといきなりお宝に見えたという(笑)。こういったように、長いスパンで捉え、生地の命を循環する構造をつくっていけると、環境にいいのはもちろんですが、純粋に面白い気づきに繋がっていく気がします。様々な素材を土に埋めてタイムカプセルのように掘り起こす計画をしたり、アーティストの方は自分なりの表現をしたいなど、「微生物分解」というお題をそれぞれのセンスで返してくるのを最近楽しんでいます。

周囲の反応や潮流に変化はありますか?

「DOC」を展示会で発表しましたが、土に還るというだけで関心を持っていただけました。内閣府の予算で大学とJAXAの共同研究というお堅いテーマから始まりましたが、きちんと発信をしていけば伝わりますし、生地や環境について考えるきっかけになると思いましたね。靴のブランドを職人さんが工場を見に来られたのですが、、彼は皮という命を預かっているので、ずっと環境のことを考え、皮のニベという廃棄する部分をあえてプロダクトに活用している人でした。そして産業廃棄物に関するプロジェクトを新たに立ち上げられていて、分解担当をすることになりました。こういった形で発信側がきちんと情報を出していったら、新たなものづくりが生まれます。きちんと伝えていくことが大事だなと思いました。

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1つの村のような実証実験が早くできれば

では今後、挑戦してみたい領域やトピックがあれば教えてください。

「DOC」に関して言うと、コートのコストがまだまだ高くて多くの人が入手できる値段ではないので、気軽に使えるようなプロダクトを開発したいと考えています。

衣服以外では、放射性物質で汚染された土壌や水を改善できるような技術を持っているので、現場で何とか実用化してもらいたいという思いはずっとありますね。複数の企業と組んで、カプセルのようなエリアで完全に自給自足できる技術がすでに開発済みで実証実験を待っている状況です。村のような規模での実証実験が早く実現すればと願っています。

住居、災害などに幅広く取り組まれるなかで、ファッション分野は金澤バイオさんにとってどういう位置づけになっているのでしょうか。

土とファッションって一見すると離れたものですが、アパレルの展示会で春夏、秋冬と季節ごとに「土」を発表させてもらったりするなかで意外と「微生物」の世界を違和感なくファッションを通じて伝えられる部分も大きいんです。。個人的に好きだということはもちろんですが、園芸や農業の分野ではやっていることが業界的には異端すぎるのでしょうか、なかなか認知や理解を得ることに苦労してきたので、表現や発信の部分を解決する手段となる、ファッションを通じて伝えられているものは大きい気がします。

またファッションに関するプロジェクトだと、協力してくれる方が勘がいい方や、いい意味で常識に囚われない感性を持っている方が多く、多様なアイデアで化学反応が起きて。そこから新しいものが生まれてくるのがとても面白いですね。アーティストとインスタレーションのお話もいくつか動いています。今年GINZA SIXで展開している「地下根圏の世界」をテーマにしたウインドゥは、数年前に土の工場を見に来られたデザイナーさんが、父が話をした「土の中の世界観」を再現されたものでした。私も当時同席して話を聞いていましたが、その話からアニメーションを含むこの世界観がを作る感性に驚きました。

思えばここ数ヶ月で、デニム、毛皮、ラミー、和紙、リネン、綿、ニット、レザー、シートなど、いろいろなタイプの生分解性の生地のブランドやメーカーさんからコンタクトがありました。面白かったのが、分解するにあたって「環境のことを考えているならば、他のブランドやメーカーさんとの連携は問題ないですか?」の問いに、皆「同意」という答えだったことです。ライバルとか競争ではなく、異業種が補いあったり協力するいい流れができてきたように思います。「微生物による生分解」が多種多様な業種のハブになって、分解業を進めていければと思います。

土の微生物の世界でも、単一の種類だけでなくバラエティーに飛んだ微生物が存在することが良い土壌の条件です。悪いとされる病原菌が入ってきたとしても、バランスがいい状態ですとその病原菌がエサとなってほかの者の役に立つ。悪役まで他の微生物のエサとなって存在意義があるなんて、深いなあ、と。本当に多種多様な業種の方々と繋がって面白い化学反応をして進んでいる感じが、生物界のハブ(バッファー)の役割をしているのかな?と思うことがあります。宇宙目線でいくと、それそれひとりひとりが何かしらの役割を持って、地球にとって大きな貢献をしているのではないか、と。わけわからない感じですが、私自身でいいますと、たまたま微生物学者の家に生まれ、試行錯誤もかなりありますが、多種多様な方々と繋がり面白い化学反応をしながら進んでいる気がします。

ファッション業界も、サステナブルをよりいろいろな角度やアイデアで自由に楽しむというのが意外と環境改善にとっては近道なような気がするのです。これは実体験からなのですが。難しい生地を料理するデザイナーさんやクリエイターの方、生地や着る消費者も面白がるくらいが実は地球の資源を守ることに繋がるのではないでしょうか。

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#Bio Fashion
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