アメリカ・オレゴン州ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランドの
KEEN(キーン)が、歩くことをより効率的かつ今まで以上に楽しくするウォーキングシューズ、「
WK400(ダブルケーフォーハンドレッド)」をリリース。“歩くこと”にフォーカスし、設計と開発に3年を費やし、8,000km以上に及ぶフィールドテストを経て完成したという。
歩く動作をスムーズにし、効率的に連動運動するKEEN.CURVE(キーンカーブ)テクノロジーとはどのようなものなのか。そして歩くために作られたシューズは、ランニングシューズやタウンユース用のスニーカーとはどう違うのだろうか。
WK400の開発を手掛けたのはキーン創業者の長男であり、ブランドの代表作の1つでもある「
UNEEK(ユニーク)」の生みの親でもある、キーン グローバルイノベーション部門ディレクターのローリー・ファーストJr.氏。スキー事故で大ケガを負い、そのリハビリ中にウォーキングによって気持ちが晴れた経験から、ウォーキングをより楽しいものにし、多くの人にそのポジティブな効果 を実感してもらいたいという思いから靴作りがスタートした。
歩行時に足が描く半径400mmの弧に着目
「何か新しいものを作ろうとか、盛り上がりを見せるウォーキングやランニングの市場に参入しようということが出発点ではなく、自身がウォーキングに救われた経験から、“歩くこと”を掘り下げ、それを快適かつ効率のよいものにするシューズとはどんなものかを追求していったのです」と、キーン・ジャパン マーチャンダイザーの中込敦志さん。
“歩くこと”にフォーカスして開発されたWK400。19,250円(税込)そしてローリー・ファーストJr.氏は、物理学と環境科学の博士号を持つ友人のチーロ・フスコ氏とともに歩行を研究。生体力学的実験室の研究の過程で、人は一定の弧を描いて歩くことを独自に突き止めたのだという。この足の軌道が描く半径400mmの円の弧に着目して開発されたのが、特許出願中のKEEN.CURVEテクノロジーなのである。
半径400mmの弧を描くカーブ(コンスタント・カーブ・ジオメトリー)がキモとなるKEEN.CURVEテクノロジー。カーブを作り上げているのは、高い反発性とクッション性を備えたミッドソールと、高いグリップ力を備えたラバーアウトソール、そしてフルレングスのナイロンプレートだ。
「シューズが半径400mmの円の一部になっているイメージですね。その弧に沿うようにソールが設計されています。世の中には揺りかごの脚のような、いわゆるロッカー構造を採用したランニングシューズやトレーニングシューズがありますが、それらはランニング中の着地から蹴り出しまでの重心移動をスムーズにしようとするものだったり、トレーニングのためにあえて不安定さを作り出すためのものだったりします。同じように見えてコンセプトもカーブの形状も異なっているので、実際に履いて歩いてみると、その違いがわかっていただけるかと思います」
足の軌道が描く半径400mmの円の弧に沿う形状になっている前方へ転がるような新感覚な歩き心地を実現するための機能
近年、特にレース用のランニングシューズには、カーボン、グラスファイバー、TPU、ナイロンなどさまざまな素材のプレートが採用されるようになった。これらはおもに、プレートのしなりを生かして推進力を高めることを目的にしているが、WK400に搭載されているナイロンプレートは、足の動きをガイドするためのもの。「カーブを一定に保ち、足の着地から蹴り出しの動きにおける左右のブレなどを抑制するためのプレートで、ローリング運動のためのガイドラインのようなものです」
つま先と踵部の高低差は約10mmに設計されている。この高低差とロッカー構造により、転がるようにスムーズに前進できる。ラバーアウトソールは、アスファルトはもちろんのこと、オフロードでも高いグリップ力を発揮す るパターンが採用されている。たとえば公園内の不整地や、河川敷などを歩くのにも適している。
クッション性と反発性を両立したミッドソール、足の動きをガイドするためのナイロンプレート、グリップ力に優れたラバーアウトソールを採用また、ラスト(足型)は、WK400のために開発されたアスレチックフィットと呼ばれるタイプを採用。キーン特有のつま先にゆとりを持たせながら足を包み込むようにホールドする形状なのだが、通常のキーンのシューズよりも少々シャープになっている。
アッパーはエンジニ アードメッシュ製。通気性が必要な部分はメッシュの目が大きく、サポート性が必要な部分は目が細かくなっている。
「シューレース部分がセンターからオフセットされているのは、足の甲への圧迫感を緩和しながら、足の甲の形状に沿って快適にフィットするためです。つま先部分などアッパーの一部はTPUでコーティングして耐久性を高めています」
ヒール部分にループが2つあるのは2本の指を使うことによって脱ぎ履きをしやすくするため。細かな部分にも工夫がされている。
シューレースはオフセットされた位置に
オンロードにもオフロードにも対応するアウトソールパターン
踵部にループが2つ付いているシューズを転がそうとすると自然に姿勢が良くなる
実際に足を入れると、まず感じるのはアッパーの適度なフィット感と、ソールの厚底感。しかし一般的な厚底ランニングシューズのようなフカフカとした感覚は強くなく、沈み込みもほとんどない。ランニングとウォーキングを比較すると前者の方が圧倒的に着地時の衝撃が大きい。ウォーキングシューズにはそこまでのクッション性は不必要ゆえ、安定性を重視した設計なのだろう。
既存のウォーキングシューズとは異なる着用感。シューズが転がるような感覚が面白いシューズのカーブ形状を活かして転がすように歩くことを意識すると、おのずと腰高になり、背すじが伸びる。その結果、自然にキビキビとしたウォーキングになるような印象だ。そして、普段ランニングをするときはそれなりに姿勢を意識しているが、移動で歩くときはあまり良い姿勢をとれていないのだなと実感することに。WK400を日常的に使うことで歩行時の姿勢がよくなり、ウォーキングが楽しく快適になるのはもちろんのこと、ランニングにも好影響がありそうだ。
PROFILE|プロフィール
![中込敦志(なかごみあつし)](https://images.microcms-assets.io/assets/1775a3633c8b428d9f011c6a758a8a5c/40e8b562c04645248f59feb8c18cbbdc/WK400%20Fashio%20Tech%20News_profile.jpg?w=400&fm=webp)
中込敦志(なかごみあつし)
キーン・ジャパン マーチャ ンダイザー
2019年 キーン・ジャパン合同会社入社。 前職からの経験を活かし、主にパフォーマンスラインのマーチャンダイジングを担当。 20年近く携わってきたシューズ業界で培った見識を生かし、ブランド初となるウォーキングシューズの立ち上げを国内でリーディング。 写真は一人黙々と繰り返してきたFIT TESTの時のもの。