AIやNFTを活用してアート作品を展開し、業界の最前線で活躍するアーティストの草野絵美。共同創設したクラウドファンディングアニメプロジェクト「新星ギャルバース」は、世界的ヒットをし、また、息子のZombie Zoo KeeperもNFTアーティストとして有名だ。
2023年からAIでの作品制作をスタートし、彼女の作品はWWD JAPANの表紙を飾り、世界でもっとも長い歴史を誇る美術品オークションハウスChristie’s(クリスティーズ)とグッチが共同で開催したNFTオークションに出品されるなど、国内外問わず多くの人を魅了し続けている。
そこで今回は、草野さんに東京都現代美術館で紹介されていた作品の特徴や、AI・NFTを活用して作品を制作する上でのポイント、そして今後の展望を伺った。
PROFILE|プロフィール
草野 絵美(くさの えみ)
1990年生まれ。レトロフューチャリズム、若者文化、最新テクノロジーをテーマに創作活動を行う。東京に生まれ、高校時代に原宿でストリート写真家デビュー、FITミュージアムやヴィクトリア・アンド・アルバート美術館で発表する。AIアートを中心に手がけ、オークションハウス・クリスティーズ、Bright Moments、Unit Londonなど世界中で展示を行う。
はじめに、今回展示された作品の特徴を教えてください。
今回紹介させていただいているのは、審査員を務めた「日テレイマジナリウムアワード」の審査員作品紹介の一部です。私が制作した作品は4つ紹介されていて、テーマは「Neural Fad : AI dreams Nostalgia」。その中からひとつ、今回のテーマにもなっている「Neural Fad」という作品の特徴をご紹介します。
Neural Fadは、私が初めてAIを活用して作ったコレクション作品です。
2023年から、Midjourneyと呼ばれる画像生成AIを使って、架空のファッションヒストリーの画像生成を開始しました。
背景として、私は1990年生まれなのですが、過去にストリート写真を撮っていた際に、1960〜80年代に比べ、現代は特別濃いトレンドが薄れてきているように感じていて、個性的で雑誌をにぎわすような「竹の子族」「フーテン族」「カラス族」といったファッション部族が生まれるような世界観に惹かれるものがありました。
一方で、ネットで過去の世代のファッション画像を検索してもあまり出てこないので、もっと見たいという気持ちから、Midjourneyを使って自身で作り出すことにしました。
生成AIは、膨大なデータを学習し、プロンプト(指示)に対する回答を導き出します。Midjourneyの場合は、学習元が恐らく西洋のものに偏っているため、英語で具体的に指示を出す必要があり、「80年代」「聖子ちゃんカット」といった日本の言葉で指示を出しても、自分がイメージしている画像が生成されないのがポイントです。
Neural Fadは、2023年5月にアメリカのデジタルギャラリーにて100作品販売し、その中でも私が気に入っている写真6枚をプリントして現代美術館に展示させていただきました。プリント作品は味があって、デジタルで見るよりもより写真感があります。
また、受賞作品紹介では、Neural Fadの写真を作って無限にストリート写真が生成される動画作品も上映させていただいております。
AIやNFTを作品づくりに活用するためのTIPS
草野さんの作品に影響を受けて、実際にAI作品を作ってみたいと思う人も多いと思います。そのような読者に対してアドバイスはありますか。
2つあって、ひとつは「とにかく多くの生成して探究してみること」もうひとつは「独自のナラティブを持つこと」が重要だと思っています。1つ目に関して、まずはMidjourneyでもChatGPTでもなんでも良いので、とにかくたくさん生成してみることをおすすめします。自分の見たい景色を何度も生成していくと、自分の作家性に向き合える機会になりますし、AIを成果物としてではなく参考にして、自身で絵を描いてみても良いと思います。
AIに抵抗のある人の中で、「AIで生成すると、みんな同じような作品になってしまうのでは」といった懸念を感じている人も一定数いると思うのですが、プロンプト次第で全然違うアウトプットになるので、良い相談相手としてAIを使ってみると良いでしょう。
もうひとつは「独自のナラティブを持つこと」が重要で、AIは特にトレンドのスパンが短いため、新しい技術を使ったAI作品はすぐに模倣され、古いものとなってしまいます。アーティストとして息長く活動したいのであれば、「自分の物語をいかに伝えるか」がポイントとなると思っていて、技術的なトレンドを追うだけでなく、自身のコンセプトは何かを見つめ直して生成していくことをおすすめします。
草野さんはNFT活 用においても最前線を走っている印象を受けますが、NFT活用のポイントや注意点を教えていただけますか。
まず大前提、NFTが乗っかっているブロックチェーン自体はインフラであり、「インターネット」と同じような大きな括りのものであることを認識する必要があると思っています。具体的には、私が立ち上げたNFT「新星ギャルバース」はコミュニティの特典等を付与しているためユーティリティ(実用性)があるクラウドファンディングプロジェクトであるのに対し、直近で力を入れているアート作品のNFTにはユーティリティがなく、アートとしての要素が強いものです。このようにNFTには、会員制チケット、クラウドファンディング、ファッションブランド、アート作品、トークンといったさまざまな用途や活用方法があり、「NFT」を一緒くたに捉えてしまうと誤った活用をしてしまう可能性が出てきます。
NFTは、ジャンルや時代の流れによっても売り方が大きく変わってくるため、解像度高く認識するのが難しく、そのため、参入できていない人や活用に失敗してしまう人が出てきてしまうのではないでしょうか。
自分が理想とする動きをしている人をロールモデルとして追っていき、NFTに対する自らの認識を高めていくことが、NFTを正しく活用する近道になるのではないかと思います。
AIやNFTなどの最新テクノロジーを活用して、今後はどのような作品を作りたいと思っていますか。
これまでAIを活用した作品をたくさん作ってきたのですが、今後もさまざまなことに挑戦したいと思っていて、特に「コーディング」で作品を作ることに興味を持ち制作を進めています。海外ではArt Blocksと呼ばれるジェネラティブアート(コンピューターのコードを使って自動的に作られるアート)を展開するプラットフォーム兼キュレーションコミュニティがあるのですが、代表的なコレクションのひとつである「Chromie Squiggle」は、約3億円で取り引きされたこともあります。
2月28日に、そのArt Blocksの最高峰であるCuratedという レベールから「Melancholic Magical Girl」というタイトルのジェネラティブアート作品をリリースさせていただきました。おかげさまで開始50分で300作品が完売することができました。