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2022.10.21

「ウェアラブルデバイスを人生の相棒に」 ミツフジが開発した“糸の顔をした金属” AGpossの可能性

今や、私たちの身の回りに当然のように溢れているウェアラブルデバイス。1956年に創業し、西陣帯工場を祖業とする京都の老舗企業であるミツフジ株式会社は、ウェアラブル事業に早くから取り組んできた企業でもある。
 
事業の中心を担ってきたのが、銀メッキ導電性繊維「AGposs(エージーポス)」だ。導電性に優れた銀繊維を生体情報が取得できるセンサーとして応用することで、着るだけで体の状態が分かるスマートウェアを生み出し、独自技術で正確なバイタルデータを取得・解析するシステムの開発にも力を入れてきた。
 
そのAGpossが今回、住友ベークライト株式会社が開発した高引き裂き耐性シリコーンゴム「DuraQ®」との組み合わせにより体動ノイズを大幅に減少できるウェアラブルセンサーとして更なる進化を遂げ、胸ベルト型心拍センサー「MITSUFUjI 01(ミツフジゼロイチ)」を今月販売開始した。AGpossはどのような進化を遂げ、その背景にはどのような課題があったのか、そしてウェアラブルデバイスが可能にする未来とは。開発を手がける三寺さんと広報の蒲生さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
三寺 秀幸

ミツフジ株式会社 AGposs責任者
1995年、三ツ冨士繊維工業株式会社(現ミツフジ株式会社)入社、生産管理部門配属。以降銀メッキ導電性繊維の研究開発に従事し、導電性のスペック向上に貢献。IEC TC124E-textile専門委員。

PROFILE|プロフィール
蒲生 瑞木

ミツフジ株式会社 広報室長
2016年入社

銀への着目とその性能

はじめに、ミツフジ株式会社の概要について教えてください
蒲生弊社は1956年に西陣織工場として創業し、現在は京都本社、東京オフィス、福島工場の3拠点で事業を行っております。繊維産業、着物産業の空洞化や、業界全体の厳しい状況のなかで事業転換をはかり、1990年代から銀メッキ導電性繊維AGpossの販売を開始しました。AGpossはナイロンを芯材に独自技術で銀を被膜しており、銀特有の性質である抗菌防臭・保湿・保温などの優れた効果を保有しながら、繊維としての柔らかさや風合いを残した素材で、伸縮性・洗濯耐久性も兼ね備えた高機能性繊維です。宇宙飛行士の下着素材としても採用された実績があります。
もう1つ、AGpossの特徴は導電性(電気を通す性質)です。2014年からこの導電性を活かしセンサーとして活用することで、着るだけで体の状態が可視化できるウェアラブル製品の開発にシフトし、IoTソリューション「hamon(ハモン)」を2016年に発表しました。
 
hamonとは、日常生活の中で連続した正確なバイタルデータをウェアラブルデバイスから取得し、独自のアルゴリズムで心拍、ストレス、暑熱リスクなどの体の状態を可視化し、様々な社会課題の解決を目指すサービスです。ウェアラブルデバイスはスマートウェア、胸ベルト型心拍センサー、リストバンドタイプ、スマートウォッチタイプがあり、主に建設業などの過酷な環境下で働く従業員の体調管理、保育園での午睡時の見守り、自治体での高齢者の見守り、スポーツジムでのコンディション管理などにご活用いただいています。
 
弊社は「生体情報で人間の未知を編みとく」という企業スローガンを掲げています。AGpossのセンシングを用いた製品開発を行うことで、連続した正確なバイタルデータ(生体情報)を取得できるからこそ様々なアルゴリズムを開発することができ、そのデータを分析することで、これまでわからなかった体の状態を可視化したり、体調変化を予知できる製品開発に注力しています。
そもそもAGpossはどのように開発・活用されてきたのか、その流れについて教えてください
三寺弊社は、繊維産業が斜陽化する中で機能的な素材で勝負する方針にしました。そこで1994年から銀メッキ導電性繊維の開発をはじめ、主力製品となっていきました。当時、携帯電話は第二世代(2G)という、いわゆるガラパゴスケータイ以前の時代で、いくつかの企業が電磁波シールド素材の開発に取り組んでいて、その材料として我々の銀メッキ導電性繊維が応用されました。当時から2002年までのAGpossの主な活用方法は電磁波シールド素材としての使用が多く、やがて抗菌素材としても応用されていきました。
 
AGpossのイメージを一言で言うなら、糸のように使える電線です。それまでの硬い電線は、横に引っ張る力には強いですが折り曲げに弱い性質を持っています。折り曲げに弱いということはポキッと折れてしまうので、ウェアラブル端末などに使うと、折れた線が皮膚に刺さってしまい着用感が非常に悪くなります。こういった背景から、これらの素材はニットや織りなどの標準的な繊維には到底使えないと言われていました。
 
一方AGpossは一本一本の糸が非常に柔らかく、我々は「糸の顔をした金属」と表現しています。つまり、金属糸とかメッキした糸とか銀繊維と言うと、非常に硬い、重たいイメージがあるかもしれませんが、実際には普通の糸と変わらない風合いや柔らかさを持っています。
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