レインウエアで雨をしのいでも、汗で中が蒸れてシャツや肌がべたつき、不快な思いをしたことはないだろうか。水濡れにも汗蒸れにも強い3層構造を採用し、撥水性・防水性・透湿性が高くアウトドアでも日常でもフル活用できる「BERGTECH EX(ベルグテックEX)」の機能について、ミズノ株式会社でレインウエアの企画を担当する山本晋司さんに話を聞いた。
山の天気は変わりやすいというが、昨今は街の天気も変わりやすく、激しい風雨に見舞われて傘では対処しがたいことが多い。雨水を通さず汗の湿気で身体を濡らさないレインウエアは強い味方になってくれるが、そもそも3層構造にはどんなメリットがあるのだろうか?
「3層で1枚の生地なので見た目に層が重なっている感じはしないと思いますが、1着のレインウエアの表地、中間層、裏地にそれぞれ機能を持たせてあります。表地は雨をはじく撥水加工の層で、『ベルグテックEX』が優れているのは洗濯耐久性の高さです。通常、耐久撥水と呼ばれるのは20回の洗濯テストに耐える『20洗撥水』なのですが、『ベルグテックEX』は『100洗撥水』という最高ランクの撥水性を持ちます」
洗濯テストの耐久性と、実着での耐久性はイコールではない。リアルな使用では汚れも生じるし、摩擦の影響だってある。とはいえスポーツ用品の「撥水性」が5回程度の洗濯耐久性を指し、アウトドア用品の「耐久撥水」が20回程度であることを踏まえると「ベルグテックEX」が100回程度の洗濯耐久性を有する事実はすごい。
「蓮の葉を想像してください。葉の上で水が転がるのは、微細な繊毛が葉に生えていてその毛の上を水が転がるんです。毛が倒れたり、毛のあいだにホコリがたまったりすると水をはじかなくなる。撥水加工はこれに似ていて、撥水基という粒子を表地の上に立たせて水をはじきます。目に見えない撥水基が倒れたり、激しい雨に見舞われたりするとレインウエアの上を転がる水分が生地に届きます」
表地を通過する水分の侵入を食い止めるのが、アウトドア用品の世界で「メンブレン」と呼ばれる中間層の防水性だと、山本さんは解説する。
「表地に染みた水分が衣服内に到達しないようにする防水性が、中間層の第一の役割です。第二の役割は、着用者の発汗で生じる衣服内の蒸気を外に送り出す透湿性です。レインウエアの中間層にはさまざまな素材が用いられますが、その防水性・透湿性の差がレインウエアの性能を左右します。『ベルグテックEX』の中間層は、防水性については耐水圧約30,000mm以上、透湿性については約16,000g/m2/24hです」
耐水圧約30,000mm以上とは、1cm2の円柱の下に生地を張って円柱に水を注いだとき、30mの高さまで水を入れても円柱の下に水が漏れない防水性を示す数値。また透湿性の約16,000g/m2/24hとは、24時間で1m2あたり湿気を外に逃がす量の数値で、それが約16,000g(およそ16リットルの水分)ということ。防水性・透湿性いずれも高い。
「高い防水性と透湿性を持っている生地も、たとえば夏の山歩きでTシャツにレインウエアを羽織る場合など、腕に生地がへばりついて不快感につながります。中間層の防水膜に衣服が直に触れるのも不快感の原因になります。そこで3層構造の内側、裏地にメッシュ状の素材を用いることで内側のサラサラ感が得られ、快適に過ごせます」
2層、2.5層のレインウエアも市場に多く出回っているが、3層構造のレインウエアは内側の快適さが長所だという。中間層の透湿性が皮脂汚れで低下するのを防ぐ効果も、3層構造なら得られる。
ミズノは野球用品からスタートし、トップアスリートはもちろん野球を楽しむ層を広げてスポーツ振興に努め続けるメーカーだ。山登りもまた同様で、山岳ガイドなどの登山のプロだけでなく、年に一度(または一生に一度)富士山や屋久島の山歩きにチャレンジするエントリーユーザーにも必要十分な機能をリーズナブルに提供する努力をしている。
「3層構造のレインウエアは『ベルグテックEX』以外にも市場に存在していますが、同クラスの機能を持つ製品が同程度の価格で入手できるかというと難しく、数万円かかるようです。弊社のスタッフが調査した結果、2万円を切る『ベルグテックEX』の着用率が富士山でも屋久島でも40%を超えていたのは、機能と価格の両方が魅力だからではないでしょうか」
付属の収納袋は、屋外でレインウエアを出し入れしやすいように、やや大きめに作られている。また、袋を使わなくても濡れたレインウエアを携行しやすいように、フード内にウエア上下を収納できる工夫も凝らしてある。実用的な親切設計も、着用率の高さの秘密かもしれない。
ちなみに、レインウエアの表地の撥水性が低下してきたときはホコリや汚れを落とし、手洗いした後、生地を適温で温めると撥水基が再び立って水をはじくようになると山本さんが教えてくれた。当て布をして低温のアイロンをかけたり、少し離してドライアーをかけたりすると有効だという。
ミズノ株式会社 ライフ&ヘルス事業部企画マーケティング部
ウインタースポーツの企画、デザイン業務を長く務めた後、現在はレインウエアを含むライフスタイルウエアの企画を担当。スポーツとアクティビティが趣味の実践派。
Text by Naoki Sakata