2022.09.22

「普段履き」はできない “踵がないシューズ” ミズノ「WAVE DUEL PRO(ウエーブデュエルプロ)」

トップアスリートが薄底で軽量のランニングシューズを履くという常識は5年前に覆され、現在はカーボンプレートを搭載した厚底シューズがエリートランナーに選ばれている。メーカー間の開発競争も激化する中、ミズノが打ち出した新作は“踵がないランニングシューズ”。フォアフット走法にフォーカスしたという大胆かつ斬新なニューモデルはどのようにして誕生したのか。そしてランナーはどんな恩恵が得られるのか。

既存のランニングシューズと全く異なることは一目瞭然。ハイヒールのようなシルエットでありながら、ヒール部分がなく、踵が宙に浮いている。ウエーブデュエルプロは、ランナーでなくとも履いてみたくなる大胆なデザインだ。

「既成概念に縛られることなく、人類をいかに速く走らせるかをテーマにし、ゼロベースでランニングシューズ作りを考え直しました」とミズノで陸上シューズの企画を担当している松木直人さんは言う。

スピードを追求し、フォアフットランニングにフォーカス

人が速く走るために、シューズに求められる機能とは一体どんなものだろうか。軽量であること、足にフィットすること、大きなエネルギーリターンが得られること。この3つは一般的にランニングシューズに求められるもので、既存のシューズも追求している要素だ。これらに加えてミズノが着目したのがフォアフットランニング。フォアフットランニングとは、前足部から中足部で着地する走法のこと。踵から着地し前足部へと抜けていくヒールストライク走法と比較して、より速く走ることができると言われ、トップランナーの多くはマラソンのような長い距離でもフォアフットランニングで走っている。

画像: フォアフットランニングにフォーカスした結果、踵がなくなった
フォアフットランニングにフォーカスした結果、踵がなくなった

「フォアフットランニングは効率が良い一方で選手によっては負荷が大きい側面もあります。しかし、その負荷を軽減しながら、フォアフット走法のメリットを享受できれば、アスリートの役に立てるのではないかと考えました」

スピードの追求と、フォアフットへのフォーカス。その結果、生まれたのが、踵のないランニングシューズなのだ。

短距離用のスパイクが踵のないシューズのベース

「シューズ作りの出発点となったのは、短距離用の陸上スパイクです。人類を最速で走らせる短距離スパイクを、長距離用にアジャストするという考えが開発のベースにありました」

短距離のスピードでフルマラソンなんて! と感じる方もいるかもしれないがが、世界のトップレベルで戦う場合、マラソンでもかなりのスピードが必要になる。男子マラソンの世界記録は2時間1分39秒。100mを約17.3秒、時速約20.8kmというペースで走らなければならないタイムなのだ。

フォアフット走法をサポートし、効率の良いランニングを実現するために開発されたのが、SMOOTH SPEED ASSIST(スムーズ スピード アシスト)という機能。SMOOTH SPEED ASSISTとは、大きく3つの要素からなるソール形状のこと。まず、前足部はフォアフット接地時に自然な角度になるようなカーブを描いており、十分な足幅が確保されている。中足部は拡張され、接地時に安定しながら大きなエネルギーリターンが得られるようになっている。そして踵部分を大胆にカットすることで、自然なフォアフット接地をサポートする。

画像: 接地面である中足部が拡張されているので、接地は安定し、エネルギーリターンも大きい
接地面である中足部が拡張されているので、接地は安定し、エネルギーリターンも大きい

「既存のランニングシューズの場合、フォアフットで着地した際に重力によって踵が下がり、これをふくらはぎ周辺の筋肉で支えて前進する形になります。SMOOTH SPEED ASSISTには、このときのふくらはぎ周辺の筋肉の負担を軽減する効果があります」

ミッドソールには、ミズノの従来素材と比べて柔らかさが約22%、反発性が約35%向上しているMIZUNO ENERZY LITE(ミズノ エナジー ライト)を採用。またミッドソール内部にはナイロン素材をカーボン繊維で強化したプレート、MIZUNO WAVE(ミズノウエーブ)を搭載。これらもフォアフットランニングで走り続けることをサポートしてくれる。

ランニングのフォーム作りにも適したシューズ

あまりにも尖った仕様のシューズ故、開発中、テストランナーの間でも賛否はあったとのこと。しかし、あるテストランナーからの声を聞いたとき、方向性に間違いがないと思えたという。

「このシューズに慣れて履きこなせるようになったら、昔のシューズに戻れなくなったという声を頂いたときに、既存のシューズにはない価値を提供できる、アスリートのパフォーマンスを引き上げるのに役立てるという自信が持てました」

既にウエーブデュエルプロをトレーニングに取り入れているアスリートからも「確かにフォアフットで走りやすい」「フォアフットで走っていても脚が最後まで残る」といったポジティブな感想をもらっているそうだ。

筆者も実際にウエーブデュエルプロで走ってみた。足を通して立ち上がると自ずとつま先立ち状態になり、姿勢は少し前傾になる。踵を着こうとすれば腰が落ち着かなくなり、窮屈な姿勢になる。普段履きには全く適していない。

走り始めると、当然、フォアフットランニングになる。そして走っている間は踵がないことが気にならない。筆者はそもそもフォアフットランナーではなく、走力もないので、この状態で走り続けるのは難しいのだが、スピードを出すためのフォーム作りや、フォアフットランニングを身につけるためのトレーニングにとても良いシューズなのではないかという印象を持った。

ある指導者からは「短距離選手のウォーミングアップにとても良い」という声もあったというから、フォアフットでの接地感覚を養うのにはとても良いシューズなのだろう。

SMOOTH SPEED ASSISTを備えたシューズは、ウエーブデュエルプロとウエーブデュエルプロ QTR(クォーター)の2種類。QTRの方がミッドソールが薄く、接地感がある。昨今のトレンドであるハイクッションの厚底シューズに近いのはプロの方で、SMOOTH SPEED ASSISTの機能をより強く感じられる。

画像: ミッドソールの素材や、プレートを搭載している点は同じだが、QTRの方がミッドソールが薄い。
ミッドソールの素材や、プレートを搭載している点は同じだが、QTRの方がミッドソールが薄い。

もっとスピードがほしい、フォアフット走法を身につけたい。そんなランナーの方は、ぜひ一度足を通してみてほしい。

PROFILE|プロフィール
松木直人(まつき なおと)
松木直人(まつき なおと)

ミズノ株式会社。営業部、営業統括部を経て、グローバルフットウェアプロダクト本部(陸上シューズ企画)に。中学〜高校の6年間、陸上競技に打ち込む。大学時は競技から離れるが、社会人になってから競技復帰。2021年には全日本実業団ハーフマラソンに出場(1時間12分52秒)。

Text by Fumihito Kouzu

LINEでシェアする