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2023.01.20

歴史ある日本の工具メーカーが新たに立ち上げた、注目のアウトドアナイフの機能美に迫る

日進月歩で進化するスポーツ&アウトドアのテクノロジー。アクティビティや屋外で過ごすリラックス時間をより便利で快適なものにしてくれる先進技術だが、伝統や定番が劣勢かというと、もちろん一概にはそうとは言えない。長きにわたり愛されているものやその裏側には、ときにテクノロジーだけでは凌駕することのできない大切なものが見えることがある。
まさにそのことを見せつけてくれたのが、今回紹介する「ミュートス ホムラ」のブッシュクラフトナイフ。長年培ってきたものづくりの知識・経験と先進のテクノロジーの融合、そして随所にこだわりが光るこのナイフの魅力について、開発を担当した株式会社小林工具製作所のプロダクトデザイナー・酒井智幸さんにうかがった。

オリジナルブランドだからなし得た、制約と妥協のないものづくり

古くから刃物や金属加工製品の街として知られる新潟県三条市に拠点を置く小林工具製作所は、その名の通り“工具”を中心に手掛ける企業として1963年に創業。約60年にわたりプロ向けのさまざまなツールを手掛けてきたが、社内でのワンストップによる一貫した生産体制とともに、特筆すべきは熱間鍛造と呼ばれる加工技術にある。
「金属には一定温度以上に熱せられると柔らかくなり、歪んでいた結晶が正常な結晶に変化する『再結晶』という特性があります。この再結晶温度以上に熱せられた金属に対して行う鍛造加工のことを『熱間鍛造』といって、素材の強度や靭性を飛躍的に高めることができるんです」
約1,200℃に熱された金属の素材を用いて「型鍛造」と呼ばれる工法で工具や道具類を作ってきた同社だが、現在では堅牢性が求められる自動車部品なども手掛けているという。ただし依頼のほとんどがOEM(依頼を受けて他社ブランドの製品を製造すること)であり、それゆえの葛藤があったとも。
「OEMの場合は、製造工程において何らかの制約が発生してしまいがちです。そのため、『自分たちには本当はもっと良いクオリティの製品が作れるのに』と思う場面も多々ありました。良いものを適正価格で世の中に出していきたい。これって当たり前のようですが、ものづくりの現場からすると実は簡単ではないことなんです」
何ものにも縛られずにものづくりをすること。いわば「自分たちのものづくり」を実現すべく、同社は自社ブランドの発足を決意。そうして誕生したのがアウトドアブランド「Muthos Homura(ミュートス ホムラ)」だ。
ギリシャ語の「神話」と日本語の「炎」を掛け合わせたブランド名には、同社の熱間鍛造の要である炎とともに、焚き火の炎の意味が込められている。2022年に発足し、同年には早くも製品もリリース。この具現化までのスピード感は、一貫した製品管理を行ってきた同社ゆえの賜物とも言える。
「アウトドアにターゲットを絞ったのは自社のものづくりにおける強みが生かせるとともに、これまでのBtoBとは別形態のD2C(Direct to Consumer)も活況なアウトドア関連用品が最適だと考えたからです。また、間接的な費用を排除して高付加価値のものを適正価格でユーザーに届けることができるため、現在はECによる直販のみで商品を展開しています。
ブランド発足からまだ日は浅いですが、自分たちが全力を発揮して“本当に良いものを作る”ことが結果としてユーザーや環境、メーカーのすべてに良い循環を生み出すとすでに実感しております」
何よりも「安物買いの銭失いにはさせない」と話す酒井さん。こうして提供できる「妥協なき本物」を追求して生み出されたのが、ブッシュクラフトナイフ「Prominence(プロミネンス) MH-001」だ。
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