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2022.12.26

試行錯誤の末に花咲いた、超異形中空断面糸「オクタ」の可能性

スポーツやアウトドアウェアのインナーに求められる汗処理機能と、ミドラー(インナーとアウターの間に着るもの)に求められる保温機能を兼ね備えたポリエステル生地「サーモフライ」。これは2021年から海外のアウトドアブランドを中心に採用され始めた注目の機能テキスタイルだが、このパフォーマンスの立役者である超軽量繊維「オクタ」は、実は15年以上も前に開発されていたという。
テクノロジーは使い方ひとつで新たな価値を創造できる、ということの好例であるが、果たして「オクタ」はどのような素材で、どのような経緯を経て脚光を浴びることになったのか。今回は開発元の帝人フロンティア株式会社を訪ね、開発を担当した尾形暢亮さんに話をうかがった。

高機能素材の開発は快適な生活の裾野を広げる

夏は涼しく、冬は暖かく。日頃私たちが着ている一見なんともないカジュアルウェアにも、速乾性や冷感性、保温性や断熱性に優れた機能素材が使われることは当たり前になっている。重いより軽い方がいいし、脆いより丈夫な方がいい。成熟しきった市場で消費者の目は肥え、より快適性を求められているからこそ、マテリアル開発の現場はさらなる高性能素材の開発に奮闘しているわけだ。
帝人フロンティアは、ポリエステルを中心に化学繊維の研究・開発と衣料繊維から産業資材繊維までの原料・テキスタイル、製品の製造・販売を幅広く事業展開するメーカーと商社の機能を併せ持つ、日本のハイブリットカンパニーである。その事業の中でスポーツ向けの高機能繊維を研究・開発し、ファッションやライフスタイル分野にも落とし込んでいるという。
「もともとファッションでは見栄えやデザインが主体になっていたと思うのですが、最近は普段着にも快適性が求められ、スポーツウェアとの境界線が薄くなってきています。
顕著な例で言うと、“アスレジャー”というスポーツスタイルのファッションが浸透してきたことで、国内のセレクトショップでもハイテクウェアがあるのは当たり前になっていますよね。だから、ファッション用途の素材を開発する場合にも、まずハイエンドなスポーツ用途の高機能素材を作って、その後でどうファッションのテキスタイルに落とし込むかを考えるケースが多くなっているんです」
尾形さんによれば、繊維開発と消費者のニーズは切っても切り離せない関係で、時代感も漏れなく反映されるもの。また、近年は化学繊維においても環境対応が基本的な考えとなっているため、それらも欠かすことはできない。
例えばリサイクルポリエステルの使用や、マイクロプラスチックが排出されにくい繊維づくり。そしてリアルファーやレザーをなるべく使わないこと。これらをベースにどれだけパフォーマンスを向上させられるかが、繊維メーカーが評価される焦点となっているのだ。

世界が驚いた、奇妙なタコ足形断面?「オクタ」実用化までの長い道のり 

本記事の主役である機能繊維「オクタ」は、穴のあいた中空糸に8本の突起を放射線状に配列した、タコ足形断面を持つポリエステル繊維。この特殊な形状が空気を含む空間を生み出し、保温性・遮熱性を確保。吸汗速乾性能も向上させた。
また嵩高性かさだかせい(※体積が大きいまま「かさばる」性質)の高い繊維構造となっており、同じ直径のポリエステル繊維にくらべて2分の1程度という圧倒的な軽さも誇っている。
「温度をコントロールすることはとても重要で、夏物では冷却をどうするか、冬物では保温性をどうするかが永遠のテーマです。オクタは生地の中に最大限空気を溜め込める構造に着目し、新しい中空糸を開発しようと15年ほど前に開発されたもの。科学的に検証してみて理論上最も効率の良い形ということで生まれたものが、この変わった断面構造だったんです」
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