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2023.04.05

【対談】貞包英之・林凌 消費社会とファッションはどこへ向かうのか 大量消費? エシカル? それとも、、?

私たちは日々消費をくりかえしつつ生きている。ファッションも、消費の一分野として大きな存在感を持っている。しかし、そもそも消費とは何をさすのだろうかと言われると私たちは言葉に詰まってしまうかもしれない。あまりにも日常的であるが故に、それを改めて語ることには難しさが残る。
そこで今回は、消費社会論を専門とする貞包英之教授(立教大学)と林凌氏(日本学術振興会特別研究員(PD))をお招きし、消費社会におけるファッションの位置付けと展望についてお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
貞包英之
貞包英之

立教大学社会学部教授、専攻は社会学・消費社会論・歴史社会学、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。著書に『地方都市を考える 「消費社会」の先端から』(2015年、花伝社)、『消費は誘惑する:一八、一九世紀日本の消費の歴史社会学』(2015年、青土社)、『サブカルチャーを消費する:20世紀日本における漫画・アニメの歴史社会学』(2021年、玉川大学出版部)、『消費社会を問いなおす』(2023年、筑摩書房)など。

PROFILE|プロフィール
林凌
林凌

日本学術振興会特別研究員(PD)、専門は消費社会論、思想史、流通史。徳島県出身。東京大学大学院学際情報学府博士満期退学、博士(社会情報学)。近年の業績として、『〈消費者〉の誕生――近代日本における消費者主権の系譜と新自由主義』(単著、以文社、2023年5月刊行予定)、『労働と消費の文化社会学――やりがい搾取以降の「批判」を考える』(分担執筆、ナカニシヤ出版、2023年1月刊行)などがある。

消費で社会を考えること

お二人のご研究内容について簡単に教えてください。
貞包私は消費の歴史と現代の具体的な事例について社会学的に考えてきました。たしかに消費は社会学ではよく使われるキーワードの1つです。たとえば、文化現象を研究する際に頻繁に言及され、消費されるコンテンツとそれを消費する人々の階層との結びつきなどがさかんに指摘されています。
このような分析はそれ自体として価値があるのでしょうが、消費を固有の問題として扱っているようにはみえません。たとえばある商品にかんして、どのようにお金を手に入れて、何のために買っているのかを主題的に分析する研究は社会学では少ないように感じます。そこで私は、消費がいかなる人にいかなる条件で可能になり、それがどのように社会を動かしてきたのかについて歴史的に研究してきました。最近では、漫画やアニメなどのコンテンツの消費を例とした本を書いています。
私は「消費者」という言葉を使って人々が何をしてきたのか、「消費者」「消費」という概念がどのように形成されてきたのかを、近代日本を対象に研究してきました。
貞包先生のお話を聞いて、私も社会学においては消費という問題がきちんと考えられてこなかったと思っています。消費という言葉は何にでも使えてしまう。もしくは、消費者という言葉はどういう人にも当てはまってしまうんですね。ある種の残与カテゴリーとして、困ったときに使うようなカテゴリーとして機能しているように感じます。
一方で、消費者や消費という言葉自体が近代社会の産物で、消費者運動にも代表されるように、非常に重要なカテゴリーとして機能してきた面は、社会学においてあまり焦点化されてこなかったように思います。そこで私は「消費者主権」と呼ばれるような、消費者の力が最終的に経済や、社会を動かす上で最も重大な力であるという考え方がいかに生じたのか。そうした歴史を研究しています。
お二人はファッションにどのようなご興味をお持ちですか?
貞包正直に言えば、個人としてはどんな服を着るかにあまり興味を持ってきませんでした。つまりは外見で目立ちたくなかったのですが、そういう人は、たとえば中年男性には多いのではないかと思います。それにも社会学的な根拠はあります。男性の中高年は、ある意味では社会的にパワーがあると認識されているので、ファッションにおいてまで存在感を示す必要はないからです。
基本的に年齢が上がるにつれて、(裁量消費と呼ばれるような)個人が自由に使えるお金は増えていきます。住居もあるし、子供も家を離れていくからお金がかからない。なのでファッションにますますお金が使われても不思議ではないですが、実際のところはそうはなりません。逆にデータを分析すると、ファッションに関心がある人は数としては圧倒的に女性が多く、かつ若年層であるという結果が出ます。
それを踏まえ、消費としてのファッションをどう捉えるか、つまりファッションにどのような魅力があるのか考えていくことが重要になります。私自身の研究では漫画やアニメを取り上げたのですが、それは消費社会のキワにいる子どもという存在を捉えられると考えたからです。子どもは、自分で自由に使えるお金を持っておらず、親の言うことを聞かなければならないという意味で、消費社会においていわば二級市民になっているのです。
ファッションにおいては、こうした子どもたちの次の世代が重要になります。アルバイトなどで働いてお金を稼ぎ、消費社会にはじめて参加しながらも給料は低く、経済的、社会的な力を持っていない層にとって、ファッションは大きな意味を持つということです。大学生とか社会人になりたての若者、とくに女性ですね。このような人々の多くがファッションに関心を持っていて、その点について彼女たちがなぜ、なにをどのように消費しているのかに関心があります。
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