人の肌に優しいだけでなく、環境負荷にも配慮した素材とは何だろうか。
なぜ和紙なのか。そもそも和紙が糸になるのか、洗ったら溶けてしまうのか。いろいろな疑問が出てくるだろう。そこで今回、ディレクターでありチーフデザイナーの中西孝史さんに取材し、同社の日本の伝統技術や文化を生地に落とし込むスタイルについて語っていただいた。
PROFILE|プロフィール
中西 孝史(なかにし たかし)
UNDERSON UNDERSON ディレクター/チーフデザイナー
1996年にプライベートブランドを立ち上げ、16年間プロデューサー兼デザイナーを務める。2012年よりフリーランスとしてコレクションブランドのディレクターなどを務めた後、2019年に「UNDERSON UNDERSON」を始動。
日本伝統素材との出合い
UNDERSON UNDERSONのブランドの成り立ちについて教えてください。
僕たちのブランドを代表する「WASHIFABRIC®」の始まりは、2017年のことです。当時、社内にスポーツラボがあり、靴のアッパー素材として和紙を使ってはどうかという提案がありました。そこから企画が始まったのですが、なかなか形にすることができず、別の商品に応用できないかと考えたのです。和紙の機能を調べてみると、肌着がベストだと気づきました。そこから開発が始まり、2019年にブランドを発足しました。
創業者は株式会社マッシュスタイルラボ代表取締役社長の近藤広幸で、私たちが形にしています。コンセプトは「和紙が作る健やかな肌」。肌が触れるほぼ すべての生地が、和紙になるように設計された特許素材を採用しています。
和紙の機能とは、どういったものなのでしょうか。
消臭や抗菌防臭、吸水速乾・吸放湿性に加えて、帯電防止やUVカット機能などがあります。また、肌との相性も良く、余分な汚れや皮脂を吸着してくれます。このなかで注目したのは吸放湿性です。僕らは「日本家屋の知恵をまとう」と伝えているのですが、障子や襖がちょうど良い湿度に保ってくれるように、生地にも同じ機能を持たせることができました。
日本ならではの素材を見直すことから、「WASHIFABRIC®」の開発が始まったのですね。
僕らが開発した「WASHIFABRIC®」は、ポリエステルの周りを和紙で覆った糸になります。使われている和紙は、厚さが0.2mmで平米10gという非常に薄いもので、これを幅1.2mm、120本にカットしていきます。それを紙管で巻き取ったあと、ポリエステルと一緒に撚りをかけていきます。
和紙なので強度を心配されるかもしれませんが、芯はポリエステルに伸縮性を持たせ、和紙を使っても、化学繊維やコットンと同じように耐久性があります。肌に当たる部分が和紙という、これまでになかった新しい糸ということで、特許素材の登録をしました。
話を伺っていると開発・商品化まで順調だったように思えます。
いえ、開発は本当に大変でした。生地を円筒状に織り込む丸編機を使うと糸切れしたり、横方向にスジが入ったりして、思うような仕上がりにならないことが多々ありました。特に、糸切れの原因は湿度も関係しているので、夏だけしか織れないということになりかねません。そこで保管場所の湿度管理を徹底しました。糸の染色も、出来の悪い糸だと染めムラが出ることもあって、調整が大変でしたね。
ですが、この開発には和紙研究の長年の知見が見事に反映されています。
通常の綿と違い、「WASHIFABRIC®」は職人がつきっきりで管理しなければならず、繊細な子どもを育てているような気持ちになりました。あらゆる工程で手間がかかり、それがコストとして跳ね返ってくるので、そこをどう抑えるかにも頭を悩ませました。