多くの現代人は「疲労」に悩まされている。しっかりと睡眠時間を確保しているはずなのに、どうも疲れが抜けきらない、と感じている人は多いはずだ。良質な睡眠に関するライフスタイル本が出版されると、たちまちベストセラーになるのは、その裏づけと言っていいだろう。
そこで注目したいのが、「リカバリーウェア」と呼ばれる、回復に焦点を当てた衣服である。この「リカバリーウェア」という言葉を最初に考案したのが、株式会社ベネクスだ。いまやスポーツをする人ならおなじみの企業であり、その商品は高い信頼を獲得している。
そこで今回、同社の代表である中村さんに「リカバリーウェア」の誕生秘話、そして「休養」に込めた思いを伺った。
株式会社ベネクス代表取締役
1980年6月14日 神奈川県小田原市生まれ
慶応義塾大学商学部卒業後、コンサルティング会社に入社。同社の運営する有料老人ホ ームの立ち上げ、営業を経て、2005年9月、株式会社ベネクスを設立。東海大学や神奈川県との産学公連携事業により休養時専用の「リカバリーウェア」を開発し、国内のみならず海外にも展開している。ドイツで開催される世界最大級の国際スポーツ用品専門見本市「ISPO」アジアンプロダクト部門では、日本企業初の金賞を受賞。2014年に日本パラリンピックオフィシャルサポーター、2016年11月にドイツ水泳協会のオフィシャルパートナーを務めるなど、次の時代を担う創造企業の代表として、自ら行動・挑戦し続けている。
もともと、介護施設を運営する会社に勤めていました。介護の現場にはさまざまな課題があって、その1つが「床ずれ」です。血流の滞りが原因なのですが、そもそもお年寄りの方は血流が悪く、体圧分散マットレスだけでは根本的な解決にはなりませんでした。
そこで注目したのが、血流をつかさどる自律神経です。自律神経を整えるには交感神経と副交感神経のバランスが重要になってくるのですが、交感神経は朝に日の光を浴びることで優位にすることができます。ところが、リラックスのための副交感神経を積極的に高める方法は、当時ほとんど明らかにされていませんでした。
それならば、それが実現できる機能性を持ったマットレスを作れないかと思い立ち、肌に触れる繊維のレベルから開発しました。
介護施設の展示会に、マットレスとそれに使用した繊維を用いたウェアをサンプルとして持っていきました。すると、スポーツジムで有名なゴールドジムのバイヤーさんが「マットレスよりも、ウェアに興味がある」と声をかけてくださりました。
「本当に効果があるなら、トレーニングをする人のリカバリーに良いのでは?」とおっしゃってくださり、そこから商品開発が始まりました。
我々は、あえて休養を積極的に取るという意味合いも込めて、「リカバリーウェア」を「攻めの休養」と考えています。
心身の健康にとって、「運動・栄養・休養」は重要な要素になります。皆さん、意識して運動されたり、食事に気を使われたりすると思いますが、「休養」については受動的な印象です。運動して疲れたら寝る、といった感じですね。
ですが、アスリートの方は運動強度も頻度も非常に高く、たんに寝るだけでは回復が追いつきません。そこで、睡眠時やくつろぎ時間に効率的に回復するよう手助けができる「リカバリーウェア」の制作に取り組みました。
ナノプラチナをベースとした複数の鉱物を組み合わせたもので、心身がリラックスしやすい環境を整えることを考え抜いた素材になります。このDPV576は特許を取得しており、上質な休養・睡眠をサポートすることに関して、しっかりと認められています。
小さいお子さんをイメージしてほしいのですが、日中は元気でも、夕方になると手足が暖かくなってきて、うとうとし始めるじゃないですか。個人差はありますが、リラックスしていると、そのような状態になります。
ですから、たとえば車を運転する際に眠気を感じると危険ですので、着用しないでくださいとお伝えしています。
運動時も同様ですね。格闘技選手の方がスパーリングをする際に当社のウェアを着用していただいたのですが、集中力が切れてしまうようで、皆さん「怪我をしそうだ」とおっしゃっていました。
なかなか言葉では伝わりづらいですが、一度試着していただけると、その効果に驚かれると思います。
たとえば、縫い目ですね。一般的な衣服は、縫い目が脇の下を通って、体の側面に続いていきます。ところが、その部分の縫い目が体に長時間触れることで、人は無意識のうちにストレスを感じています。
そのため、我々の商品は縫い目の位置を少し前方へずらしています。ちょっとした違いだと思うのですが、それだけでも着心地に大きく影響が出てきます。
こういう細かな点を「休養」という観点から追求しているのは、我々だけではないかなと自負しています。
「よく寝られる」「体がぽかぽかする」「寝起きが良い」、また「心身が緩んでリラックスする」という方もいらっしゃいます。
長年愛用されているお客さまからは、「効果がわからなくなってきた」と相談されることもあります。その場合は、1週間ほど別の衣服を着用されてから、「リカバリーウェア」を再び試していただきます。すると、「やっぱり違う」と納得される方が多いですね。
当時は「リカバリーウェア」という言葉が浸透していなかったので、お客さまに「これがリカバリーウェアです」と言っても、足を止めてもらうことすらできませんでした。
どうにか話を聞いてもらいたいという一心で、「運動中に着てはいけないスポーツウェアです」と紹介していたくらいです。すると面白いことに、興味を持っていただくことが増えました。「スポーツウェアなのに、運動時には着られない」という逆説的なキャッチコピーが利いたのでしょう。
ゴールドジムさんで取り扱いが始まったあとは、すぐさま口コミで広まっていきました。すると、今度はそれを聞いた伊勢丹のバイヤーさんが興味を示してくださり、百貨店での取り扱いが始まりました。
当初はゴルフ売り場に置かれていて、そのことがサラリーマンやビジネス・オーナーの方にも広まるきっかけになったのは大きかったですね。そのおかげもあり、いまでは幅広い客層の方々に手に取っていただけるようになりました。
近年開発した商品ですと、「ヨガウェア」はストレッチ時だけでなく、そのまま睡眠時にもご利用いただけるよう、機能性だけでなく利便性も追求したものになります。ほかにも、アスリートの遠征等の移動中にサポートする「リカバリージャージ」などがあります。
今後いっそう、多くの人にとって「休養」がキーワードになってくるはずです。各々のシーンに応じた商品を開発していき、「攻めの休養」を取り入れてほしいと思います。