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2024.01.29

ファスナー界のリーダー「YKK」のテクノロジー【前編】触感はどこまでデザイン可能か?

服をまとうことが「ファッション」であるとするなら、そもそも素材としての「布」と「服」の違いは何だろうか。
服とは布が「切り分けられ」「縫い合わされ」形作られたものだろうか。
別の観点では、服とは「着脱できるようにした」布だ、とも言えるだろう。襟・袖・ウエスト・裾などの「穴」はそのための最低限の機能のひとつだが、多くの服では「異なる布を留める/外す」というシンプルなテクノロジーによって「服」を成立させている。これを服飾業界では「留め/外し=ファスニング」と呼ぶ。
いわゆるボタン・ファスナー・フック・トグルなどのパーツである。そこにはどんな技術の奥深さがあるのだろうか。
本記事ではファスニングの代表的な企業「YKK」を取材した。年間300万km以上のファスナーを生産する巨大グローバル企業であり、日本の技術力を世界に示し続けているという意味でも偉大な存在だ。
YKKの研究開発部門「テクノロジー・イノベーションセンター」の協力を得て、ジャパンカンパニー嶌田和彦さんのコメントも交えながら、数多くの服に取り付けられているこの小さなパーツに込められた技術をディープに紹介しよう。

ファスナーとは何か

いわゆる「ファスナー」または「ジッパー」は、分解すると3つのパーツからなっている。手に持って動かす部分の「スライダー」、噛み合う歯の部分「エレメント」、そして生地へ取り付ける部分の「テープ」である。「テープ」部分を縫い付けることでファスナーは服のパーツとして機能する。
ファスナーの構造
ファスナーの構造
その発祥は1891年。アメリカの発明家ホイットコム・ジャドソンが「靴ひも」を結ぶ不便さを解消するために開発したものが起源とされることが多い。意外なことに、はじめは「服」のパーツではなく、ファッションアイテムに欠かせないパーツとして普及するようになるには、誕生から数十年を要した。
世界ではじめてジーンズにジッパーフライが採用されたのは1926年、Leeの「101Z」だった。1928年もまた記念碑的な年と言える。 Schottがフロントジップを備えたライダースジャケット「PERFECTO」を発売。「ダブルライダース」の歴史が始まったのだ。

ファスナーにとって「品質」とは?

YKKの創業は1934年。発明も実用化もアメリカでなされた「ファスナー」の分野で日本の企業が世界をリードできた理由は、その技術力と経営手法にある。
YKKの強みは「現地進出」である。海外工場を設立し現地で生産を効率化しながら、アパレルメーカーの要望に徹底的に対応することでシェアを伸ばし続けた。1959年にニュージーランド法人を設立して以降、現在は72ヶ国/地域・67社のグループ会社で事業を展開している。
嶌田さんはこう語る。
「ファスナーは服に組み込まれてはじめて機能を果たす『資材』です。顧客がどんな服にも取り付けやすく・製造しやすいよう要望に応えていく必要があります」
YKKのようなアパレル副資材メーカーにとっては、常にカスタマイズを続け品質を向上していくことが必須だ。強度・耐久性・コストパフォーマンス。なかでも「ファスナーならではの」クオリティ要素がある。それが「摺動(しゅうどう)感」である。

「触感」はどこまでデザインできるか

「摺動感」とは「滑りやすさ・摩擦の少なさ」のこと。YKKおよびファスナー業界では「ファスナーの引き心地・触感」を示す。
「摺動感はJIS規格のような基準があるわけではありませんが、ファスナーの品質として非常に重要です。樹脂や各種金属などの素材や加工方法、テープ、エレメント、スライダーという要素をちょっと変更するだけで、摺動感はまったく違うものになります」
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