イレズミ・タトゥーと聞いて、どのようなイメージを浮かべるだろうか。最近では五輪やインバウンドの需要から、温泉や銭湯での「タトゥーお断り」問題などが浮上したことは記憶に新しい。
現在、イレズミ・タトゥーに対してあまり良い印象を持たない日本人が多いことは容易に想像がつく。その一方で、若者を中心に、ファッション感覚でイレズミ・タトゥーを入れる風潮も広まりを見せている。
これほどまでに意見がはっきりと分かれる文化は、他にないだろう。私たちが持つイレズミ・タトゥー観はどのように形成され、なぜこれほどまでに価値観が異なるものとして受容されてきたのだろうか。今回、イレズミ研究を専門にしている都留文科大学の山本芳美教授に、歴史的な背景と受容のあり方について、お話を伺った。
PROFILE|プロフィール
山本芳美(やまもと・よしみ)
1968年生まれ。都留文科大学教授、文化人類学者
化粧文化研究者ネットワーク世話人、台湾原住民族との交流会相談役
主な著作『イレズミの世界』(河出書房新社、2005年)、『イレズミと日本人』(平凡社、2016年)、『靴づくりの文化史』(稲川實との共著・現代書館・2011年)、最新の共編著は『身体を彫る、世界を印す イレズミ・タトゥーの人類学』(春風社、2022年)。
山本さんのこれまでのご研究の概要を教えてください。
大学生の頃から、からだを文化的に変える「身体変工」に興味がありました。卒論から博論にかけて、イレズミやタトゥーの歴史を研究してきましたが、基本的には植民地支配や移民研究の角度からの歴史人類学的な研究であると考えています。修士課程では、沖縄本島以南の イレズミ調査をおこないました。沖縄の女性には手にイレズミを入れる習慣があったのですが、本土の価値観が沖縄に持ち込まれたことで、少しずつ社会が変化していきます。その力学や過程がどのようなものであり、文化的な影響はどれほどのものだったのかを調査して、修士論文ほか数本の論文を執筆しました。その後、台湾原住民族1の調査や東京の鳶の人々からお話をうかがって博論にまとめました。