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2022.07.05

畑山要介「エシカル消費がもたらすニューノーマルな社会」

最近では、至る所でSDGsという言葉を見聞きするようになり、人々の環境や社会問題への関心が高まっている。そのなかで、今回は「フェアトレード」と「エシカル消費」という概念に注目してみたい。これは、グローバル化や資本主義が加速していく現代において、単に貿易に留まらない社会問題に関わるテーマである。
今回、豊橋技術科学大学の畑山要介さんに、持続可能な社会の実現に向けた消費のあり方についてお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
畑山要介
畑山要介

豊橋技術科学大学総合教育院准教授。2014年、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は社会学(社会学理論、経済社会学、文化社会学)。現代の消費社会とライフスタイルのあり方について研究する。著書に『倫理的市場の経済社会学――自生的秩序とフェアトレード』(2016年、学文社)。

畑山さんのこれまでの研究の概要やご関心を教えて下さい。
私の専門は社会学のなかでも、消費社会論になります。自由にもとづいた社会秩序の形成をテーマにしており、とくに個人の消費と持続可能な社会の関係に注目しています。フェアトレードやエシカル消費を対象として、それらが実際にどのような形で現代社会に普及しつつあるのか、調査を交えながら研究しています。
これまでの研究から、フェアトレードやエシカル消費は個人の自由の抑制ではなく、むしろ自由の追求という側面があるのではないかということが明らかになってきました。フェアトレードに携わる人々は、社会全体の共通の規範や目標のために自らを捧げているわけではなく、農家やメーカー、小売りや消費者などそれぞれに固有の合理性があり、その合理性が変容して結びつきあった結果として持続可能な流通が組織されてきたのです。
社会学のなかには、理論研究や歴史社会学など多用な研究がありますが、畑山さんの研究は理論と実践をつなぐような形の研究になるということですか?
これまで理論研究もしてきましたが、どちらかと言えば学説や理論的知見を応用して現代社会の現象を観察することに主軸を置いてきたと思います。それによって、ある現象に対してこれまでとは違った理解を与え、新たな見方や考え方を提供する。そういう意味では、現象と理論を繋げるという研究をしてきたと言えると思います。
研究をされている「フェアトレード」とは、どのような貿易なのでしょうか。
1980年代頃から使われてきた「フェアトレード」という言葉は、主に途上国の貧しい生産者や劣悪な環境に置かれている生産者に、公正な対価を支払うことで支援する取引を指します。
途上国の生産者は、先進国の大企業の権力や市場の価格変動のもとで長らく弱い立場にありました。フェアトレードは、売り手も買い手も納得でき、かつ市場で維持可能な価格を実現するために、生産や労働環境、取引の透明性の確保や安定した継続的な取引関係の確立を求める動きとして広まってきました。コーヒーや穀物、果実といった農産物をはじめ、綿花や衣服にも広がっています。
もちろん、アンフェアな取引は先進国内でもありますが、歴史的には先進国と途上国との格差や、途上国への開発支援に対する問題意識の上で普及してきた考え方かと思います。
「フェアトレード」については、どのような議論や活動がなされてきたのでしょうか。
フェアトレードは、1940年代に「慈善貿易」というボランティア活動から始まりました。1960年代に途上国と先進国のギャップが問題になると、それを解決する方法として広まっていきます。とくに「連帯貿易」は、資本主義的な貿易とは異なるオルタナティブな流通経路の構築を目指す提携運動・社会運動として展開されていきます。
それを経て1980年代後半になると、フェアトレードを市場流通に乗せていこうとする考えが台頭してきます。この背景には、商品品質があまり良くなく、売れなかった現状がありました。その解決策として「認証ラベル」が登場し、企業やスーパーマーケットといった大衆的な消費市場で販売されることになります。特にフェアトレードラベル機構のFLO認証ラベルが1990年代から2000年代にかけて普及し、日本でも2000年代後半から認知されるようになりました。
ですが、こうした動きは、かつての連帯貿易の志向とは考え方が異なる点もあります。そのため、オルタナティブな市場流通を作ろうとしていた人々からは、「認証制度を用いたマーケットベースのフェアトレードは違うのではないか」という批判が2000年代に出てきて論争になりました。
結果として、連帯型と認証型の2つのタイプのフェアトレードが同時並行して発展することになりました。前者は既存の流通とは異なる形で生産者と消費者の独自のつながりを作り出そうとする考え方、後者は既存の流通をフェアに変革させていこうとする考え方と言っていいと思います。スーパーで売られているFLO認証ラベルが貼られた加工食品から、FLO認証ラベルは貼られていないがNPOや国際協力団体が独自に取引した産品にいたるまで、今では幅広くフェアトレードと呼ばれ、様々な場面で見られるようになってきました。
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#Sustainability
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