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2021.12.13

ソン ヨンア「感情のデザインから探究する、モノの循環やモノへの愛着」

PROFILE|プロフィール
ソン ヨンア/Young ah SEONG
ソン ヨンア/Young ah SEONG

2012年、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学)。
(株)サムソン電子のDMC研究所及び本社デザイン経営センターでのUX Design / UX Strategy 経験を経て、少し先の未来を探究し続けるために東京大学JST川原ERATO万有情報網プロジェクトの特任研究員としてアカデミック分野に復帰。2020年より法政大学デザイン工学部の客員准教授。インタラクションにより変化していく感情体験の理解と新たな価値創出に関する実践的デザインに従事。スタートアップコンサルやメディアアート作品制作も行う。
Innovative Technologies Special Prize 2021, ACM UIST Best Demonstration Award 2020, IEEE Robosoft Best Paper Award 2020, IEEE Robosoft Best Demonstration Award 2019, 日本バーチャルリアリティ学会論文賞, インタラクション2018 インタラクティブ発表賞など受賞。

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エモーショナルデザイン、アフェクティブデザインという領域

まずはソンさんの研究関心、研究領域について教えてください。
私はHCI(Human-Computer Interaction)分野の研究者で、広く捉えるとインタラクションデザインをしています。インタラクションデザインを行う研究者の多くは、コアとなる技術を持っていますが、私はどちらかというと人間に関心の中心があります。技術を応用してプロダクトやインターフェイスを作っていくと、それを使うことで感情や行動に変化が生じる。こういった感情の変化に特化した分野は、あえて定義するならエモーショナルデザイン、アフェクティブデザインといった領域になるかと思います。
アフェクティブデザインの定義は曖昧ですが、アフェクティブコンピューティングという分野をMITの研究者が最初に提唱しています。人間の感情をセンシングしたり、分析するような技術にフォーカスしたものです。エモーショナルザインに関しては、デザイン分野でドナルド・ノーマンが人間の感情への影響に着目していて、私はその両側面からデザインが人間の感情の変化、行動の変化へ与える影響を理解することと、その知見を反映して人々の体験をデザインするインタラクティブシステムやサービスを提案することをしています。
エモーショナルとアフェクティブを厳密に分けると、エモーショナルは何かの刺激によって生じる感情、アフェクティブはそれをより広く捉えて自分が意識してなくても行動を起こしてしまうような、生理的な変化を含みます。日本語だと、情動とも言いますね。
こういった感情のデザインに関心をもつ、きっかけは何だったのでしょうか?
私は技術を中心に研究を展開するタイプではなかったので、色々なところに興味はあるけれど、研究テーマにはかなり悩みました。そういったなかで、好きとか嫌い、嗜好や愛着、そういう感情が人々の気持ちや行動を決めるのに大事だと徐々に気づきました。人間の感情を理解すること、目には見えない人と人との関係の重要性を探究したいと感じていたのですが、もともとの工学系の領域ではこういった人々の興味関心を定義することが難しく、インタラクションデザインやメディアアートという分野に触れるようになってから、インタラクションデザイン分野のシステムの見せ方や参加者の体験を分析していく探究の方法自体がすごく面白いと感じ、この研究分野を開拓していこうと思うようになりました。
これまで、どういったプロジェクトを手掛けられたのでしょうか?
学生時代は、人間感情に深い関係があると言われている「匂い」をセンシング・記録できるライフログシステムを提案し、匂いから生活を理解しようと試みたり、場所に応じて耳当ての「温度」を変えるシステムを提案するで、暖かいと感じるところに人々が集まるようになるアート作品Thermotaxisを提案したりと、人間の感覚を基づく感情や行動変化に着目していました。もっと能動的に「好き」を記録するように行動を促したく、美術館を尋ねた来場者が展示をみている最中に良いと感じる作品のアイコンを好きなだけ押すと、その点数に応じてデザインされた個人別リーフレットがもらえるPeaflet(Personalized Leaflet)も提案したりしました。自分が設計していた通りに人々が行動してくれたり、感情の変化が読み取れるとすごくやりがいを感じました。
その後、民間企業に所属していた際に新規事業の提案を行っていて、社会は資本主義で周っていると感じつつ、お金で表現できない体験価値をどのように伝えられるのかという課題を感じていました。お金ではない価値で、人々に動いてもらうように設計するにはどうしたらいいんだろうと。
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#Sustainability
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